1話 旅立ちの前
転移物じゃない王道、テンプレ? ファンタジーが書きたくて始めてみました。
よろしくお願いします。
2017.9.5
申し訳ありません。物語の終わり方が打ち切りエンドです。
ご了承の上お読みください。
「手を……離して!!
貴方まで、死んじゃう!」
悲鳴にも似た彼女の叫びが僕の耳を貫く。
「駄目だ! 絶対にこの手を離さない!
そう、決めたんだ!!」
宙吊りになっている彼女をこの世界に引き止めておけるのは、この握っている僕の腕だけだ。
彼女の下には暗黒が広がっている。
奈落、そう呼ばれる空間が、僕と、彼女を飲み込まんと巨大な口を開いて待っている。
「諦めるな! もっと、手を握ってくれ!
しがみついてくれ!!」
僕の訴えに反して、彼女は僕の手を振りほどこうとする。
驚くほどの力で……
「駄目……!
貴方を巻き込みたくない!
もう、奈落に見初められ、惹かれてしまっている私は助からない……
お願い……! 離してーーーーーーーーー!!」
次の瞬間、彼女に振り払われた腕は虚空を掴み、重さと一緒に大事なモノを失ったような気がする。
彼女を見ると、悲しいような、喜んでいるような、恐怖に怯えているような、そんな表情をしている。
そして、奈落へと堕ちていく……
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……僕はよくこの夢を見る。
どこかの見たこともない場所で、僕は『彼女』を助けようとしている。
ボロボロに傷ついていたり、何者かに突き落とされたり、彼女の手を離してしまったり。
毎回最後は同じだ。
彼女は奈落に飲まれる……
彼女は誰なんだろう。
美しい金髪、しかし、いつも顔はわからない。
その哀しくも力強い綺麗な声はいくらでも思い出せるのだが、顔だけはどうしても思い出せない。
夢、なのだから、そういうものなのかもしれない。
しかし、夢見は最悪だ……
この夢を見た日は叫び声を上げながら汗びっしょりで目が覚める。
力いっぱい握りしめていただろう掌は爪の痕がくっきりと付いて真っ白だ。
「……今日も……か……」
僕は掌を見つめながらつぶやく。
少しづつ血が巡り、ズクズクと鈍い痛みにも似たしびれが指先に広がっている。
……今日も、助けられなかった。
所詮夢の話だとはわかっていても、毎回毎回女性を助けられないと言うのは気分が良いものじゃない。
いや、最低だ。
「こういう大事な日に、縁起が悪いんだよなぁ……」
今日は僕の卒業試験の日だ。
僕は冒険者ギルドの運営する冒険者養成学校に通っている。
名前はカロルシアン=マイスティ。
大体友達はカロルって呼ばれている。
年齢は18になる。
15歳から養成学校に入学して、普通科クラスを普通の成績を納めて今日卒業が決まるはずだ。
父親と母親も冒険者の、いたって普通の家庭だ。
父親譲りの赤みの強い茶色の髪を母親がボサボサにならない程度にカットしてくれている。
身長は178センチ、体重も65キロ。
一応冒険者目指しているので身体は鍛えているけど、普通としか言いようのない体型。
このダンジョン都市レイザークでは僕みたいな子供は珍しさのかけらもない。
「父さんたちは予定だと明日帰宅か……」
ようやく血の気の戻った掌を動かして感覚を確かめる。
本当に酷いときには、結構力が入るようになるまで時間が掛かる時もある。
一体どれだけ力を入れて握りしめているのやら……
有り難いことに今日は特に支障はないようだった。
「さて、まだ早いけど、さっさと会場へ行くか!」
僕はベッドから立ち上がり台所へと向かう。
窓からは早朝の斜めの日差しが部屋を照らしている。
木造の家を歩くと、木が軋む独特の足音を鳴らせる。
聞き慣れた音だが、なんとなくこの音を意識すると一日の始まりを感じることが出来る。
父さん達は建て直しとか引っ越したいと言っているけど、僕はこの音が嫌いじゃない。
「塩漬け肉はまだあるなぁ、卵でも焼くか」
着火用の魔道具を起動して薪へと火を移す。
少し時間が掛かるから、塩漬け肉を水にさらして外に卵を取りに行く。
「おっはよーラン、パクー。卵もらってくよー」
庭で二羽飼育している『ニワ鳥』のランとパクから産みたての卵を頂く。
