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3話 結果

「ほら、カイトそろそろ発表だから起きろよー」


 僕は仮眠室で寝ているカイトを起こす。

 先程校内放送で結果の発表が案内された。

 普段は結果が張り出されるだけだけど、今回は10人だから発表になったのかな?


 カイトは平常時は寝るとなかなか起きない。

 起こすよう頼まれたので仕方なくここに来たってわけだ。


「ふぁ~……サンキューなカロル……それじゃぁ行くかぁ……」


 眠い目をこすりながらカイトがベッドから身体を起こす。

 やっぱりでかいなこいつは。


「なにしてんだ、置いてくぞー」


 なんとなくカイトを目でおっていると僕のほうが急かされてしまった。


「あ、ああ。行く行く」


 なんとなく気恥ずかしい。

 発表されるのは闘技場だ。

 すでに他の皆は今か今かと待ち構えていた。

 僕とカイトはそんな中のんびりと登場する。


「ウオッホン!」


 わざとらしく咳をしたのが僕達の魔術指導員のレーキット先生。

 というか、なにやら雰囲気がおかしい。

 先生たちが全員集合しているし、まるで卒業式みたいに椅子が並べられている。

 先生ではない大人たちや、騎士の人も先生たちと一緒に並んでいる。


「カイト、カロル、こっちこっち早く座って!」


 クラリスが俺たちに気がついて声をかけてくれた。

 どうやら生徒たちにも席が用意されていた。

 僕達がいそいそと椅子に座るとそれを待っていたかのように、実際に待っていたんだけど、レーキット先生が話し始める。


「えー、今回の合格発表とクラス発表はいつもと違う形で行われて諸君たちも戸惑ったことだろう。

 その理由も時期にわかる。

 先に紹介しておこう、こちらの方が王都聖騎士団副団長ヴァイス様。

 そして、こちらが王都魔術師団副団長ラーネット様。

 今回はわざわざ王都から試験の見学に来てくださった。

 知っての通り、聖騎士団、魔術師団はこの国の冒険者のエリート中のエリートが所属する皆のあこがれの場所だ。

 そんなところから、片田舎の小さなダンジョン都市であるレイザークの冒険者学校にいらしていただけたことは大変に名誉なことだ。私も鼻が高い」


 紹介されたのは騎士風のイケメンに魔術師風のおねーさん。

 只者ではない佇まいも、その正体を聞けば納得だ。


「なんでこんなとこにわざわざ来たんだろうな?」


「いや、僕に聞かれても……」


「ウォッホン!! ええ、皆も疑問に思うだろうが、これだけの方々が来た理由。

 それは今から行う結果発表に関連する。

 それでは、早速今から読み上げる2名。前へ来るように。

 カイト=ヴァーキット、クラリス=キャッセル!」


 僕の隣りに座っていた二名が名を呼ばれる。

 なんで俺が、みたいなカイトのケツを叩いて前に出させる。


「えー、5年ほど前から増え始めた凶暴な魔獣たちがこの国を脅かしていることは皆も知っていると思う。

 それに合わせて冒険者学校卒業生の中から特に優秀な人物を国所属の上級学校へ推薦する試みが本年度よりスタートしている」


 会場がざわつき始める。

 それも仕方ない、そんな制度を聞いたことが無いからだ。


「そして、なんと!

 カイト、クラリス両名はその類まれなる戦闘能力を高く評価され、新たにクラス分けされたエリートコース、γ(ガンマ)クラスに任命されたのだ!」


 おおおおおお、と教師たち大人は色めき立つが、僕を含めて生徒はよくわかってない。

 前に立つクラリスはおろおろしているが、カイトは へーー って感じ退屈そうにしている。


「このγクラスに選ばれた二人は、このまま新設された聖騎士予備学校。

 魔術師予備学校へ進学し、将来は聖騎士団、魔術師団に所属するエリートへの道が約束されるのだ!」


「おおおおおおお!」


 ここまで説明を聞けば、その新設されたγクラスがいかに凄いところなのかわかる。

 聖騎士団や魔術師団は冒険者として勇名を馳せた人物が、凄まじい訓練の末に入団を許される超々エリートコース。

 普通は小さい頃から英才教育を受けたような貴族の子供や、それこそ冒険者としてAクラスまで上り詰めたような人物でしか試験を受けることもままならない。

 それが、学校での成績次第で入団することが可能なんていうのは破格の条件だ。


「す、すげぇな!」「やべーよ! さすがカイトとクラリス!」


「お断りします! 俺は冒険者になるんで!」


 皆の喧騒を切り裂いたのはカイトの怒気を孕む一言だった。

 場の空気は凍りつき静寂が支配した。


「な、な、何を言っておるか!! こんな名誉なことはない!

