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贈り物

作者: 赤松ぽむ

「ぴっ」コリコリは今日もご機嫌で竜の周りを駆け回っています。

寒い季節が間もなく終わり、花の季節がやって来るからです。コリコリは暖かい陽だまりで 綺麗な花や可愛い花を見るのはもちろん好きですが、柔らかい花びらや、雌しべの奥の甘い蜜を食べるのが大好きなのです。

なので森の奥よりも、陽の光りが当たる 森の中でも浅い所に行こうと竜を誘いました。

いつもなら竜はコリコリの誘いを滅多に断ったりしません。ところが竜は少し何やら考えると首を横に振りゆっくりと森の奥に向かい歩き始めました。

コリコリは竜が自分の提案に乗ってくれない事に驚きましたが、こんな時は必ず何かきちんとした理由があるのが分かっているのでおとなしくついて行く事にしました。



「ぴ?」竜の足取りがゆっくりとしている気がして コリコリが竜によじ登り、眼元を覗き込むと、竜がいつもより少しだけ気だるそうな様子をしているのに気づきました。コリコリはすっかり慌てて、草むらに駆け込むといつも自分が木の実を食べ過ぎた時に食べる、すっきりの草を探して竜の口に押し込もうとしました。いつもなら ちょっと笑って口を開けてくれるのに今日は開けてくれません。コリコリはこれ以上どうしたらいいのか分かりませんでした。


ゆっくりと歩き続ける竜の肩の上で コリコリはしょんぼり座り続けます。



何日もずっとまっすぐ森の奥に向かい歩き続けていた竜の足が ぱたりと止まりました。

「ぴ?」コリコリが竜の眼元を覗くと竜の目には膜がかかった様に光りが見えません。

「ぴいいっ!」コリコリは悲鳴を上げると竜から転げ落ちてしまいました。慌てて側に駆け寄ると竜は全く動かなくなっていました。いつの間にか体の色もくすんでいます。


コリコリは前に見た、もう歳老いて動けなくなったとかげを思い出しました。

いやいやそんなことはない。だって、竜はとかげなんかよりずっと大きくて、強くて、立派で、格好良くて、優しくて、でもちょっと気が弱くなる時もあったりして、・・・とにかくとかげの様になったりしない!

コリコリは竜の側に座り込むと大事な相棒を守ることにしました。


一日経ち、三日経ち、五日経ちましたが竜は固まったままです。その間コリコリは竜に落ちて来た枯葉を除けたり這い上がろうとする虫を追い払ったりしていました。


十日経つ頃にはコリコリもそんな日々にも慣れてきました。でも夜になると、竜の喉の奥から出てくる優しい声が聞けないのがとても寂しく感じられました。


その夜もコリコリはとても寂しくて竜の足の爪にそっと前足を乗せました。

すると竜の爪が震えています。コリコリははっとして竜を見上げると、竜の体全体が震えている様です。

じっと見つめているとやがて竜の体から細かい欠片が落ちて来ます。欠片はどんどん落ちて小山の様になりました。竜が崩れてしまった!コリコリが駆け寄るとそこには深緑色のぴかぴかの竜が座っています。

「ぴいっ」コリコリは嬉しくて嬉しくて泣きそうになりました。


「花」竜がそう言うと小山になっていた竜の欠片が光り始めました。良く見ると小さな小さな何かが欠片を食べている様です。あんなにあった欠片があっという間に消えていきます。コリコリがぽかんとしていると今度は「小さな何かの光り」がぱあっと明るくなり眩しくて何も見えなくなりました。

コリコリが目をこしこしすると、小山のあった処にはそれは綺麗な花が咲き誇っていました。甘い香りのする柔らかそうな花びらのコリコリの大好きな花です。


竜は時々古い鱗を脱いで体を新しくすること、その間はじっとして動けないこと、脱いだ欠片は精霊達のご馳走であり、欠片のお礼に花を貰ったこと、コリコリに食べてもらいたかったこと、そう説明を受けて納得したものの、コリコリはとても心配で、とても寂しく、もう竜に会えないのかもしれない思ったと少し怒った調子で竜に伝えました。

竜は申し訳なさそうに花を一輪差し出すと、 コリコリも本当に怒っている訳ではないので素直に受け取りました。

受けとってもらえた竜は幸せそうに喉の奥を鳴らしました。


それはコリコリがとても聞きたかった声で花よりもずっと嬉しい贈り物でした。



もちろん花畑もとても美味しくいただきました。


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