戻ってくるといい具合に火も起きているのでフライパンを熱する。
戻した肉の脂身部分を、少し火から距離を開けたフライパンの上でゆっくりと熱すると、油がにじみ出てくる。
僕はこの油を出し終わったカリカリッとした脂身が結構好きだ。
残りの肉にも火を通し、軽く香辛料で独特の獣臭い匂いを飛ばす。
残っている油と香辛料はそのまま卵で絡め取ってしまおう。
全て皿に並べればそれなりに立派の朝食が出来上がる。
母さんが見たら野菜を取れと怒られるかもしれないけど……
竈の上で、ストックしてあるパンも温め直しておいた。
これが僕の今日の朝食だ。
「はやく父さん達が稼いで冷蔵庫でも買えれば毎日の食卓が彩るんだけどなぁ……」
魔道具の中でも食料を冷やして保存できる冷蔵庫は高級品だ。
二種類の魔石を常時展開させておく魔道具なので当然といえば当然だ。
火付けが出来る魔道具に、水が出せる魔道具があるだけでも恵まれていると思わないとな。
「ちょっと塩抜きが短かかったな……」
卵と一緒にパンに挟んで食べればちょうどいい。と自分に言い聞かせる。
実際一緒に食べると美味しい。
まあまあ上手く行った朝食に満足した僕は、ささっと洗い物を済ませる。
残っている食料をチェックして、必要な物があれば帰りに市場で買って帰らないと。
「パンが少ないなぁ、明日には父さん達が帰ってくるから少し買っておくか……」
パンだけなら市場よりも学校そばのパン屋の方が美味しい。
今日のテスト後の予定は決まった。
家用のパンを買って、揚げパンをオヤツに帰宅で決まりだ。
「さて、行くか!」
テストは昼前からなのでまだだいぶ早いが、少し身体を動かして置くために早めに学校へと向かう。
テスト結果は初期ランクに影響するだけで、よほどの問題がなければ、僕も明日からは冒険者の仲間入りだ。
冒険者にはランクが有る。
一番上はSSS、見たこともないが世の中にはそんな化物がいるらしい。
大昔に世界を救った勇者に送られている名誉職的な物になっているそうだ。
次はS、英雄、なんて呼ばれたりするレベルの冒険者たちだ。
複数のダンジョンを攻略していたり、素晴らしい功績を残した人物が名乗る、まぁこれも僕には縁のないランクと言える。
続いてAランク。
才能あふれる人間が、順風満帆な成長を遂げて、さらに運にも味方されると到達する。
無縁だ無縁。こんな雲の上の話はどうでもいい。
そしてBランク。才能の無い人間が、血の滲むような努力を怠らずにいればたどり着けるランク。
普通の、僕みたいな人間にとっての人生の目標となる。
Cランク。無難に、安全に、堅実に。
冒険者という生き方をしていると、だいたいここぐらいになるというランクとなる。
うちの両親がここ。たぶん、僕もここ止まりだろうな。
Dランク。学校を素晴らしい成績で卒業するとこのランクとなる。
卒業後Dランクなんて天才たちはAランクなんかも目指せたりする。
Eランク。結構いい成績を納めるとここからのスタートだ。
それなりに優遇されているし、案外このクラス入りするのに手こずる人もいるので、できれば目指したい。
一応今までの試験の成績は平々凡々だが、今日の試験次第では、ものすごく上手く行けばこのランクに引っかかる可能性が……ほぼほぼ無いかな……
Fランク。学校を卒業できれば、だいたいの一般人はこのランクに配属される。
その後冒険者ギルドの依頼を淡々とこなして生きていく。
普通の人の入り口だ。
Gランク。これは特殊ランクとも言える。
残念ながら戦闘には向かないタイプの冒険者が、採取や加工等の技術を用いて冒険者ギルドに貢献する。
非戦闘員のクラスだ。
決して下に見られるようなことはない。彼らの下支えが冒険者を支えている。
そんな僕の人生のスタートを決める大事な試験が今日行われる。
町の郊外に建てられた木製の我が家を背に、歩き慣れた街道を歩く。
まだ朝早いので人の気配はない。
早朝の気持ちのいい空気を独り占め出来るから、僕は早起きが嫌いじゃない。
歩きながら忘れ物の確認をしたり、しながら学校への道を歩いていると、いい香りが鼻を刺激する。
「この匂い、今日はセンナさん特製の川魚の香草焼きだな……いいなぁマカロは……」
