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異変

矢の雨が降り注ぐ。

魔法の力を帯びた矢は、淡く煌めき弧を描き飛翔する。

空を飾るその光の雨は、見る者こと如くを魅了した。


ただし、それは放った側に限ってだが。


遥か遠く、矢の着弾地点には地獄の様相が広がる。

ある者は腕を、又ある者は足を、腹を胸を顔を、

貫くなどと生易しいものではない。

触れた部分が弾け、消し飛ぶ。


「な、ななななな、なんなのだコレはぁ……」


逃げ惑う兵士を視界に捉える男は、狂った様に笑い叫ぶ。


「ウヒヒヒッ、アハッ!アハハハハァッ!

なぜだぁ!!わ、我らのが軍が、一合も打ち合わず蹂躙されるなどぉ!!ならん!あってはならんのだ!そ、そうだ!コレは夢!夢か!」


目前に広がる惨状を、男は現実の物として受け入れられない。

相手の30倍には届こうかという軍勢を従え、

圧倒的な数の暴力でネジ伏せるつもりだったのだ。


しかし蓋を開ければ、結果は全くの逆。

苦戦、大敗どころの騒ぎではない。

そこは戦場と呼べる様なモノではなかった。虐殺、いや屠殺。

何にせよ、もう終わりだった。


「た、たたっ隊列を整えよ!突撃だ!!全軍突撃ぃぃぃ!!!」


また別の男は叫ぶ。こうなれば捨て身で活路を開くしかないと。

せめて、自らの主君が逃げる時間を稼ぐため、自らの命を敵への防波堤とする。


しかし、それも叶わない。


今度は地面を這うように炎が、氷が、雷が、様々な物が恐ろしい速度で襲い来る。将軍と呼ばれたその男の意識は、そこで永遠の闇に閉ざされる。


更に後方、老獪と呼ぶに相応しい知を秘めた顔の老人。

そして、華美な鎧をまとったまだ年若い男。

2人は眺める様にその地獄を見つめていた。


「こんなはずでは無かったのだがな……。」


「軍の統制は混乱を極め、もはや撤退戦に移行する事も叶いませんぞ。こうなっては私も人柱となり、せめて刹那でも時を稼ぎます。お逃げ……」


老人がそこまで言いかけ、言葉に詰まる。


「自ら舞台に上がって来たんんだ。今になって途中退場なんて出来ると思うなよ。」


先ほどまで、そこには居なかった男が立っていた。


「貴様ぁ……どこから現れたぁ!この下郎がっ!貴様は正しい心を!慈愛の心を持って和を成す存在では無かったのかぁっ!!!」


「慈愛の心?持ってるさ。だからお前らは死ぬ。」


「ぐぅぅっ、ふざけるな!!何の力も持たぬ貴様など、ワシが直々に引導をわ、たぁんぐっ!!!」


老人は最後まで喋る事なく、下顎より上を失った。

顔があった場所からは、血が水道の如くに溢れ、動脈からか気道からかヒョロヒョロと笛の様な音が鳴る。

一歩後ずさり、一瞬だけ踏ん張る様子を見せたが、糸が切れた様に崩れ落ちた。


あまりの速度で振り抜かれた為か、剣には一滴の血も付いていない。


「……余も殺すか。」


「あぁ殺す。」


「殺してどうなる。ここで我が国を併呑しようが、成り上がりの国なぞ他国の良い的だ。

連合を組み、餌を求める獣の様に大挙して押し寄せるだろうな。終わりなど無いぞ。」


「そうなれば、全員殺すまでだ。殺して、殺して、殺して、歯向かう相手は殺し尽くしてやる。」


「悪魔め……。」


「悪魔?俺がか?」


「貴様以外に誰がいる、貴様は、貴様らは悪魔だ!」


「はっはっは」


悪魔と呼ばれた男は、笑い飛ばし剣を振り下ろす。



ーーーーーー



俺の名前は天雲勇気(てんくもゆうき)


