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プロローグ

「ふぁ~~」


 気だるい欠伸をしながら起床する。今日は土曜日で学校はお休みだ。時計を見ると8時を回っていた。

 朝6時前に起きて、朝食を作った後、二度寝したのだが……折角の休日なんだから、もっと寝て居たかったな……。

 まぁいいや、起きてしまったものはしょうがない、さっさと起きるか。そう思い、ベッドから降りようとした時だった。


 ん?……なんだこれ?

 すぐ横に、布団が大きく膨らんでいるのを発見する。よく見ると、人サイズまで膨らんでいる。

 いや……これは……誰か居る(・・・・)

 急激に目が覚め始める。


 誰だ?コイツは誰なんだ?

 言い知れぬ不安に駆られる。


 親父か? いや、親父はもう家を出た。


 あいつ(・・・)か? いや、こんな事する奴じゃない。


 じゃあ、こいつは誰なんだよ……。


 そうだ、顔を確認だ。顔を見れば分かる。そして、恐る恐る顔を覗き込んだ。

 するとそこには……。





 知らない女が居た。



 そいつは寝息を立てて、スヤスヤと眠っていた。

 いや、誰だよ……。記憶の中から人物データを検索するが、誰も該当しない。

 本当に全く知らな――くもないな。なんだろう、どっかで見たような?

 自分の記憶の中では、こいつに関するデータは無い。しかし見た事のある顔だ。何処で見た? 思い出せ……思い出すんだ……。


 駄目だ思い出せない。でも、ほぼ毎日の様に見てる気がする。しかしこの女の人自体は初めてみる。

 なんだよこの矛盾した感じは……モヤモヤする……。


 とりあえず起こそう。


「おい、起きろ」


 体を揺さぶる。


「――んだよ……どうしたんだよ親父……」


 その女は上半身を起こした。が、何も着ていなかった。つまり素っ裸だ。


「なっ……お前なんで裸なんだよ!!」

「あ~? 何をいってんだよ――」


 女は自分の体を見下ろした。


「…………………………あ?」


 目をパチクリさせてる。


「……? 何だこれ……?」


 そしてそいつは自分の胸を揉み始めた。えっ……何してんのこいつ……。


「なんでオレにこんなの付いてるんだ……?」

「女だからだろ」


 ツッコミを入れると、そいつはこっちを睨んできた。


「……………………お前誰だよ」

「いや、こっちのセリフだよ。お前こそ誰だよ」

「なんでオレが居るんだよ……お、お前は誰だよ!」


 何だこいつ……意味が分からん……。


「なんでオレの姿で――」


 突然そいつは黙り始めた。


「あれ? オレの声こんなに高かったか?」

「女だし。そんなもんじゃないの?」

「は? 女? 誰が?」

「他に誰が居るんだ」


 再び体を見下ろし、そして体中を弄り始めた。


「いやいやいや、オレは男だぞ……まさか!」


 そいつは布団をのけて、下半身を見始めた。


「………………無い」

「何が?」

「オレの……息子(・・)がない……」

「だから当たり前だろ。何なんだお前は」


 本当に何者なんだこいつ。痴女か?


「とりあえずお前、名前は?」

「オ、オレは……デクボ カスガ」


 ……は?今なんつったこの女。デクボ カスガは俺の名前じゃねーか。

 いやいや、もしかしたら漢字が違うだけかもしれない。

 確かめるべく、近くにあった紙とペンを取り、渡した。


「漢字で書いてみろ」

「お、おう」


 受け取ったそいつは、少し震えた手で書き始めた。


「ほら」


 そして受け取った紙には……“出久保 春日”と書かれていた。俺と全く一緒の名前だ。


「…………お前はいつ俺の名前を知ったんだ?」

「は? いやだからそれがオレの名前だって。そっちこそ名前はなんだよ」

「俺は……デクボ カスガ」

「……………もしかして、漢字も一緒か?」


 肯く。


「マジか……」


 何となくだが――この女の正体が分かってきた気がする。

 いやいや、こんな馬鹿な話があるか。そんなはずはない。

 だがしかし本当だとしたら――こいつが変な事言い出したのも納得する。

 更に、初めて会うはずなのに、妙に見覚えがあるのも説明が付く。

 つまり、こいつの見覚えのある顔つき、その正体は――


 俺の顔だ(・・・・)


 どっかで見たと思ったんだ。この女の顔は俺と似通っている。たぶん、俺が女に生まれたとしたら、こんな顔つきになるだろうと思う。

 つまりこいつの正体は…………。


 向こうも同じ結論に辿り着いたようだ。


 この女の正体……それは……。




「「お前は俺(オレ)なのか?」」




 こいつの正体……それは俺だ。なんで女になっているのか、原因は不明だが、この女が俺だとしたら全て辻褄が合う。

 自分でもアホな事言ってると思う。しかしそれしか思いつかない。


「とりあえず、服着るか?」

「……そうだな」


 予備の寝巻きを渡し、気まずい雰囲気の中、そいつは受け取った寝巻きを着始めたのだった。

男の方は「俺」、女の方を「オレ」で統一しています。

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