最終話 力
9月5日二話目の投稿になります。
申し訳ないです。
今回で最終話となります。
虫がカイトの間合いに入る。
クラリスは魔法で全員の身体能力を引き上げる。
「つぉら!」
カイトは前回の経験から大きく振りかぶり、渾身の一撃を放つ。
まるでスローモーションでも見ているようにはっきりと僕の目に写った。
あの強固な虫の身体をパンを火で炙ったナイフで切るようにカイトの大剣が真っ二つにする。
「うおっ! っとぉ!」
力を入れすぎていたために逆に体勢を崩しそうになるカイト。
虫はビクッと痙攣するとバキバキっと音を立てながら黒く変色して粉々に砕け散る。
「やるじゃない。バグは胸のところにコアがあるからそれを砕けば今みたいに死ぬわ」
「なんだかよくわからんが、この力がアレば問題ないな」
ワラワラと森から虫が出てくるが、カイトはニヤリと不敵に微笑む。
「無茶しすぎるなよカイト」
「ああ、わかってるよ!」
飛び込んできた虫を空中で袈裟斬りにする。
僕も目の前の虫の前足を叩きつけると、ウソのように簡単に足がへし折れて体制を崩す。
そのまま頭部をかち上げて目の前に顕になったクリスタルのようなコアを撃ち抜く。
コアが砕けると同じように黒化して砕け散る。
「なるほど」
「魔法ももう効くからね、こんな風に!」
ナスティナは魔法の詠唱もなく前に突き出したリング状の武器から風の刃を飛ばす。
刃はいともたやすく虫たちを切り裂いていく。
「大地よ、敵を穿つ槍となれ!」
クラリスも続いて魔法を詠唱する。
正確に胸部のコアを土槍が貫いていく、何体もの虫が塵となって消えていく。
「すごいすごい! やるわね!」
クラリスも褒められて嬉しそうだ。
僕もカイトも襲い掛かってくる虫を蹴散らして、後方の虫をクラリスとナスティナが撃ち抜いていく。
まるで長年のパーティのように次々と敵を葬っていく。
「ラストぉ!!」
カイトが最後の虫を真っ二つにする。
「お疲れ様、あ、言い忘れたけど。コレ、反動強いから覚悟してね」
「……へ?」
鈍い光が消えると同時に、カイトとクラリスはまるで糸が切れた人形のようにその場に、文字通り潰れてしまった。
ミラーウェポンも勝手に収納される。これは結構ヤバイサインだ。
「……カロル……へ、いきなのか……?」
カイトが絞り出すように声を出す。
それで気がつく。僕は、特に変わりない、普通の戦闘後の疲労感と……
「へぇ……こっちの人間で、特性ある人がいるなんて初耳だわ……」
地べたに突っ伏したまま喋っている姿はシュールだ。
「これ、回復魔法とかで回復するの?」
「持ってるならお願いしたいわ、私も含めて、そっちの二人は体力も魔力も底をついてるから……」
「癒やしの水よ、彼の者に再び立ち上がる力を……」
水の初級魔法で作り出した水を3人に振りかける。
キラキラと光りながら身体に吸収されていく。
3回もかけるとやっと身体を起こせるぐらいには回復してくれた。
「また、助けられたなカロル……」
「ありがとう、カロル君」
「ナスティナさんだったよね。助かったけど、こういうことは最初に言ってもらえないと……」
「ごめんごめん、緊急事態だったし時間もなかったし、他に選択肢も無かったでしょ」
「……これ以上街へ近づけられなかったし……悔しいけどその通りだね。
それに、助けて貰ったのに、ごめん」
「あら、カロルはわかってる人間なのね。
それに、私の力にも耐えられる特性……気に入ったわ」
パンパンと服に着いた汚れを払いながら立ち上がる。
疲労から少しよろめくが、きちんと立ち上がり、そしてスッと頭を下げる。
「命を救ってもらってありがとう。カロル、カイト、クラリス」
まっすぐな感謝の気持ちが伝わってくる。
たったその一言で、僕は彼女のことが人間として好きだと感じた。
「えっと……どういたしまして……ナスティナさんは、何者なの?」
「うーん……神人の……親戚的な……そんな感じ?
