旅路
おっす!おらユウキ!!
いやぁたまげたぞ!
ただのサラリーマンだったおらが、
気が付きゃ一国の王様なんだもんな!
人生どんな逆転劇があるかわっかんねぇもんだ!
まぁ、同盟国と戦争中の帝国が、国境に激しく隣接してたり、
その同盟国からは威圧外交受けるわで、
建国前から亡国の危機なんだけどな!
さらに人口わずか600人。……風の谷かな?
そんな訳で、交代してくれる人、絶賛募集中。
さて、王都を出発した初日。
今は、王都から伸びている街道を、延々と移動している。
野党や魔物の類を心配したのだが、
そんな異世界名物に遭遇することもなく、
旅は順調であるといえる。
まぁ、野党がわざわざ危険を冒して、
兵士が護衛している馬車を襲ったりしないか。
魔物についてバリーに問いかけると、
「えっ、そんなモノが人里や街道付近に、いるわけないじゃないですか。」
とのことだった。
そっか、とりあえず危険が無いのは良いことだ。
でも何処かにはいるんだな、魔物。
そして夕刻、本日の宿となる村へ到着する。
王宮のスウィートルームと比べると
数段、どころか崖から転がり落ちるほど質が落ちるが
まぁ、野宿でないだけマシだろう。
しかし、兵士が宿の受付を済まし、
「テンクモ様、宿泊費の支払いを、お願い致します。」
支払いが俺持ちだったのがビックリだった。
30人を超える大所帯、一泊の費用でも目玉が飛び出る。
旅は、おおむね、順調だ……。
しかし、旅の順調さよりも、俺には重要なことがある。
バリーと、兵士達30人を、
大部屋3部屋分けて入ってもらい、俺は個室に籠った。
ワンクラの能力を確認をしなければならない。
これが上手く機能しないなら、
俺の死は目前に迫っているといっていいだろう。
まず、アーシェンに貰った金貨を一枚、所持品ボックスに投入。
すると、所持金へと換金するかどうか、確認画面が表示された。
喜びに震える。
神は、俺をお見捨てになっておられなかったのだ。
そして迷わず変換する。
するとどうだ、所持金が一気に100,000G。
何これ、しゅごい。
銀貨は!?、銀貨はいくらになるんだ!
所持金が102,000Gになった。
つまり一枚2,000Gか。
ふーん、ガタ落ちだな。
俺のテンションもガタ落ちだ。
次は銅貨だな。
102,040G
まぁ、妥当か。
銅だもんな。うん、期待はしてなかったさ。
最後に、ドキドキしながら金塊を所持品ボックスに投入する。
金貨50枚分はありそうだな。
…………。
換金選択が表示されない。
あれ?終わり?
金塊は金塊のまま、ただ所持品ボックスの中に入っただけだった。
どういうこっちゃ?
ワンクラであれば、金塊でもゴールドに換金可能だったのに。
この世界での通貨は換金可能で、金塊は換金不可能。
通貨として、多数の人々の間を流通していないと換金できないのか?
うーん、分からん。
考えたが、この謎仕様について答えは出なかった。
とりあえず、残りの金銀全てを、所持品ボックスにぶち込む。
すると、謎空間に収納されるため、盗まれる心配もなくなる。
次は、購入ウィンドウについてだ。
換金が可能だったんだ。これは心配ないだろう。
案の定、木材と魔石、それにアイスストーンとミスリル鉱石を、購入することができた。
そしてクラフトツールを開き、素材を組み合わせていくと……。
できた。アイスロッドだ。
購入品だけで、まかなっているので、
ワンクラの武器としては、下から数えた方が早い。
しかし、自衛用としてはとりあえず十分だろう。
ワンクラでは、他人のレベルだけを表示、確認することができる。
今日まで様々な人物を確認したが、
一般人で3程度。兵士であっても5か6だった。
レベルとHPなんかの関係が、ワンクラと同じ基準ならば、
一撃で撃退。……殺すことが可能だ。
うーん、使うのはどうしようもなくなった時の最終手段かな。
正当防衛であっても、殺人は殺人だ。
周りが許しても、俺が精神的に参ってしまうだろう。
最後に、選択対象の分解と素材の入手だが、
これはコソ村に到着するまでやめておこう。
付近は、全て村民の誰かが所有権を持っている。
こんな夜更けに、一人で村の外まで外出するのは怖すぎる。
魔物はいないとの話しだが、物盗りがいないとも限らん。
クラフトツールまでの確認は出来たんだ。
焦る必要はないだろう。
今できる範囲の確認は取れたし祝杯だ。
購入、クラフトでビールを作成。
この世界にも麦芽酒はあるみたいだけど、
王宮ではワインか蒸留酒だけだったからな…。
「どれどれ。……ッカーーー!うんめぇぇ!!」
久々のビールは骨身に染みた。
常温の素材で、なぜキンキンに冷えたビールが出来るのかなんて、疑問の類はこの際捨ておこう!
