ネコの気持ちが分かるアプリ
学校の休み時間での出来事だ。
美雪がスマホをいじっていたので、なんとなく話しかけてみることに。
「美雪。さっきから何してんだ?」
「あ……はるくん……」
いつもの美雪ならば、スマホよりも本を読むことが多い。そういう性格をしている。だから気になって話しかけることにしたのだ。
「えっとね……これ……」
「ん?」
見せつけてきたスマホの画面を覗きこむ。
「んーと……『ネコの気持ちが分かるアプリ』?」
「うん」
「これがどうかしたのか?」
「面白そうだと……思って。昨日見つけたの……」
「ふーん」
ネコの気持ちねぇ……
どうせ寝るか食うかのどっちかしか考えてないと思うけどなぁ。
「でね……今日も……使ってみたの……。学校に来る途中で……野良ネコで……試してみたの」
「ほほう。んでどうだった?」
「えっと……『エサが欲しいニャン』……だって……」
「……だろうな」
美雪が「ニャン」と言ったのがすごく可愛かった。くそっ。今の録音しておけばよかった。
「確かに面白そうだな。俺もスマホに入れてみるかな」
「あ、それなら……使い方教えるね……」
ネコの気持ちが分かるアプリとやらをインストールし、簡単に使い方を教えてもらった。
「そうだ。これ人間相手にやったらどうなるんだ?」
「え……」
「試しにやってみようぜ。ほら美雪、スマホに向かって何か喋ってくれよ!」
「わ、私が……?」
「いいじゃん。ほら」
アプリを起動させて美雪に近づける。
「えっと……な、なんて……言えばいいの……?」
「何でもいいんだよ。テキトーで」
「じゃ、じゃあ……にゃ、にゃ~ん……」
「…………」
言ったあとに恥ずかしくなったのか、顔が赤くなっていく美雪。
めっちゃ可愛い。
「いや、あの。わざわざネコの鳴き真似する必要はないんじゃないかな?」
「あぅ……。はるくんのバカっ……」
「えー。俺のせいなの?」
「だって……はるくんが……言えって言うから……」
「でも俺はネコの真似しろとは言ってないぜ? 美雪が勝手に――」
「そ、それよりも……なんて表示されてるの?」
「あ、うん。ちょっと待って」
スマホに目をやると、こんな感じに表示されていた。
【腹が減ったニャン】
【エサが欲しいニャン】
「……美雪って、いま腹減ってるのか?」
「さっき……お昼食べたばかりだよ……?」
「だよな……」
やっぱり人間相手だと機能しないみたいだな。
「あ、そうだ。だったら帰りにブチ相手に試してみようぜ」
「私も……今日そうするつもりだった……」
ブチってのは、学校周辺にうろついている野良ネコのことだ。毎日のように見かけるからか、みんなから可愛がられている。
「お、だったら丁度いい。んじゃ帰りに探してみようぜ」
「うん……!」
というわけで学校も終わり、学校周辺を散策してみることに。
すると――
「お、いたいた。あそこで丸くなってら」
「ほんとだ……可愛い……」
今日は天気がいいからか、花壇のそばでくつろいでいるみたいだ。
さっそく近寄ってアプリを起動し、スマホを近づけてみることに。
「おーいブチ。スマホに向かって鳴いてみろよー」
だがブチは興味無さそうにアクビをした。
「うーん。全然鳴かないなー」
「ネコって……意外と鳴かないよね……」
「だよな」
困ったな。これじゃあ試すこともできん。
さてどうしたもんか。
「ふふっ……もふもふ……」
美雪がブチを慣れた手つきで撫でる。
まぁ試せなくてもいいか。どうせ面白い結果は出ないだろうし、また今度にしよう。
俺もモフモフしたいし、ちょっと触らせてもらおう。
そう思ってスマホを仕舞おうとした時だった。
「ミャーオ」
「……!」
「おっ。やっと鳴いたか。どれどれ……」
【エサが欲しいニャン】
「…………」
「はるくん……? なんて……表示されてるの?」
何も言わずにスマホを見せた。
「……えっと」
「なぁ。もしかしてこれしかパターンが無いんじゃねーの?」
「そう……かも……」
「まぁ、こんなもんだよな」
期待はしてなかったけど、ここまでショボい出来だとはな。せっかくなんだから、もうちょいバリエーションを増やしてほしかったな。
その後は俺もブチを撫でてから、家に帰ることにした。
家に帰ると晴子がコタツに入っていた。
「お、帰ってきたか。今日は寒いから、夕飯は温まるもん作ってやるよ」
「あいよ」
そうだ。晴子にもあのアプリを試してみるか。
どうせ似たような結果になるとは分かりきっている。けどちょっとしたネタにはなるだろう。
スマホを取り出して晴子に近づける。
「春日? スマホなんか取り出して何を――」
「なぁ晴子。最近の調子はどうだ?」
「は? いきなり何を言い出すんだ?」
「いいから。何か話せよ」
「んなこと言ってもな……あ、そうだ。今日は鍋にしようかと思ってるんだけど、肉と魚どっちがいい?」
「鍋かぁ……んじゃ、魚で」
「りょーかい」
話し終わってからスマホを引き寄せて確認。
さて結果はどうなったかな?
