女の買い物はなぜ長いのか
「春日ー。一緒にデパート行こうぜー」
俺がコタツでヌクヌクとしていると、晴子がそんなことを言い出してきた。
「寒いから外出たくないっての。一人で行けよ」
「いいじゃん。一緒に行こうよ」
今さらデパートに用はない。
特に買いたい物も無いしな。
「なんでそこまでして行きたいんだよ」
「あそこでしか置いてない物もあるからさ。色々見て回りたいんだよ」
「だから。一人で行けっての。俺は関係ないだろ」
「一緒に来てくれたら……今日の晩飯は春日の好物にするんだけどなー?」
「む……」
晴子の作るメシはかなり美味い。
俺の事を全て知っているからか、味付けが完璧なんだよな。
今食いたいと思うものを何でも作ってくれる。
ぶっちゃけ毎日の楽しみでもある。
それが無くなってしまうと……モチベが下がってしまうんだ。
仕方ない。
「わーったよ。行けばいいんだろ」
「へへっ。んじゃ早く支度しろよー」
「はいはい」
というわけで、結局ついていくことになった。
どうせ俺を荷物持ちにするつもりなんだろうな。まぁいいけど。
最近は冷え込んできたし、厚着していくかな。
家を出てから数十分。
少し離れた場所にある巨大デパートへとやってきた。
「ふ~。建物の中は暖かいな~」
「さっさと買い物済まそうぜ。暗くなる前に帰りたい」
もう冬だし、日が落ちるとさらに気温が下がるしな。
早く帰ってゴロゴロしていたい。
「そう焦るなよ。せっかく来たんだから楽しもうぜ」
「お前なぁ……」
「ほらほら。まずはあの店から寄っていこうよ」
「分かった分かった。だから引っ張るなって」
こいつは妙に楽しそうなんだよな。
俺は別に来たくなかったのに。
やってきたのはキッチン用具店だ。
台所の道具が色々と並んでいる。
店の中に入ると、すぐ近くにあった並んであるフライパンが目に入った。
晴子はそれを見て足を止める。
「ん~。このフライパン良さそうだな~」
「そうか? フライパンなんてどれも一緒じゃないか?」
「ほら見てよ。これ軽量タイプなんだってさ」
「へ~。こういうのもあるのか」
よく見るとフライパンだけでも様々な種類がある。
こんなにも種類あるのか。
「でも今使ってるやつでも十分じゃないか? 買い替えるにはまだ早いと思うけど」
「そうだけどさ。少しでも軽い方がいいと思ってさ。少しは楽になるかもしれないし」
「あー……」
そうか。晴子は俺よりも力が無いもんな。
毎日のように使ってると負担になるわけか。
「なら買うのか? 1個ぐらいなら買っても問題無いし」
「ん~。どうしようかな~。あっちのも良さそうなんだよな~」
「じゃあやめるのか?」
「ん~……でもこれだと耐久性が……しかしこの値段ならこれくらいでも……」
なんだろう。
晴子が主婦目線になってる気がする。
あれこれ商品を見つつ悩んでいる。
「晴子? どうするんだ?」
「もうちょい考える。ちょっと待ってて」
「あいよ」
今となっては俺よりも知識があって詳しそうだ。
どんどん主婦っぽくなっていくな……
それから5分後。
ようやく決まったらしく、晴子が動き出した。
「よし。次行こう」
「は? フライパンはどうするんだよ? 悩んでたんじゃないのかよ?」
「よく考えたら今使ってるやつはまだ長持ちしそうだし。また今度考えるよ」
「軽量云々で悩んでたんじゃないのかよ……」
何がしたかったんだ……
「まぁいいじゃん。どうせいつでも買えるんだし。次いこうよ」
「はいはい」
結局何も買わず、店を出ることになった。
今いる階は一通り見終わったので上の階に移動することにした。
それからしばらく眺めていると……
「あれ? あの姿は……」
「どうした晴子?」
「あっちに居るの、美雪じゃないか?」
「へ? マジで?」
「ほら。服屋の近くで立ってるじゃん」
「……マジだ」
晴子の指先には美雪の姿があった。
どうやら店先で服を眺めているらしい。
「おーい美雪」
「……!? はる君……?」
やはり美雪だ。
さすがに向こうも驚いた顔をしている。
「奇遇だな。まさかこんな所で会うなんてな」
「そ、そう……だね……」
「美雪も買い物なのか?」
「うん……。はる君は?」
「俺は晴子の連れ添いだよ。ほら隣に」
「よっ。美雪ちゃん」
「はるちゃんも一緒……だったんだぁ……」
美雪もどこか嬉しそうだ。
「ここで何してたの? この店眺めてたの?」
「うん……」
やはりそうだったか。
店に飾ってある服を見ていたしな。
「ふ~ん………………あ、そうだ。ねぇねぇ美雪ちゃん。このあと時間ある?」
「え……?」
「どうせなら一緒に見て回らない?」
「晴子? 何を言い出すんだ?」
「どうせ春日はこういう店入ってもつまらないだろ? だったら美雪ちゃんと一緒の方がいいと思ってさ」
「そうかもしれないけど……」
美雪は少し悩んだが……
「うん。いいよ……!」
「よし決まり。んじゃさっそく入ってみようぜ」
