内緒話
学校も終わり、美雪と一緒に帰ろうかとした時だった。スマホが震えたので取り出して確認することにした。
「どうしたの……?」
「ん? 晴子からのメールだよ」
スマホを操作して内容を読む。
ふむふむ……
「あー……そういうことか」
「はるちゃんはなんて?」
「一緒に買い物に付き合えだってさ。帰り道で待ってるみたいだから、そこで俺と合流してからスーパーに向かうつもりなんだと思う」
「そう、なんだ……」
どうせまた俺を荷物持ちにするつもりなんだろう。まぁいつも晴子には世話になってるし、これくらいなら別にいいけどね。
「とりあえずもう帰るよ。美雪はどうする?」
「私もはるちゃんに用があるから……一緒に付いて行っていい……?」
「え? 晴子に用? なんかあるのか?」
「うん。前にはるちゃんから……漫画貸してもらったから……今日返そうかと思って……」
晴子のやつ、いつの間にそんなことしてたのか。
「晴子からどんな漫画借りたんだ?」
「えっとね……」
美雪はゴソゴソと鞄を漁り、本を取り出して見せてきた。
「これ……なんだけど……」
「へ、へぇ」
この表紙……どう見ても少女漫画だよなぁ。あいつまた新しい本買ったのか……
「これはどういう漫画なんだ?」
「えっとね……」
美雪曰く。
主人公の少女がとある理由で男装しなければならず、正体をバレないように学校生活を送るというストーリーとのこと。
初めはうまくやっていけたが、クラスで仲良くなった男の親友に惚れてしまう。しかし正体をバラすわけにはいかず、悶々とした日々が続く。そんな切ない恋愛を描いた物語……らしい。
「ほほう。なかなか面白そうじゃん」
「うん……私もすっかり気に入っちゃった」
気が向いたら今度晴子から借りてみるか。
「とりあえず行こうか。晴子が待ってるし」
「そうね……」
鞄を背負い、一緒に教室から出ることにした。
しばらく帰り道を雑談しつつ歩いていると、突然犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ワンワン!」
「うおおおっっっ!?」
ビ、ビックリした……
いきなり犬が吠えるから思わず後ずさっちゃったよ……
「…………」
「あっ……」
やっべ、美雪にめっちゃ見られてた……
「やっぱり……はるくんは、今でも犬が苦手……?」
「べ、べべべべべべべ別に苦手じゃねーよ? 突然吠えられたからビックリしただけだし? 犬なんて全然怖くないぜ? ほら、俺って犬より猫派だし? 怖いとかそういうのは全く気にしてないし? だからさっきのは何かの間違いで――」
「ふふっ……」
わ、笑われた……
くそぅ。よりにもよって、こんな場面を美雪に目撃されるなんて……
ああもう。カッコ悪いところを見られちゃったじゃないか。やっぱり犬は嫌いだ……
「はるくん。大丈夫……だよ」
俺に向けて小さな手を差し出してきた。
「へ?」
「私がいるから……もう大丈夫だよ。また、はるくんに……犬が近づいてきても、私が守ってあげるから……」
「美雪……」
これはまさか……手を繋いでくれるってことか……?
「早くいこっ。はるちゃんが……待ってるし……」
「お、おう」
差し出してきたきて手を握り、そのまま歩き出す。
ま、まさかこんな展開になるとは思わなかった。
キッカケはどうあれ、美雪と手を繋ぎなら歩ける日が再び来るとはな。今日はツイてるかもしれない。今回ばかりは犬に感謝すべきかもしれん。
しばらく気分よく歩いていると、遠くに晴子の姿が見えてきた。晴子は既に待ち合わせ場所に来ていて、スマホをいじりながら立っていた。
「晴子ー。もう来てたのか」
「お、やっときたか。あれ、美雪ちゃんも一緒だったのか」
「うん……前に借りてた漫画を返したくて……」
「ああ。そういうことか――って、なんでお前ら手なんて繋いでいるんだよ」
あっ、やべっ。ついこのまま来ちゃったよ。
「こ、これは違うんだ! その、なんというか、寒かったから仕方無かったんだよ。 な、なぁ美雪!」
「う、うん……」
「…………ふぅ~ん」
ん? どうしたんだ晴子のやつ。
急に不機嫌になった気がする。
「…………あ、そうだ。美雪ちゃん。ちょっとこっち来てくれないか?」
「……?」
晴子が手招きしたあと、美雪は近くまで歩いていった。
……なぜか嫌な予感がする。
「ちょっと耳貸して」
「???」
晴子は美雪の耳元まで近づき、俺に聞こえない程の小声でヒソヒソと話し始めたようだ。
最初はうんうんと頷いてた美雪だけど、みるみるうちに顔が赤くなり、ついにはうつむいてしまった。
「美雪? こいつから何を聞いたんだ?」
「…………」
駄目だ。顔を赤くしてうつむいたまま反応してくれない。
「おい晴子。美雪になに吹き込んだ?」
「べっつにぃ? なんでもねーよ?」
こ、この野郎……! 何を喋ったんだこいつは……!
くそぅ。美雪は返事してくれないし、晴子はずっとニヤニヤしてやがる。
しばらくすると突然美雪が歩き出し、俺の側まで近寄ってきた。
「美雪? ど、どうしたんだ?」
「はるくん……」
「なんだ?」
「私……がんばるから……!」
…………………………何をだ。