匂いを発している家は幼馴染のカイトの家だ。
小さい頃からバカやってきた、まぁ恥ずかしい言い方すれば親友だ。
父親ベルトさんはBランクの冒険者で母親はセンナさん、Gランクの冒険者という家庭でカイトの両親にはウチの両親もお世話になっている。
センナさんの料理は絶品で、小さい頃には両親が冒険者の僕は、何度となくお世話になっていて頭が上がらない。
ベルトさんはでっかいしムッキムキの見た目はちょっと怖いけど優しくて、もうひとりの父親のように尊敬している。
……まぁ、本当の父親も一応尊敬してるさ……恥ずかしいから言わないけど。
カイトは父親譲りの運動能力で、今までの試験でも素晴らしい実力を発揮していて、久々のDランクの誕生かと学校でも話題になっている。
さっき食事をしたばかりなのにこの香りをかいでいると口の中に唾液が広がる。
僕は身体を温める意味も含めて、少しスピードを上げて香りの誘惑から逃げ出す。
そのまましばらく走っていると、学校の外壁が見えてくる。
このまま外壁に沿って正門へとたどり着く。
「あれー? カロル早いねー!」
ちょうど正門のところで一人の少女に声をかけられる。
人目を引く綺麗な金髪に、少し幼さも残るが可愛いと断言できる顔、僕の肩くらいの身長で全体としてスラリとした体型をしているのに、その……胸と尻が大きい。
本人は気にしているので言うと怒るが、ファンの男もいるほどのそのスタイルを気にするのはおかしいと、女友達からもブーブー言われている。
それでも持ち前の優しく人懐っこい性格で、皆に愛されている学校のアイドル的な存在だ。
さらに、近接戦闘のエースがカイトだとすると、彼女、クラリスが魔法戦闘のエースだ。
「お、おはようクラリス、ちょっと身体を動かそうかなって……」
そんな彼女に出会うと思ってはなかったから、動揺して声が上ずってしまった。
夢で見る金髪の少女は彼女に対する僕の願望なんじゃないか?
と思った時期もあったけど、夢の中の少女は、その、あれだ、見ず知らずの人に失礼だが、彼女ほどグラマラスじゃない……
「やっぱ真面目だねカロルは! 実は私も少し不安で身体を動かしに来たのであーる」
腕を組んでえっへんと反り返るクラリス。
胸が強調されて思わず目をそらしてしまう。
「クラリスぐらいな人でも、き、緊張するんだね」
あー、皆いて話すのと一対一だと勝手が違くて口がうまく回らない。
「私ぐらいって、皆と変わらないよー。だって今日でランクも決まっちゃうし……」
「だって先生たちはクラリスとカイトは久しぶりのDランクだって息巻いてるじゃん」
「うーん、それがプレッシャーなんだよー。
カイトは俺様は当然Dだー!! ってタイプじゃない?
私は失敗しないか不安で不安で……」
わかりやすく頭を下げてしょげてるポーズをとるクラリス。
くるくると変わる表情は、見る者に不快な気持ちを1ミリも感じさせない。
皆が憧れるのも頷ける。
そんな学校のアイドルと歩を合わせて練習場へ行けるなんて、朝の夢の時は不安だったけど今日はラッキーに違いない!
「僕は成績も普通だし、今日の試験も無事に終わってくれればいいよ。
Fランクからコツコツと頑張っていきますよ!」
「そうだよね、コツコツ頑張ればいいよね! ありがと! 少し気が楽になった!」
その満面の笑みで、僕の心も高鳴った。
いや、別に好きだとかそういうんじゃないけど、本当に可愛いんだから仕方ない。
それに、クラリスがカイトのことを好きなのは、ある一人を除いて学校中の人間が知っている。
馬鹿カイトは鈍感王だから全く気がついてない。
「ほんっとアイツは馬鹿だな」
「ん? 何か言った?」
「ううん、なんでもない。僕の言葉で気が楽になってくれたら良かったよ。
そしたら武道場はこっちだから、また試験の時に!」
「うん、お互い頑張ろうね!!」
サムズアップで応援してくれた。
ひらひらと手を振りながら魔道場の方へ去っていく。
「……ラッキーだったなぁ……」
彼女がいなくなって、まるで華がなくなった武道場への道を、僕はとぼとぼと一人で歩くのでありました。
不定期更新で書いていきます。
すごいのんびり進行になること請け合いです。




