入れ替わり?
「おい――きろ、―――子」
なんだよ……もう少し寝かせろよ……
「さっさと起きろ。いつまで寝てるん―――子」
うるせーな。起きればいいんだろ。
「おい! 晴子!」
「わかったっての……」
ゆっくりと上半身を起こし、アクビをしながら軽く目を擦る。
「ったく……今日は休みなんだからもう少し寝かせろよな……」
「何言ってんだ。お前が買物に行こうって言ったんじゃねーか」
……そんなこと言ったっけ?
いや待て。晴子の声がおかしい。なんというか男のように低い声だ。
さすがに変だと思い、隣に振り向いた。
するとそこには――
「……な、なんで俺が居るんだよ!?」
「はぁ? 意味わかんねーよ」
そこには晴子ではなく、“俺”が居たのである。
「お、お前誰だよ!? 晴子はどこいったんだよ!?」
「……寝ぼけてるのか? 晴子はお前だろ」
「へ?」
どういうことだ……?
ふと、気になって自分の体を見下ろす。胸元には二つの膨らみがあった。まさか――!
急いで手鏡を取り出し確認する。
そこに映っていたのは“俺”ではなく――
「は、晴子になってる……!?」
「大丈夫か? まだ寝ぼけてるなら顔でも洗って来いよ」
……ははーん。解ったぞ。
これは夢だ。
試しに頬を抓ってみる。
うん、痛くない。夢だなこりゃ。間違いない。
「おい聞いてるのか? 晴子」
「……ああ。悪い。少し混乱してたみたいだ」
目の前には俺の――春日の姿をした人物が居た。
なるほど。今の俺は晴子になってるってわけだ。春日と晴子が入れ替わってるということか。
だけどなんというか、“俺”が俺に向かって晴子と呼んでいるのはすごい違和感があるな。……ええい! ややこしい!
「えーっと、それで何の用だよ。晴――じゃなかった。春日」
「だから買物行くんだろ? さっさと支度しろよ」
「あー……そうだったっけ?」
「おいおい。しっかりしろよ……」
しかしなんつー夢だ。まさか俺達が入れ替わるなんてな……
まぁいいや。どうせ夢だし。楽しむことにしよう。
とりあえず着替えよう。そう思い上着を脱いだ。
「ちょ……いきなり脱ぐんじゃねーよ!」
「何だよ突然叫んだりして」
何故か春日は顔を赤らめてそっぽを向き始めた。
「と、とにかく! オレは先に下で待ってるからな!」
言い終わると同時に部屋から出て行ってしまった。
なんであいつは慌ててたんだ?
服を着ようとしたときに気付く。
……そういや今の俺は晴子だったな。つまり上着を脱いだら下着姿になるわけだ。そうなると当然、ブラを着けただけの格好になる。そんな俺の姿を見たから春日は慌ててたんだな。
ふーむ……
着替え終わり、玄関で待っていた春日と一緒に出かけることにした。
隣には春日が居て一緒に移動中である。
しかしなんというか、変な気分だ。“俺”の姿をしたやつが、普通に動いているだけですごい違和感がある。自分が写っている動画を見るのとはまた違う感じがする。双子の人はこんな心境なんだろうか。
「……なんだよ。オレのことジロジロ見たりして」
「い、いや。なんでもねーよ」
「……?」
うーん。やっぱ不思議な感覚だ。どうも慣れない。
………………そうだ!
晴子がやってたことを思い出し、それを実行してみることにした。
春日の腕に抱きつき、胸を押し付ける。
すると――
「お、おい! 何するんだよ!?」
「ん~? 別にいいじゃねーかよ。こんな風に抱き付かれたこと無かったくせにぃ~」
「そうじゃなくて……! 当たってるって……」
「何がだ?」
「だ、だから……」
……何これ。超面白い!
相手が“俺”だからな。何をどうすればどんな反応するか手に取るように分かる。
まー確かにこれは楽しいな。もてあそびたくなる気持ちもよく分かる。しかも遠慮する必要も無いしな。
春日が顔を赤らめて取り乱す姿を見ると、笑いが止まらない。晴子の奴め、いつもこんな気分だったんだな。道理でいつもからかってくるはずだ。
「くっくっくっ……」
「ったく……」
分かりやすいなーこいつ。
どうせ今頃、『くそっ晴子め、いつもからかいやがって……! それにしてもムカつく笑顔だ』なーんて思ってるんだろうなぁ。
「早く行こうぜ。春日」
「わ、わかったから離れろって!」
あー楽しい。愉快愉快。いつでも遊べるおもちゃを手に入れた気分だ。
案外この姿も悪くないかもな。しばらくは退屈しなさそうだ。
春日で遊びつつ歩いていると、離れた所に美雪が居るのを発見する。
「おーい美雪ー!」
「……はる君?」
「偶然だなこんな所で会うなんて。買物帰りか?」
「うん」
美雪は重そうな買物袋を両手で持っていた。
「ずいぶんと量があるんだな……そうだ! オレが家まで持っていってやるよ」
「……いいの?」
「ああ。いつものお礼みたいなもんさ」
さすが“俺”。予想通りの行動をしてくれる。
「悪いけど晴子は一人で買物いっててくれ。オレは美雪を送っていくからさ」
――――え?
「んじゃ行こうぜ。美雪」
「うん……ありがと……はる君」
まてよ……
「じゃーな。晴子」
「またね……はるちゃん」
おい……なんでそいつと一緒に行くんだよ……
春日は俺だぞ――
「ま、待てよ!」
どんどん離れていき、二人の姿が小さくなっていく。
手を伸ばし近づこうとするが、なぜか一向に距離が縮まらない。
「待てってば! 美雪!」
そうか。俺は晴子なんだ。
だから美雪が春日を選ぶのは当然で……
違う!
春日は俺だ!
くそっ!
なんで近づけねーんだよ!
「美雪! 美雪ぃぃぃぃぃ!」
二人の姿が見えなくなり、視界が真っ白に染まっていく――
「――ッ!?」
ここは……俺の部屋か。よかった……
それにしても変な夢だったな。
「大丈夫か? うなされてたみたいだけど」
隣には晴子が心配そうに見つめていた。
「いやな、すげー変な夢見ちまったんだよ」
「ふーん? どんな夢だったんだ?」
「んーと……」
あ、あれ? 何の夢だったんだっけ?
「……思い出せん。何で覚えてないんだ……」
「おいおい」
「うーん……」
必死に記憶を探るが、一向に思い出せなかった。
「すごく楽しかったような……とても悲しかったような……」
「夢なんてそんなもんだろ」
「んー……」
スッキリしない。モヤモヤする。
起きた直後は覚えてた気がするんだけどな。
うーん……まぁいいか。どうせ夢だし。
時計を見ると丁度いい時間だった。すぐに起き、朝食を作るべく部屋から出ることにした。
食事をする頃には夢のことはすっかり忘れ去っていた。