子供の頃から勉学にしても、運動にしても、つけられる成績は3か4。

客観的な視点で見れば、別段劣って劣っていたとは言えないだろう。

しかし、仲の良い友人関係に限って言えば、俺は下の中か良くて下の上。

さらに生来の気の弱さとあいまって、自信というモノが持てなかったために、自己評価が著しく低い。


そして、そのコンプレックスは、私生活において他者と関わる積極性を欠如させ、人見知りという俺の性格を形成していった。


仕事に限って言えば切り替えを効かせ、ある程度の対人スキルを発揮することは出来る。

出来るが、それはあくまでも仕事中のみの話しだった……。


趣味らしい趣味もなく、休日になれば図書館で漫画かライトノベルを読む。

そうでなければ、近年になって普及する様になった、VRゲームの世界に浸かり込むかだ。

そんな毎日を送っていれば、学生時代には存在した僅かな友人とも徐々に疎遠となり、

孤独が孤独を呼び込む、負のスパイラル。当然、恋人など夢のまた夢。


それでもゲームを止めるという選択肢は無かった。

それだけVRの世界には、魔性とも呼べる魅力があるのだ。

通常のゲームと違い大掛かりな設備が必要なため、

VRゲームで遊ぶには、専門の店舗に足を運びプレイしなければならない。

家庭用のゲームの様な手軽さが無いため、

発表当初は、コアなゲームファンが利用する程度であろうというのが、世間の認知だった。


しかし、その手間を上回る魅力がVRゲームにはあったのであろう。

サービスが開始されると、予想された枠を超えた流行をみせる。


従来の家庭用VRゲームでは精々【視覚】と【聴覚】、あとは専用のスーツを着込んでの疑似的な触覚を再現するに止まる。

当然その場にて座ったまま、もしくは棒立ちプレイだ。

それは、本来VRの売りであるハズの「まるでゲームの世界に入り込む」という点で、どうしても没入感が足りていなかった。


しかし新たに開発されたVRゲームは、脳の五感を司る部位に電気信号を与え、

旧型VRゲームには無い【嗅覚】、【味覚】まで再現する事に成功したのだ。


また、残る現実世界の感覚を遮断するために、プレイ中は脳を一時的に休眠状態としてしまう。

VR最後の難所であったゲームの中を実際に自らの足で歩けないという問題も解決したのである。

まさに完全にゲームの世界に自分が存在していると錯覚する出来栄えであった。


実生活とは違う自分に、なれる、演じれるVRゲームに多くの者が傾倒するのは、必然だったのかもしれない。


その爆発的に人気が出たVRゲーム。

新たなビジネスチャンスを物にするため、多くの企業が参入し、

新規のハードでありながら、既に様々なソフトが溢れていた。


その数多あるソフトの中で、俺自身のめり込んでいるのが

【|Wonder craft kingdom《ワンダー クラフト キングダム》】略してワンクラ。

ジャンルはオンラインのサバイバルサンドボックス。


ワンクラ内でプレイヤーは、広大な大自然が広がるマップを探索する。

そして木や石を切り出し、道具を作って動物を狩ったり、木の実を拾ったりと、非常に原始的な生活からスタートする。


しかし、狩猟採集の穴ぐら暮らしから始まった後は、

やがて家を建て、農耕を行う様になり、村を作る様に他の建築物を作成してくと

どこからともなくNPCが現れ住み着く様になり

村→町→国へと発展してく。


そして財貨を増やし、

他のプレイヤー達と協力したり、時には争い、

より自国を強大にしていくのがワンクラの醍醐味である。


であるのだが……、

他者との関わりを苦手とする俺は、

オンラインゲームの世界においても、半引きこもりの様なプレイスタイルを貫いていた…。



ーーーーー




今日も、やっと仕事が終わった。


残業は滅多にないんだが、

『仕事生きがい』なんて(のたま)う連中を理解出来ない俺には