ごめんね、詳しくは私もよく知らされていないの。
今わかるのは、この世界が危機に瀕していること。
厄災の火種が開放され、ユグドラシルが崩壊したら私達の負け。
先に厄災の星にたどり着き、厄災の現況をどうにかできれば私達の勝ち。
世界の存亡をかけたゲームが始まってしまったってこと」
真剣な話なのはわかるんだけど、あまりにスケールが大きすぎる。
世界の終わり……
「厄災の星への道はあるのか?」
カイトが至って真面目にナスティナに質問している。
カイトの勘がナスティナの話を本当だと判断したなら、僕も信じる。
「8個の遺産をもって世界樹より星への橋がかかる。
そう、『知って』いるわ」
「8個の遺産って、8大ダンジョンの最深部に眠ると言われている……」
クラリスがつぶやくが、俺とカイトはその伝説を多分誰よりも詳しい。
「なーんだ、オレとカロルの夢じゃねーか。
よし、乗った! 俺はその旅に付き合うぜ」
カイトが決めたら、僕は一緒に行くだけだ。
「僕も、よろしくねナスティナさん」
「ナスティでいいわ。よろしくね」
「わ、私も当然行きますよ! カイト君が行くところが私の目的です!」
「クラリスもよろしく。正直助かるわ。
一人だったら途方に暮れていたか、さっきのバグ達に殺されていたかもね」
「そうだ、そのバグってなに?」
「厄災の星からもたらされる向こう側の駒、こちらの駒を食い破るための刺客ね」
「駒か、本当にゲームみたいだな。そんなものに俺達の世界の命数がかけられて、面白くないな」
「でも、僕は昔から少し疑問だった。
人が生き返ったり、このミラーウェポンとか……どうしてこんなものがあるか……」
「ふーん。やっぱりカロルは面白いわね……」
ナスティはいたずらっぽく微笑む。僕は、その笑顔に少し、どきりとした。
こうして、僕は、ナスティと出会った。
それが、長い長い戦いと冒険の日々になることを、僕はなぜか、なんとなく知っていた。
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たくさんの人々に出会い、時には別れもあった。
自らを許せない、そういう別れも……
全ては世界を救うため、彼女の想いを守るため。
僕は、僕たちは、歩み続けた……
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「カイトぉ!! まだ生きてるか!!」
返事はない。
身体が重い。引きずるように足を運び、一歩でも前に進む。
振り絞るように仲間の声を呼ぶ。諦めることができなかった……
「クラリス!! センテナ! コッセ! バイス! 誰か、誰かいないのか!」
返事をするものは誰もいない。
生物の気配など一切感じない、ごうんごうんと機械音のような音だけが無機質に繰り返されている。
星の中心部へと至る道。
僕の長い旅の終着点は、ここになりそうだ……
倒れそうになる身体を必死で支える。
まだ、まだ倒れて眠りにつく訳にはいかない。
自分の体を触れば、ぬるりと自らの血がこんなに出ているのかと驚く。
「はぁ……身体が言うことを聞かないな……魔力も空、まともに歩くことも出来やしない」
呼吸をするだけで凄まじい激痛が襲ってくる。
肋骨は何本か折れている。ただその痛みが、意識を失いかける僕をひっぱたいて起こしてくれる。
出血箇所は何箇所かわからない、皮膚はただれ、焼けたり裂けたりしている。
もう、痛いなんて感情もわからないほどにボロボロだ。
まさに、満身創痍。
それでも、ここにこれた……
「ここが……星の……要……」
廊下が開けた場所に出る。
巨大な球形ドーム状の空間、まっすぐと伸びた通路が中心部の上部へと続いている。
眼下にはグツグツと沸き立つような球体のマグマの塊のような物が浮いている。
その火珠の周囲には魔力によって制御された装置がゴウンゴウンのけたたましい音を上げながら回っている。そこから何らかのエネルギーが外部へと運ばれていることがわかる。
結構な距離があるが、熱いと身体が勘違いしてしまいそうになる程の、エネルギーの波動で空間全体が満たされている。
「はは、ふざけた物があったもんだ。
そりゃ、こんなものがあれば、あれだけ好き放題出来るわけだよ……
これを壊せば……」
僕は懐を探る。
ずっと大切にしていた石、希望の石、最愛の人が命を賭して作り上げた石を握りしめる。
「マルティナ……君との約束、守ったよ……」
その石の淡い光、ほのかな暖かさが握りしめた手のひらから伝わってくる。
優しい、本当に優しい、彼女のようなその力……
僕は最後の力を振り絞り、立ち上がる。
既にヒビだらけ、いつ砕けてもおかしくないほどに疲弊した、僕のバースストーンに、彼女の石をあてがう。
「さぁ、この戦いに、終止符を……
一緒に行こう。マルティナ……」
彼女の石と僕の石が混じり合い、巨大な剣の形へとその身を変化させる。
光の剣、気高く、強く、そして、優しい、彼女のような剣。
僕はその剣を高々と掲げる。
「見てるか皆! 僕は、俺は! ここまで来れた!
今! 全ての戦いが、犠牲が、終わる刻……
願わくば、このような弱き者を弄ぶような児戯が二度と繰り返されんことを!!」
残りの力のすべてを剣に注ぎ込む、魂が吸い取られるような、そんな感覚。
剣は力強く輝きだし、光の螺旋が掲げた天井へと立ち上がる。
ろうそくが消える間際に激しく燃え上がる。
これが、俺の命の最後の炎……
眼下に在る火珠へ向かって、剣を構え、迷うことなく、僕は、飛び降りる。
「勝利の時は、今!! 我が手に!!」
目の前に迫る火珠に剣を突き出す。
強烈な閃光を放ちながら剣が珠に深々と突き刺さる。
溢れ出す閃光とエネルギー、僕の身体は一瞬で消え去ってしまうだろう。
カイト……
クラリス……
センテナ……
コッセ……
バイス……
マルティナ……
俺……やったよ……
激しい閃光の中に、今までの仲間たちとの旅が、思い出が、浮かび上がる。
楽しかった時間、辛かった時間、自身が張り裂けそうになった時、それら全てが今……
報われた……
消え入る意識の中で、俺、カロルの人生は満たされたものだと知った。
「……いい、人生だった……」
こうして、僕の旅は終わった。
真っ白な光の中、彼女が微笑んでいる……そんな気がした……
情けない、力不足でまた作品が中途半端になりました。
ちょっと整理して、またこの作品は作り直します。
終わり方も決めていたので走り出したら、走り方がわからなくなってしまったような感じです。
少し、暴走気味だったので、ちょっと落ち着いてきちんとした形で作品を作ることにします。
申し訳ありませんでした。




