お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!
一次創作マストドンにてワンライ
第八回開催は10月28日(土)
お題「ハッピーハロウィン」/カンテラ
10月31日はハロウィンの日です。
皆様の参加をお待ちしております。
#創作版深夜の文字書き60分一本勝負
作業時間
10/24(火)
20:30~21:30
街では賑やかな声がする。今日はハロウィン。仮装した子供達が一軒一軒おうちを回ってお菓子を貰う。ぼくも友達と一緒にお菓子を貰いに行くんだ。
ドアにはジャック・オ・ランタンも飾ったし、あとはみんなを待つだけ。ぼくはシーツを被ったゴーストの格好をして、みんなを今や遅しと待っていた。
――コンコンコン。
控えめなノックの音がした。ぼくは嬉しくなってドアを開けた。が、そこには誰も居ない。不思議に思って周りを見回していると、くすくすと笑い声が聞こえた。
「上だよ上」
ぼくは上を見た。家の屋根に誰か居る。ぼくと同じくらいの子。二階の窓付近でほうきに跨がっていた子は、ふわりと音も無く地面に着地した。
全身黒ずくめ。つばの広いとんがりぼうし。美しいブルネットの髪を一つにまとめて顔の横に流している。少したれ目、でも青い瞳はくりっとして大きく、つんと上を向いた鼻梁には、黄金のそばかすが散っている。大きな口は笑みの形に彩られていた。
ぼくは目を瞬く。この辺りじゃ、見かけない女の子だ。
「ハッピーハロウィン! どう? 楽しんでる?」
女の子は親しげにぼくに話しかけてきた。ぼくは眉を寄せる。
「きみはだれ」
「あたし? あたしは魔女だよ」
魔女、と名乗った女の子はけたけたと笑った。底抜けに明るい笑い声だ。
「そうなんだ、魔女ってもっとしわしわのおばあちゃんかと思ってた」
ぼくが素直な感想を述べると、魔女は笑う。
「さてね、実はあたし、しわしわのおばあちゃんが魔法で変身してるのよ」
そう言って魔女はウィンクする。
「見たとこあんた、まだハロウィンを楽しんでいないみたいだし、あたしと一緒に行こうよ。夜はこれからだよ」
そう言って魔女は僕の手を引いて仮装した街に飛び込んだ。
ドラキュラやゾンビ、映画で流行った怖いピエロに、マミー。街の中はおばけがいっぱい。街中のドアというドアを叩いて、大きな声を張り上げる。
「Trick or Treat!」
「ハッピーハロウィン! まあまあ、小さなゴーストさん、お菓子をあげるからいたずらしないでくださいな」
たくさんのお菓子をおもちゃのバケツいっぱいに貰って、ぼくは笑う。今日は特別な日。子供だけの、子供のためのお祭りだ。
「ああ、楽しいな、毎日がハロウィンだったら良いのにな」
ぼくは独り言ちた。
大人も、子供も、ぼくをいじめる子だって、ハロウィンの日はみんな笑顔なんだ。
「本当に毎日ハロウィンだったら楽しい?」
魔女が目を輝かせた。もちろんさ、とぼくは頷く。
「じゃあ行こう。あんたのような子をあたし達は待っていた」
魔女はそう言うと、片方の指をつまんでパチンと鳴らした。
「ウィル・オー・ウィスプ!」
魔女の呼びかけに、ぽっと光が現れる。いつの間にか魔女が手にしたカンテラに、緑の鬼火を灯して、彼女がぼくの手を引いた。
「ハロウィンの日は常世と現世を繋ぐ。歓迎するよ、ゴースト!」
気付くと、ぼくの姿はほんもののゴーストに変わっていた。シーツが身体にまとわりついて、離れない。ぼくの身体も、手も足も、何もかも。薄っぺらの一枚の布になって、ぼくは浮いていた。
魔女はほうきに跨がると、ふわりと空中に浮いた。
「聞いた事ない? ハロウィンの夜は悪霊達がやって来る。魔女の甘言に惑わされるなって」
ぼくは脳みそまでなくなってしまったから、魔女の言う事はさっぱり分からなかった。おもちゃのバケツいっぱいのお菓子を持って、ぼくは夜を彷徨うゴーストになった。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」