「おいおい。俺はどうするんだよ!?」
「ここで待ってればいいじゃん。別に付いてきてもいいけど」
「う……」
晴子が入ろうとしている店はどうみても女性物ばかりが置いてある。
俺が入るのにはさすがに勇気が要る。
「分かったよ。ここで待ってるよ」
「んじゃ行こうか。美雪ちゃん」
「うん。はるちゃんは……どこから見たい……?」
「そうだなぁ。まずは――」
二人は楽しそうにしながら一緒に店に入っていった。
俺は特にやることも無く、スマホでも弄りながら待っていることにした。
それから約15分後。
二人はようやく店から出てきた。
「ん~。ここはイマイチだったなー。次はあっち行ってみない?」
「そうね……。それなら……向こうのほうが……いいかも」
「おっけー。なら行ってみるか」
二人は次の店に行こうとするが――
「おい晴子」
「ん? どうしたんだ?」
「どうしたじゃねーよ。いくら何でも長すぎだろ。どんだけ待ったと思ってるんだ!」
「なんだよ。これくらいで文句言うなよ」
「20分ぐらいは待ったぞ! どんだけ選んでたんだよ!?」
体感では30分ぐらい待った気がする。
「別にいいだろ。ゆっくり選ばせろよ」
「たかが服選ぶだけなんだからさ……もう少し早くしてくれよ……」
「何言ってるんだ。だからこそじっくり見るんだろ? ねー美雪ちゃん」
「そうだよ……はる君。ずっと着る物なんだから……慎重に選ばないと……ダメだよ?」
「美雪まで……」
晴子のやつめ。
美雪を味方につけやがったな。
「ならもういいだろ。そろそろ帰ろうぜ」
「次の店見てないし、もう少し待ってくれよ」
「まだかかるのかよ……」
「んじゃ行こうか」
「うん。ごめんね……はる君」
「いや美雪が謝ることじゃ……」
結局二人は別の店に入っていった。
それから何分経っただろうか。
ようやく二人は店から出てきた。
「ここは悪くなかったな。今度また来てみようかな」
「でしょ? ここはね……私のお気に入りなの……」
「へー。そうだったのか」
楽しそうに会話しているが、何も買わなかったらしい。
何しに来たんだあいつは。
「晴子。もういいだろ。いい加減帰ろうぜ」
「待てってば。あと1軒だけ。あの店行ってみたいんだよ」
「まだやるのか……」
さすがにこれ以上待つのはきつい。
何もしてないのに何故か疲れる。
「ならさっさとしてくれ。つーか長すぎなんだよ。もっと早くしてくれよ」
「もー我がままだな。ゆっくり見て回りたいんだよ」
「はる君。女の子の買い物はね……時間がかかるもの……なんだよ?」
「そうだぞ。女の子は色々見て回りたいんだぞ」
美雪はともかく、なぜ晴子まで女を語っているんだ……
つーか何時の間にそんなに仲良くなったんだこの二人は。
「あーもー分かったよ。さっさと行ってこい」
「大丈夫だって。すぐ終わるから。んじゃ行こっか」
「うん」
二人はまた別の店へと向かっていった。
それからは比較的早く出てきたが、それでも10分は待つことになった。
今日だけで1時間は待った気がする。
今回は何かを買ったらしく、晴子の手には袋が握られていた。
「いやー楽しかった。また来ようね美雪ちゃん」
「私も……楽しかった。今日は……ありがとね」
さすがに満足したらしい。
ようやく解放されるな。
「そろそろ帰らないとな。それじゃあここで。またね美雪ちゃん」
「またね。はる君も……また学校で……」
「おう。またな」
美雪は小さく手を振った後、離れていった。
俺たちも建物から出て帰り道を歩いていく。
「んで、晴子は何を買ったんだよ」
「ああこれか。これは春日にあげようと思ってたんだ。開けてみろよ」
「俺に? なんでわざわざ」
「いいから」
晴子から受け取った袋を開けた。
すると中には――
「マフラー?」
「うん。だって最近寒いだろ。学校行くときにでも付けていけばいいと思ったんだよ」
つーかあれだけ時間をかけたってのに、買ったのはマフラー1個なのか……
「ん? どうしたそんな微妙な顔して。気に入らなかったか?」
「いやそうじゃないけど……まぁありがたく貰っとくよ。サンキューな」
「おう」
これは暖かそうだし、明日にでも付けていこうかな。
「しかし寒いな……」
「だから早く帰りたかったんだよ。日が落ちると気温下がるから」
既に日が沈んでいて、家を出る前よりも冷え込んでいる。
「なぁ春日」
「何だよ」
「手……握っていいか?」
「俺の? 別にいいけど……」
「ん」
晴子が手を伸ばしてきたのでそれを握った。
「…………」
「…………」
晴子の手はヒンヤリと冷たかった。
「春日の手……暖かいな……」
「お前が冷たいんだよ」
「そうかな」
「そうだよ」
しかしこれだとまるで恋人繋ぎみたいだな。
……いやいや。何を気にしてるんだ俺は。
「ほんと暖かいよ」
「そんなにか」
「うん……」
「そっか」
「…………えへへ」
やたら嬉しそうな晴子の手を握りつつ、家へと歩いて行った。