 それを、断るだとー!?」


 レーキット先生だけではなく、教師陣がカイトを取り囲んで説得を始めている。

 自分たちをコケにされて怒っているかと思って聖騎士の方々を見ると、皆笑いをこらえているようだ。

 そして副団長のヴァイスと呼ばれた男が立ち上がる。

 立ち上がるとその巨体がさらに大きく見える。


「フハハハハハ! いいねカイト君。

 うちらも聖騎士なんて大層な名前をつけられているが、そもそもは冒険者。

 その気持ち、大いにわかる。

 そもそもこんな制度、上が勝手に作っただけだ。

 所詮、学生でちょっと出来が良くても、数年で俺たちと並び戦うなんておかしな話だよなぁ。

 悪かった。

 この話はなかったことにしよう。

 ひよっこはひよっこらしく成長したら、また声をかける日も来るだろうさ!」


 ガッハッハと笑い出すヴァイスさん。それに合わせて我慢していた聖騎士の方々も大笑いだ。

 生徒たちは皆シーンとなって黙り込んでいる。

 ヴァイスさんが、言っちゃならないことを言ったからだ。


「おい! ヴァイスさんとか言ったなぁ……

 あんた今、ひよっこって言ったか?」


 あーあ、完全に怒ってるカイトの声だ。


「か、カイト駄目だ。落ち着け。

 聖騎士だぞ! 落ち着いてくれ!」


 僕は慌ててカイトを止めようとするが、時すでに遅し。

 カイトは僕ごと押し込んで、ヴァイスさんに掴みかかってくる。


「んー? ひよっこにひよっこと言って何が悪い?

 悔しかったら力を示してみろ!」


 ああああ……やり手の冒険者ってのはどうしてこう我が強いのか……

 ひよっこ。カイトに言ってはいけないワード第一位。

 いっつも父親から言われていたから、父親以外に言われるとブチ切れるんだよ……

 

「やってやらァ……!!」


「ぐへぇ!」


 僕はカイトに力いっぱい押しのけられて吹っ飛んだ。


「ば、馬鹿カイト!!!」


 僕の叫びも虚しく、カイトは抜刀するとヴァイスさんに斬りかかってしまった!


「良い剣筋だが、まだまだ、甘い」


 目にも留まらぬ剣戟、斬られるヴァイスさん。ああ、カイトが殺人犯になってしまった。

 と、いう俺の予想は一ミリも当たらなかった。


「ば、馬鹿な!?」


 僕なんかでは万が一にも受け止めただけでも数メートルは飛ばされる。

 前提として剣筋も見えないうちに叩きのめされるカイトの一撃を、ヴァイスさんはなんと人差し指と中指だけで大剣とカイトを空中で支えている。


「もう終わりかい?」


「ク、くっそ! 動かねぇ!」


 空中でもがくカイト、それでも大剣は一ミリも動かない。

 まるで夢でも見ているかのような異常な光景だ。


「さーて、人様に剣を振るったんだ。自分が斬られても文句は言えねぇよなぁ……?」


 ヴァイスさんの声には明確な殺気が乗せられている。

 傍らで聞いている僕でも命を握られたかのように震え上がってしまう。


「や、止めてください!」


 そんな中で唯一動いたのが……クラリスだった。

 健気に肩を震わせながら自らの武器をヴァイスさんに向けている。


「カイト君は殺させない……それ以上やるなら撃ちます!」


「ふむ、先に仕掛けてきたのはカイト君の方なんだが……」


「ヴァイス、遊びすぎですよ。子供相手に大人気ない」


 いつの間にかヴァイスさんのそばに魔術師団副団長ラーネットさんが立っていた。

 やれやれと毒気を抜かれたようにヴァイスさんはカイトを地面に降ろしてくれる。


「さて、クラリスさん。でしたっけ? 貴方の魔法拝見しました。

 見事なものです。私も驚きました。学生さんがあれだけの魔法を使えるなんて」


「あ、ありがとうございます」


「ただ、私もヴァイスと同じ意見です。

 あの程度で、我が魔術師団に入団のチャンスを与えるのは甘すぎるのではないか……と」


 なるほど、この魔術師のくせに胸を強調して僕達にサービスしてくれている綺麗なおねーさんも、なんだかんだ言って僕達学生を馬鹿にしているんだな。


「さて、クラリスさん。貴方も言われっぱなしじゃ気分が悪いでしょう。

 どうぞ、その放とうとしていた魔法を撃ってください。そうすれば私が言っていることもわかるでしょう。

 それとも、そこで凹んでるひよっこさんを見て心が折れたのなら、帰ってもらっても構いませんよ?」


「……カイトくんを、カイトくんを馬鹿にしないで!」


 クラリスも、カイトを馬鹿にされると切れるんだよね……

 クラリスは最も得意な水の魔法を組み上げていく。

 

「水よ風よ、荒れ狂う力となりて我が剣となれ!」


 しかも複合魔法、水が風によって加速し超高速の水の刃となって嵐のように荒れ狂い、ラーネットさんに襲いかかる。

 いやいやいや、それ普通に人が死ぬぞ。

 

「その年で複合魔法は立派ですが、軽いですね」


 フッ……


 息を吹きかけるような仕草をラーネットさんがすると、濃密な魔力の塊が発生し、クラリスが放った魔法を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。


「……な……」


 さすがのクラリスも絶句するしか無い。

 圧倒的な魔力の差がなければ、こんなバカげた対応をされることはない。

 天と地、それ以上の力の差をはっきりと提示されてしまった。


 クラリスもヘナヘナとその場に座り込んでしまう。

 カイトも地面に下ろされてから微動だにしていない。

 二人の圧倒的な力にその場に居る教師までもが圧倒されてしまっている。


「あ、あの……そのくらいにしていただけませんか?

 もう十分お力は理解しました。

 それ以上二人を、僕の友達の名誉を傷つけるのは止めてください」


 気がついたら僕は二人の前に立っていた。




 なにしてんだろ……


 




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