スペシャルラブラブコース
今の俺と晴子は町を散歩している。
特に買いたい物があるわけではないが、晴子に誘われて一緒に散歩することになったのだ。
「腹減ってきたな」
「俺もだ。そういや昼は少ししか食べてなかったしな」
「どこかで食べていこうぜ」
「そうだな。出来れば手軽に食べれるものがいいな。食べすぎると夕飯が食えなくなる」
「賛成」
ということで、歩きながら店を探すことになった。
しばらく探し続けていると、晴子が良さそうな喫茶店を発見したみたいで、そこに入ることになった。
店内に入り、空いている席に座ってからメニューを取り出す。
「春日。サンドイッチとかどうだ?」
「んー何でもいいよ。晴子に任せる」
「あいよ」
腹に入れるものなら何でもいいや。晴子も同じ気持ちだろうし、ここは任せても問題ないだろう。
メニューを眺め続けていた晴子は何かに気づいたみたいで、なぜかニヤリと笑い始めた。
「なぁなぁ。オレが決めていいんだよな?」
「ああいいぞ。けどあまり多く注文するなよ」
「分かった」
うん?
なぜこいつはニヤニヤしているんだろう。また変なこと思いついたとかじゃないだろうな。
晴子は近くにいた店員に声をかけ、それに気づいた店員が近寄ってきた。
「ご注文はなんでしょうか?」
「えっとですね。この『スペシャルラブラブコース』でお願いします!」
…………は?
なに言ってんだこいつは?
「スペシャルラブラブコースですね! しばらくお待ちください」
俺が止める間もなく、店員は離れていった。
「は、晴子? お前なにしてんだよ!? つーか何だよスペシャルラブラブコースって……」
「これはな、カップル限定メニューらしいぜ。安かったからこれにしたんだよ」
「あのな……」
こいつはまた余計なことをしやがって……
「春日は何でもいいって言ったじゃないか。だから文句は無いよな?」
「だからといってカップル限定メニューにすることはないだろ! つーかカップルじゃないってバレたらどうするんだよ……」
「大丈夫だって。普通にしていればバレないって」
前にもこういうことがあったな。
うかつだった。やっぱり晴子に任せるんじゃなかった。やたらニヤニヤしてたのはこういうことだったのか。
「まぁいいや。何がくるのか知らないけど、さっさと食って出るぞ」
「おいおい。そんなに慌てるなよ。ゆっくり味わおうぜ」
「誰のせいだと思ってるんだ……」
次からはこいつに任せるのは止めよう。固くそう誓った。
しばらくすると、トレーを持ったまま店員が近寄ってきた。
「先にコース限定のドリンクをお持ちしました。後ほどパフェをお持ちしますので、しばらくお待ちください」
そういったあと、離れていった。
「へぇ。これはメロンソーダかな」
「みたいだな」
透明なグラスの中には緑色をした液体が入っているし、合っていると思う。
だけどグラスは一つしかない。
おかしいな。カップルコースを注文したんだから、二つ出てくると思ったんだけどな。
まさか持ってくるのを忘れたとかじゃないだろうな。
いや待て。グラスをよく見てみると、何故かストローが二本ある。
嫌な予感がしてきた……
「か、春日。これってまさか……」
「たぶん……想像通りだと思う……」
『カップルコース』、『グラスは一つ』、『ストローは二本』。
これらから導かれる答えなんてアレしかない。
「や、やっぱり一緒に飲めってこと……だよな?」
「だろうな……」
本当に晴子に任せるんじゃなかった。まさかこんなことになるなんてな。
もう注文しちゃったんだし。今から変更とかできないだろうな。
「とりあえず俺は水で十分だし、晴子が全部飲んでいいぞ」
「で、でも……これ量多いぞ……」
「たしかに……」
たぶん、二人前の量なんだろうな。
一人で飲み干すのはちときついかもしれん。
「あ、あのさ。春日も……飲めよ」
「お、俺も? いやいや、無理しなくてもいいぞ。残せばいいだろ」
「そうじゃなくて……さ」
なんだなんだ。やたら恥ずかしそうにモジモジしてるし、どうしたんだこいつは。
「二人で……一緒に……飲もうよ」
「へっ?」
いきなりとんでもないこと言い出したぞ。
「だ、だって……オレらって……恋人同士だもん。こういうことしても……べ、別におかしくないよな?」
「それはフリだろうが! 本当にやる必要はないだろ!」
「で、でもバレたらマズいって言ったのは春日じゃんか」
「うっ……それはそうだけど……」
まさか本当にやるつもりなのか?
