押し倒し
季節は冬。
もう外はすっかり冷え込み、学校に行くとき以外は家に引きこもることが多くなってくる時期だ。
今もこうしてコタツで温まりながらテレビを見ている。
今は特に見たい番組が無いので、晴子がチャンネルを変えてからそれを見続けている。
内容は恋愛物のドラマのようだ。
なんとくなくそれを見ていると、晴子が話しかけてきた。
「なぁなぁ。春日はああいうことしてみたいのか?」
「ああいうこと?」
「ほら。アレだよ」
晴子が言ってるのはテレビに映っている内容についてか。
見てみると、男女が仲良さそうに抱き合っていた。
その後もイチャイチャしながら楽しそうにしていた。
「……あれがどうしたんだよ」
「だからさ。春日はああいうことしてみたいんじゃないかって」
「べ、別に思ってねーよ……」
「嘘つけ。昔から彼女が出来たら、ああいうことしたいって妄想してたくせに」
「ぐっ……」
こ、こいつ……!
分かってて聞いてきやがったな……!
「そ、それがどうした! 誰でもそういう願望はあるだろうが!」
「いやいや。かわいそうだなーって思ってさ」
「はぁ? 何が言いたいんだ?」
「だってさー。春日はモテないもんなぁ?」
痛いところをついてきやがる。
「一度たりとも女子から告白されたことないもんなー?」
「う、うるさいな。ほっとけよ」
「ほーんと。情けないなーって思ってさ。もしかしたらずーっとこのままなんじゃないか?」
「み、美雪がいるだろ!」
「美雪だって、春日が好きだとは限らないじゃん」
「うぐっ……」
人が気にしていることをズバズバと言いやがって。
「で、でも……チョコは貰ったことあるぞ!」
「バレンタインチョコか。確かに貰ってはいるな。義理感たっぷりなやつを」
「…………」
美雪から貰ったチョコは手作りではなく、市販されているやつをそのまま渡してきただけだったのを覚えている。
それはそれで嬉しかったし、別にいいんだけどさ。
駄目だ。俺のことを全て知られている以上、どうあがこうが晴子には言い負かされる……
「だ、だから何なんだよ! つーか卑怯だぞ! 俺の記憶を勝手に覗きやがって!」
「仕方ないだろー。オレだって元々は春日だったんだから」
「そうかもしれないけど……」
本当に卑怯なやつだ。
でも晴子も俺と同じということは、晴子の行動は俺もやるかもしれないってことか……?
……いやいや。そんなことは無い……はずだ。
さすがに俺はこんな風に煽ってきたりはしない……はずなんだ。
けど晴子はもう1人の俺ということは紛れもない事実。だから自信が無い。
「はぁー。ったく春日は情けないなー」
「な、何がだよ」
「だってさー。今まで全然モテてなかったじゃんか。美雪以外に女友達も居ないし」
「う、うるさいな! だからどうしたんだよ!?」
「情けないやつだなーと思っただけだよ」
何なんだ今日のこいつは。
いつも以上に煽ってきやがる。
「あーあ。可哀そうな春日。まともに彼女も出来ないなんて本当に可哀そうだなぁ」
「…………」
「どうした春日。なんとか言ってみろよー。んー?」
他の人から言ってくるのならともかく、晴子に言われると余計にムカつく。
俺のことを誰よりも理解しているからだろうな。
「ほらどうした? 何も言い返せないのかー?」
「…………」
この野郎……
言いたい放題言いやがって……
「このままだと一生彼女できないままで終わっちゃうぞー?」
「…………」
「ほんと情けないよなー。オレが元々春日だったと思うと悲しくなるぜ。そうだなー。もしこのまま卒業するまでに彼女できなけりゃオレが――」
「いい加減にしろ!」
「え――きゃんっ!」
晴子に飛び掛かり、そのまま床に押し倒した。
床に倒れた晴子の上に乗り、体を押さえつける。
「か、春日? ど、どうしたんだよ急に……」
