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6話 彗星と厄災の日

「よし! これで全部回収したぞ!」


「うん。23個、余剰はパイにして祝勝会で食べよーぜ」


「頑張って作るね!」


「帰り道の方が危険だからな、油断せずに帰ろう」


 少し日が傾いている。森からは早く出たほうが良い。

 周囲への配慮はしっかりと行いながら帰路へと着く。


「……? なんか、揺れてない?」


「……! 空気が震えている……?」


「何が、索敵範囲を広げるね! ……変ね、周囲から生物の気配が消えている……」


「何かおかしい……走るぞ!」


「うん!」「ああ!」


 僕たちは周囲への警戒よりも早く森から出ることを優先する。

 そして一気に森から飛び出す。


「何だ……あれ!?」


 空を見上げたカイトが驚きの声をあげる。

 僕もカイトが見ている方向を見上げる。そして言葉を亡くす。


 この世界の中心には巨大な大樹が存在する。

 ユグドラシル、生命の樹と呼ばれている。

 おとぎ話では勇者が魔王を封印して、その力を世界に振りまくことで魔王を封じ込めている。なんて言われている。

 その大樹に向かって、巨大な火の玉が落下している。いや、落下しているんだと思う。

 

「ど、どれだけ大きいのアレ……」


 ユグドラシルは巨大だ。

 その根が広がる秘境と呼ばれる範囲だけでも一つの国ぐらいある。

 秘境には聖獣と呼ばれる強力な獣や、神人カミビトと呼ばれる人が守っていて、人間は中には入れない。

 古き時代からユグドラシルを護り続けているらしい。

 

「落ちてきているんだよな?」


 あまりにお互いが大きすぎるためにまるで止まっているかのように見える。

 それでも確実に2つの距離は縮まっていく。


「おいおい、これ、ヤバイんじゃないか!?」


「で、でもどうすれば……」


 ユグドラシルからこの街は遥かな距離がある。

 それも忘れさせるほど、火球と巨木の大きさがでかすぎる。


「どこか、身を隠す場所は!?」


「あそこの崖に飛び込め!! ぶつかるぞ!!」


 カイトが直ぐ側の大地の裂け目を指差す。あまり深くない崖なのはわかっているが、それでも結構な高さはある。でも、迷ってる暇はない。


 閃光が広がる。


「あ、あれは魔法陣!?」


 クラリスの叫び声にも似た声を聞きながら必死に走る。

 横目で見ると、火の玉と聖樹の間に信じられないほど巨大な魔法陣が展開されて、火の玉を受け止めている。

 僕達が走っているとズズズズズと地面も揺れる。

 

「やばいやばいやばい」


 凄まじい衝撃がこれだけ離れた場所まで伝わるなんて……


「飛び込め!!」


 三人でその地面の隙間に飛び込む。


「土よ! 我らを護る壁となれ!!」


 クラリスが魔法で崖の内部を強化して蓋をする。

 

「風よ、我らを受け止めるために力を貸したまえ」


 僕も落下の衝撃を和らげる魔法を展開する。

 ふわりと身体が一瞬浮いて、落ちていた3人の身体を受け止めてくれる。


「助かったカロル、クラリス」


「いや、まだだカイト、これからだよ」


 僕の悪い予感は……よく当たる。

 凄まじい衝撃に壁に叩きつけられて、僕は意識を失ってしまう。






「はっ!?」


 勢い良く身体を起こそうとするが、うまく身体を起こせない。

 

「こ、ここは……」


 周りは真っ暗だ。

 

「光よ、闇を照らす灯りを……」


 小さな光球を作る。

 自分の体の上に半分ぐらい土をかぶって埋まっている。

 身体を抜き出して怪我がないか確かめる。

 なんとか危険な傷はない、すぐに周囲を探る。


「カイト!! クラリス!!」


 光球を二人がいた方に向ける。

 幸運にもすぐに二人は見つかる。

 急いで駆けつける。


「良かった、二人共息はある」


 カイトの足は曲がってはいけない方向に曲がっているが、命には別状がなさそうだ。

 クラリスはほとんど無傷で眠っている。


「治癒の力よ、彼の者の怪我を癒やし給え」


 僕程度の力でも時間をかければ骨折も治せる。

 回復魔法をかけながら足の角度を直していく、あとは魔法の力で正しい位置に戻っていく。


「クラリス、クラリス!」


 治療しながらクラリスを揺り動かす。


「う、うーん……」


「良かった。クラリス、起きてくれカイトの治療を手伝って欲しい」


「か、カイトくん怪我しているの?」


「今治療中だ、意識を戻す前に治したい。手伝ってもらえる?」


「ま、任せて! カロル君は大丈夫?」


「ああ、僕は平気だ……しかし、これは外はどうなってるんだろうな……」


「癒やしの力よ、我が名に従い彼の者を癒やし給え」


 クラリスの回復魔法のお陰で急速に骨折も回復していく。


「ぐ、うう……」


「カイト! 気がついたか?」


「カロルか……ここは……? ぐっ……」


「動くなカイト! 今クラリスが治療している。足を折っていたんだ」


「ああ、この激痛はそれか……すまん、助かったクラリス」


「いいの、もう少しだから我慢してね」


 僕は周囲を探って荷物を探し当てる。

 照明用の魔道具に魔力を通す。

 僕の頼りない光源から魔道具の光が頼もしく周囲を明るくしてくれる。


「うお! クラリスが強化してくれてなかったらやばかった……」


 クラリスが強化してない範囲は完全に土砂で潰れていた。


「ありがとうクラリスもう大丈夫だ」


「無理しないでね」


 カイトが治った足を試すように動かしている。


「どう? カイト?」


「うん、問題ない。重ねてありがとう」


「クラリス、周囲を探ってもらっていい? 地上に出るにしても周囲の状態を知りたい」


「そうだな、頼むクラリス」


 クラリスの探知魔法でも周囲に適正反応はない。

 続けてクラリスの魔法で地上への通路を作っていく。


「おかしい、こんなに地上まで距離あったか?」


「多分土砂が相当かぶさったんだろうね……」


「あ、開きます……熱っ!」


「どうなってる!?」


「下がってクラリス、近くで何かが燃えている……? 