謎パワーに感謝しつつ、
そのまんまの意味で、ビールに酔いしれるのだった。
翌日、出発の準備を眺めていると、
「お、お願いします!
費用は自分で負担しますから、
明日からは個室を取らせて頂けないでしょうか!!」
目の下にクマを作ったバリーが、泣きそうな顔で懇願してきた。
「どうした!?兵士と揉めたのか!?相手は?
なんだったら俺と同室でもいいけど。」
「ひっ……。
あ、あの、テンクモ様は……男色も嗜まれる、
なんて事はありませんよね?」
アッー!……何を言ってるんだコイツ。
「お前なぁ、失礼じゃないか、それ?」
「申し訳ありません!実はですね……。」
-------
「アッハッハ!!」
「わ、笑いごとじゃないですよ!」
詳しく話しを聞いてみると、こういう話しだった。
出発時からよく話し掛けてくる、人懐っこい兵士がいたのだが。
仲良くなった二人は昨夜、酒場へ繰り出したらしい。
随分と気前の良い男で、支払いは持つから、どんどん飲めと勧められたそうだ。
タダ酒ならと、ついつい泥酔するまで飲んでしまったバリー。
気が付くと、酒場の裏にある林でゲーゲー吐いており、
男に背中をさすってもらっていたのだが、
その手が徐々に下へズレていき……。
「うぅ……。」
「いやいや、まぁ良かったじゃないか。
未遂だったんだろう?」
「まぁ、そうですが……。」
尻を撫でまわされた瞬間、一気に酔いの醒めたバリーは、一目散に逃げ出した。
しかし、あまりの恐ろしさで、もはや宿に戻ることもできず、
村の外れで一晩寝ずに過ごしたそうな。
「安心しろよ、俺が好きなのは女だから。
大体自分で宿代負担するって言っても、到着までだと結構な額になるぞ。
今日からは俺と同室にしとこう。」
「あ、ありがとうございます。」
軽い男性不信に陥ってしまったのか、
同室提案にキョドキョドとした反応のバリーだった。
それにしても自分から同室提案か。
以前の俺なら考えられないな。
色々あり過ぎたせいで、俺自身も鍛えられてるのかな?
馬車への積み荷も終わり、南方への旅二日目が始まる。
バリーを(性的な意味で)食べようとした兵士は、
適当な理由を付け、俺たちから離れた配置で行軍してもらうことにした。
当人は配置換えの理由に気付いているだろうし、
もう昨日のように、無理やり迫ってくることはないだろう。
ないよな?
いっぽう、一睡も出来ていないバリーは、
一目で分かる程、疲れた様子だった。
可哀そうで見ていられなかったので、
購入ウィンドウから素材を購入、
そのままポーション作成して手渡す。
「これは?」
「HPが回復する薬だ。飲んでみるといい。」
「えいちぴーってなんですか?」
あれっ、この世界の人々にもレベルは表示されるし
魔水計のような測定装置もあるからてっきり……。
大よその力量は測れても、HPの概念は無いのか。
「えーっと、元気になる薬だ。」
「そうですか、お気遣い有難うございます。」
ゴクゴクと飲み下すバリー。
すると途端に目を見開き、
「す、すごい効き目です!!体が軽い!!」
えぇ…経口摂取なのに、この効き目なのか。
現代人の俺からすると、効きすぎる薬って恐ろしく感じるな…。
俺も飲んで平気なのだろうか。
もし依存症状とか中毒症状出たらどうしよう。
「テンクモ様、こんな秘薬頂いて良かったんですか?
かなり高いんじゃ……。」
「主人が部下を大事にしないでどうするんだ、
お前が元気で働いてくれればそれで良いんだよ。」
実際は、素材総額で100Gの安物だしな。
「テンクモ様…。
本当にそちらの気は無いんですよね?」
「殴るぞお前。」
「も、申し訳ありません。
それにしてもテンクモ様は不思議な方ですね。」
「なにがだ?」
「いえ、私の様な者にも気さくに話しかけてもらっちゃって…
普通、上流階級の方々は、使用人なんか空気の様に扱いますから。」
「俺がいた世界だと、上流だの下流だのは、
有って無いようなものだったからなぁ。
でも、もちろん時と場所は、選んで接するつもりだからな。
その時は、お前のそのくだけた敬語もちゃんとしろよ。」
「はい!招致しております!」
「ところで、薬で尻の痛みは引いたか?」
「テンクモ様……。冗談キツイですよ……。」
俺とバリーの笑い声が馬車に響く。
他人とこんなに話したのは、いつ振りだろうか、中々楽しい旅だ。
それにしても、ただのポーションがあの効き目……。
売れるんやないの?
俺は錬金術を習得してしまったかもしれない。
大きな町に寄れたら商人でも探してみるか。
ちょっと短くなっちゃいました。