「さっきから偉そうなこと言いやがって。もう我慢の限界だ」
「あ、あれ? マジで怒ってる?」
「怒ってないように見えるか?」
「……ッ」
さすがに晴子も予想外だったらしく、さっきまでのニヤニヤしてた表情も消えた。
「そ、そんなマジになるなよ。春日だって日頃思ってたことじゃんか……」
「だからといってお前に言われると、それはそれでムカつくんだよ」
「で、でも……」
最近のこいつは調子に乗りすぎていると思うんだ。
そりゃあ『自分』に対してあれこれ煽るのは楽しいとは思う。なんだって全部事実なんだからな。
けど言われた側はたまったもんじゃない。例え晴子に言われようが同じだ。
「わ、悪かったよ……。ちょっとからかっただけじゃんか……」
「いいや。許さん。反省してるようには見えないし、少しおしおきが必要みたいだなぁ?」
「え……?」
晴子の両手を押さえつけ、逃げられないようにした。
「な、何するんだよぉ……?」
「決まってるだろ。お前を襲うんだよ」
「……ッ!! ま、まさか……」
さすがに危機を感じたか。
「ほ、本当にするのか……?」
「当たり前だ。俺だって男なんだ。当然それぐらいの欲求だってある」
「で、でも……春日はそんなことしないよな……?」
ああ確かにそうだ。
普段の俺だったら無理やりこんなことしない。
だが晴子は違う。晴子相手は例外だ。
「その通りだ。普通ならこんな真似するもんか。誰に対してもするつもりはない」
「だったら――」
「けど晴子だけは別だ。お前は特別だもんな?」
「……!」
「晴子は元々俺でもあったんだ。それはつまり、晴子にすることは俺自身に対してするのと一緒なわけだ。なら誰にも迷惑が掛からないから問題ないよな? 自分を殴っても誰にも迷惑が掛からないのと同じだ」
日本語がおかしい気がするが、そこまで間違ってはいないはずだ。
性別は違うが、それ以外は同じなんだ。
「だからお前をどう扱おうが俺の自由だ」
「い、いきなりそんなこと言われても……」
「そろそろ我慢の限界だ。覚悟しろ」
「あ――」
馬乗りしたままゆっくりと顔を近づける。
晴子は抵抗を見せる素振りもなかった。もう諦めたようだ。
徐々に顔を近づける。
すると晴子は目をつぶった。
それに構わずどんどん距離を詰める。
互いの呼吸が感じ取れるぐらいまで近づき――
そして――
すぐに離れてデコピンした。
「あいたっ」
「ったく。本当にするわけねーだろ」
「…………」
「俺はそこまで馬鹿じゃないっての。それぐらい分かるだろ?」
いくら俺でも嫌がる相手に対して襲うほど鬼畜じゃない。
さすがに晴子をどうこうしようなんて考えてないさ。俺だって常識ぐらいはある。
けど普段と違う行動には晴子も驚いただろう。
これをキッカケに自粛してくれるといいんだがな。
「これに懲りたらもうするなよ」
「…………」
「おい。なんとか言えよ」
「…………」
「……?」
晴子のやつどうしたんだ。
起き上がったと思ったら、デコピンされた場所を触りながらボーッっとしてやがる。
「晴子? どうした? そんなに痛かったのか?」
「…………」
「おーい。聞こえてるのか?」
「…………」
……やりすぎたか?
でもこうでもしないと自重してくれなさそうだったしな。
「晴子ー。おーい」
「…………」
反応がない。
「はーるーこ――」
「~~~~~~!! 春日のばかッッッッッッッッッッ!!」
「な、なんだよいきなり……」
「うるさい! ばかばかばかばかばかばかッ!」
突然大声だしてきたと思ったら……
顔を赤くしてまで怒鳴ってきやがった。
「そこまで言うことないだろ……」
「ふんだっ!」
そっぽを向かれてしまった。
結局この日はほとんど会話することなく、ずっと不機嫌な晴子だった。