こればかりは相手が誰だろうが、勇気がいるぞ。
「ほ、本当にやるのか? 無理しなくてもいいんだぞ?」
「し、仕方ないじゃん。カップルだもん……」
「だからって……」
「ほ、ほら。早く飲もうぜ」
おいおい。マジでやる気かよ。
というか晴子は平気なのか? 相手は俺なんだぞ。
「ほ、ほら。早くしないと怪しまれるぞ」
「ぐっ……」
しょうがない。ここは晴子に付き合おう。
これはあくまでフリだしな。もしカップルじゃないとバレたら何されるか分からんしな。だから仕方ないよな。うん。
「じゃ、じゃあいくぞ……」
「う、うん……」
互いグラスに近づき、ストローに口を付けた。
…………
近い近い近い近い近い近い近い!
晴子の顔が近い!
やばい。予想以上に恥ずかしいぞこれ。
晴子もやつも同じことを思っているらしく、顔を赤くしてやがる。
結局、少し飲んだだけですぐに口を離し、元の位置に戻った。
「…………」
「…………」
き、気まずい……
つーかこうなることは予想できただろうに。わざわざやることは無かったんじゃないか。
その後も気まずい雰囲気は続いたが、それを打ち破るかのように店員がやってきた。
「お待たせしました。こちらがカップルコース限定のパフェとなります。ごゆっくりどうぞ」
店員が離れたあと、テーブルに上に置かれたパフェを見てみる。
「へ、へぇ。けっこう美味そうじゃないか」
「だ、だな」
本当に美味しそうだ。
グラスに彩られたパフェは、カットされた果物がいくつも乗っていて食欲をそそられる。クリームも程よく盛られていて、その上に乗ったチョコがいい味を出している。
確かにこれはすごい。さっきまでカップルメニューにされたのを後悔していたけど、ここまで上等なパフェが出てくるなら選んで正解だったかもしれない。
しかもこれがワンコインという値段だから驚きだ。カップル限定なのもうなずける。
が、持ってこられたパフェは一つだけ。スプーンも一つ。
ということはつまり――
「な、なぁ。これもまさか……」
「た、たぶん……あそこに居る人達みたいにするんだと思う」
近くの席に座っている男女も、カップルメニューを頼んだみたいで、俺たちと同じものがテーブル上に存在している。
そして女の人がスプーンでパフェをすくい、男の人に食べさせている。
つまり、同じことを俺らもやれってことだろう。道理でボリュームがあると思った。これも二人前あるんだろうな。
「ほ、ほら。オレが食べさせてやるから……口開けろよ」
「えっ? マジでやるのか?」
「な、なんだよ。オレだと不満なのかよ?」
「い、いや……そうじゃなくて……」
いかんいかん。前も同じことをやったじゃないか。これくらいで動揺してどうする。
落ち着け落ち着け……
「じゃあ……頼む」
「あ、ああ。それじゃあ……あーん……」
パフェをすくったスプーンを差し出され、そのまま口の中へ。
「……うん。美味いぞ」
「そ、そうか! へへっ」
やたら嬉しそうにしてやがる。作ったのは晴子じゃないのにな。変なやつ。
「じゃあオレも……おっ。マジで美味いなこれ」
「だろ? なかなかイケるよな」
「うん。値段の割にはけっこう………………あっ!!」
「ん? どうした?」
「…………」
「おーい?」
今度はなんだ。どうしたってんだ。
晴子はスプーンを口にくわえたまま顔を赤くしてやがる。何があったんだ?
「いきなりどうしたんだ? 突然声を上げたりして」
「…………あ、あのさ」
「うん?」
「こ、これって……その……アレ……だよ、な?」
「は?」
意味が分からん。
アレとか言われても全然思いつかない。
「アレってなんだよ? ハッキリ言えよ」
「だ、だから……その……」
「……?」
「これって……か、間接キス……だよな?」
「……えっ?」
なに言ってんだこいつ。
「ア、アホか! 小学生みたいなこと言ってんじゃねーよ!」
「か、春日は気にならないのかよぉ……」
「ならねーよ! つーか前もやったことあるだろうが! なんで今更気にしてるんだよ!?」
「だ、だってぇ……あの時は……その……」
今日の晴子はどうしたってんだ。今更そんなこと気にする関係じゃないだろうに。
「春日は……どう思ってるんだよ」
「どうにも思わねーよ! 変なこと考えてないでさっさと食え!」
「………………ばかっ」
「はぁ? なんだそりゃ?」
本当にどうしたんだ今日のこいつは。いつも以上に意味不明なこと言いやがる。
たぶん、この場の雰囲気のせいだろうな。よく見ると、周りの席にはカップルが多い。そのせいで晴子も雰囲気に影響されたんだろう。
きっとそうだ。そうに違いない。絶対そうだ。
その後の晴子は機嫌がいいような悪いような、よく分からない雰囲気だった。