 ……森が……燃えてる……」


 地上に出て振り返ると、さっきまで入っていた森が、燃えていた。


「すぐに離れよう、ここも危険だ!」


 僕たちは穴から這いずり出て急いで森から距離を取る。


「な、何だこれは……」


 目の前の光景がこの世のものとは思えなかった。

 美しい世界の中心ユグドラシルは半分が失われており、その周囲には燃え盛る大地。

 この周囲の大地にも何箇所も火種がくすぶっている。

 大地はめくり上がるように禿げている部分も多い。


「中心部は壊滅だろあれ……」


「街! 街は!?」


 クラリスの叫びで街の方を見る。

 丘の向こうにある街の方向からも煙は上がっている。

 まだ街の状態を図ることは出来ない。


「すぐに戻ろう!」


「ああ! クラリス、立てる?」


「だ、大丈夫!」


 僕たちは街へ向かって走り出す。

 自分たちの知っている光景からあまりに変わってしまった惨状に顔をしかめる。


「な、なんだアレ?」


「巨大な……虫?」


 見たことも無いような異形の生物が街への道に居た。

 その姿はまるで虫のような6本の細い足。

 身体の所々に金属のような光沢のある甲羅を身にまとっている。

 ガチャガチャと金属がこすれ合うような不快な音を立てて動き回っている。

 僕達の姿を認めるとこちらに向かってくる。


【ギシャーーーーーーーーー】


「アレは友好的じゃないな」


「間違いないね」


「クラリス、頼む!」


「大地よ敵を穿つ槍となれ!」


 虫の足元から巨大な槍が敵の腹を貫いた。と思った。

 ガキン! という音とともに土の槍の先が砕けた。


「なっ……」


「まずい! クラリス! 向かってくる虫の足元に穴を!

 僕達の武器じゃあの装甲を抜けない!」


「大地よ我が声に応えて変化せよ!」


 みるみる地面に大穴が現れる、このスピードでこの大きさ、クラリスの能力の高さが伺える。


「落ちたらすぐに蓋を作って、一気に駆け抜けるぞ!」


「あ、ああ!」


「はい!」


 穴なんて無いかのように虫は真っすぐ進んでくる。

 落下するわけじゃなく、穴の底に消えていく、すぐさま地面が周囲から閉じて蓋をする。

 さらにその上に掘り下げた分の土で小さな丘が出来上がる。


「走れ!」


 クラリスの魔法で傷一つつかないことを考えれば、勝てなくは無いが、時間がかかりすぎるし、何より今は、街の状態を確認することが大事だ。


「カロル、すまん」


「何が!?」


「俺がもっとしっかりしないといかんな……」


「気負いすぎないでよ、頼る時はたっぷり頼るから!」


「あ、ああ! 任せとけ!」


「街が見えたわ! 大丈夫みたい、人がいるわ」


「おーい!!」


「誰だ!? おお! カイトだ! クラリスもいるぞ! カロルもだ!」


 衛兵のサックさんが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「変なやつに会わなかったか? アレは硬くて追い返すのが限界だったんだ」


「なんとか土に埋めてきましたけど、あんまり意味は無いかもしれません。

 それよりも、何が起きたんですか?」


「いや、俺達も全くわからん。

 取り敢えずギルド本部に行け、避難所になっている」


「ありがとうございます!」


 街の内部にも災害の傷跡が大量に見られていた。

 それでも皆、一生懸命消火活動などをしている。


「カイト以下二名戻りました!」


「おお! 無事だったか!!」


 ギルド内に歓声が広がる。

 ルーキーがクエストに出た日に、こんな出来事が起きて皆心配していてくれたらしい。


「三人共無事でよかった。君たちの両親も無事だ。

 今は他の冒険者と一緒に街を見回っている。

 ここにいれば大丈夫だ」


「何が起きたのかわかっていますか?」


「……聖樹に火の玉が落ちてきて、障壁受け止めたんだが、火の玉が裂けてな……

 砕けた火の玉のかけらから謎の魔物が現れて……さらに余波と熱風でこの有様だ……」


「聖樹に近い場所はもっと悲惨らしい……」


「なんでこんなことに……」


 ギルド内の雰囲気も一時的に明るくなったが悲壮感に支配されている。


「えーっと、クエストのレーモの実はどこに渡せば?」


 受付に誰も居なかったので聞いてみた。


「……ぶっ! あーーーはっはっは! カロルは肝っ玉が座ってるな!

 父親よりも母親よりだな! よし、見せてみろ!」


 形式的に初めてのクエストはきちんと終わらせたかった。

 僕たちはギルド証にクエスト達成の処理をしてもらい報酬を受け取る。


「そして、ちょっと待ってろ、今これで最高に力が出るパイを作ってきてやる!」


 暗くなったギルドの雰囲気が少し明るくなった。

 

 


正直ドラクエ11の影響をどうしても受けていると言わざるを得ない……

たまたまたなのに、頭に浮かぶ光景は完全にアレ……


草案はもっと前からあったんですよ、と言い訳しておきます。

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