一日が恐ろしく長く感じる…。


「お疲れ様でしたー。お先に失礼しまーす。」


まだ社内に残る上司や同僚へ挨拶を済ませ、白い目を向けられながらタイムカードを切り、さっさと車に乗り込む。

真っすぐ家には帰らない。


今日も今日とて【ワンクラ】をプレイするために、VR専門店へ向かうのだ。

会社から10分ほど車を走らせた先にそれはある。


受付を済ませ、店員から暗唱出来るほどに聞き飽きた、利用上の注意事項を聞かされ、

漫画喫茶の個室より少し大きめのスペースに入り込む。

そして、設備本体に横たわり、ヘッドセットにある電源を入れた。

起動のカウント音が聞こえた後、

地の底に吸い込まれる様な感覚に見舞われる。


すると真っ暗だったはずの視界に豪奢な天蓋が映り込んだ。

ゲーム内にある、俺のベッドだ。


部屋に差し込む朝日が眩しい。

ゲーム内ではちょうど明け方か。

窓からは、とてもゲームとは思えない町並みと、大自然の遠景が広がっている。


「さてと、今日もまずは見回りに出かけるか。」


無防備なNPCが、外敵に襲われるとあっという間に死んでしまう。


NPCにも武器を持たせれば、野生動物程度の敵など問題にならないが

武器の装備者数が増えると、町の軍事力の数値も上がる。

さらに一定値を超えると、他のプレイヤーから町への攻撃が解禁されてしまうのだ。

そうなると、国としての(てい)も取れていない俺の町は、

あっという間に低レベル狩りのハイエナプレイヤーに蹂躙されてしまう。


そんな理由により、俺だけが保安官のような役目をはたしている。

この町では俺がオンリーワンのナンバーワンなのだ。


もっとも、町作りだけでもワンクラは十分楽しめるため、

ガチ勢以外は、俺のような引き籠りプレイをしているプレイヤーは相当数いるのだが。


倉庫へ降りていき保管BOXの中から魔道具であるアイスロッドを取り出す。


「使用回数残が8発か……。」


狭い町の見回りとはいえども、これじゃ心もとないな。


魔力を補充するために、

購入ウィンドウを開き、魔石を選択しようとしたところで、

けたたましい警告音と共に、緊急事態を告げるウィンドウが開いた。


「えっ!?そんなバカな!!」


この警告音が動作するのは、他のプレイヤーが攻めてきた場合のみだ。

軍事力が一定値に達していないこの町は、

常時パッシブモードであり、攻撃対象として選択出来ないはずなのに……。


「まさかバグか……?」


慌ててオンラインプレイヤーの一覧を開くが、

敵対時に表示される、赤文字のプレイヤーはいない。



というか……、


他のプレイヤー名が一覧に


全く……


一切……


表示されていない。


「なんだコレ…。」


このゲームにオフラインモードは無い。

サーバーがダウンした場合なんかは、強制ログアウトとなり、現実世界に戻る事になる。

じゃあ今の状況は、一体なんなんだ。

経験したことの無い事態に、頭がパニックになりかける。


「どういう状況であれ、一旦ログアウトした方が良さそうだな。」


オプションウィンドウを開き、退出ボタンに意識を向けた時だった。

視界がブレて、歪む、それに伴って平衡感覚も乱され尻もちをついてしまう。


「いっ…たぁ〜…。」


んんっ!?痛い??

VRの中で痛覚が刺激される事は、無っかったはず…。


ログアウトしたってことか?





「…どこだ。ここ。」



しかし、俺の目が捉えたのは、VR専門店の狭い個室でもなければ、ワンクラのものでもない。


全く記憶に無い、だだっ広い石造りの部屋だった。

読んで頂きありがとうございます。

初めての小説ですので、至らないが多いと思いますがよろしくお願いします。

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