【もっとかまってほしいニャン】
【頭をなでてほしいニャン】
【さみしいニャン】
おお?
なんだこりゃ。初めて見るパターンだな。
ほうほう。これは面白い。ネコよりも人間相手にやったほうが変化があるじゃないか。
けど信憑性はかなり低いな。寂しいってのは分からんでもないが、頭をなでて欲しいってのはありえないだろう。晴子なら特にありえない。
まぁ一応聞いてみるか。
「晴子。ちょっと聞いていいか?」
「うん? なんだよ。さっきから変だぞ春日」
「晴子って、頭をなでて欲しいとか思ったことあるのか?」
「…………」
……あれ? 晴子のやついきなり固まったぞ。
「晴子? おーい?」
「…………」
どうしたんだこいつ。いきなりビックリしたような表情で固まりやがって。
「な、なんで……そ、そんなこと聞くんだよ……?」
「なんでって。気になったから?」
「ふ、ふーん……」
「というのは嘘で、実はな――」
ここでネタバラシをする。晴子にネコの気持ちが分かるアプリの存在を教えた。
「な、なーんだ! そういうことかよ! 早く言えよ! 驚かせやがって!」
「別に驚かせたつもりはないだけど」
「はっはっは……」
やたら動揺してないかこいつ。そんなに驚かすようなことは言ってないはずなんだけどな。
まさかとは思うけど、さっき言ったのは図星だったとか……?
いやまさかな。晴子がそんなこと思うわけないもんな。
やっぱりこのアプリがデタラメな結果出してるだけだな。
まぁいいか。それなり楽しめたし、このアプリは用済みだな。
さっさと削除して――
「……頭なでてほしいにゃん」
「!?」
あ、あれー?
このアプリは音声出さないはずなんだけどな。
今の声は一体……ま、まさか――
「は、晴子? 今の声は……お前が?」
「……か、勘違いするなよ。そ、そのアプリの真似をしただけだ」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。
「な、なんだよ。真似しちゃ悪いのかよ!?」
「い、いや。別にそんなことはないけど……」
「だったら気にするなよ」
そんなことをいいつつも、なぜか俺を睨んでくる。
「えっと……」
「い、今から言うのもただのモノマネだからな」
「どうして急に――」
「頭をなでろにゃん……」
「いやだから――」
「頭なでやがれにゃん」
「…………」
すっげぇ睨んでくる。もしかして本当になでてほしいのか?
それならそれでこんな面倒くさいこと言わないで、素直に頼めばいいのに。
どうしてこんなタイミングでモノマネなんてするんだとか、そもそも真似る必要が無いだろうとか、そういうツッコミはしないほうがいいんだろうな。
「分かったよ。なでてやるよ」
「! そ、そうか! 春日がそう言うならしゃーねーな! なでられてやるよ!」
「いや、晴子がやれって言ったんだろ」
「べ、別にオレはやれとは言ってないからな! 春日が勝手にやるだけなんだからな!」
「あーはいはい」
そういうことにしておこう。
色々と言いたいことはあったが、また面倒なことになりそうだったから黙っておく。
晴子に近づき、ゆっくりと頭をなでた。
「えへへ~」
幸せそうな表情をしやがって。そんなに心地いいのか。
まぁいいか。このくらいで機嫌がよくなるならお安いご用さ。しばらくこのままなで続けてやろう。




