ダイヤの原石~After the Epilogue~
「ダイヤの原石」の後日談になりますので、先にそちらを読んで頂いた方がストーリーが理解しやすいと思います。
「うぐぐっ、流石にこれは失敗だった……」
視界が遮られる程に積まれた書類と悪戦苦闘しながら、職員室に向かう私の身体は左右にフラフラ揺れている。
「……見栄なんか張らなければ良かったなー」
そう、生徒会の後輩達が手伝いを申し出るのを「リハビリだからー」と拒否してしまったのだ。
ギプスは取れたものの、主治医の先生からは「決して無理をしない様に!」と強く言われていたのに。……現在、思い切り無理をして左手が悲鳴をあげてる。
「あぁ! もう限界……」
「……では、僕が持つとしよう……」
「あっ、有り難う御座います。……って、誰?」
両手から重みが消えて思わずお礼を言ってしまったけれど……私の知らない人だ。
「……ふむ……そう言えば君と話をするのは初めてだったかな……。僕の名前は水無月上総。君よりも1学年上になるね……」
「先輩でしたか!? 失礼しましたー! 私は……」
「2―Aの青葉いろはさんだね。……おっと、頑張り屋さん……が抜けていたかな……」
「……頑張り屋かどうかは分かりませんが……名前は合っています!」
……初対面なのに私の名前を知っている。しかも3年生の先輩が……これは、生徒会長の話も強ち嘘ではないのかも知れない。
「さて……この書類は何処に運ぶのかな……」
「あっ、水無月先輩済みません! 職員室までお願いします!」
「……了解。……所でいろはさん……頑張るのは良い事だけれど……無理をし過ぎるのは感心しないね……。心配で気になってしまうよ……」
「あっ、は、はい。気を付けます……」
これって、もしかしなくても……口説かれている!?
うーん……確かに水無月先輩は物腰が柔らかくて良い人そうだし、顔立ちも整っていてちょっと格好良いかも。
それに、マフラーを首に巻いているのがお洒落。……んっ、あのよれよれのマフラーには何故か見覚えが……あっ!?
「み、水無月先輩!? 突然ですけど、そのマフラーは何処で買ったんですか?」
「うんっ? ……これは廊下に落ちていたのを……拾ったものだよ。……落とし主が名乗り出なかったから……僕が貰ったのさ」
このマフラーは私が先生の為に編んだものだ! この、所々解れている下手さ加減は間違いない。……自分で言っていて何だけど、悲しくなって来た……。
「……あのー、ちょっと言いづらいのですが、そのマフラーは私が編んだ物なんです。……水無月先輩は格好良いのですから、そんな出来損ないよりも、もっと綺麗な物を使った方が……」
「……なるほど、なるほど……。実は、今日は僕の誕生日なんだけど……このマフラーを僕にプレゼントしてくれないかな?」
「ええっ!? よりによって、そんなボロボロな物をですか!」
突拍子もない事を言い出した水無月先輩に私は心底焦る。イケメンの水無月先輩に、あんな物をプレゼントをしたら、格が下がってしまいそうだ!
「うん、僕が欲しいのは物ではなくて……君の気持ちだからね……。だから、先生への想いを僕に切り換えて、この……マフラーを通して少しずつ伝えてくれないだろうか……」
「わ、私で良ければ……」
「有り難う。……ふふっ、人気者のいろはさんから誕生日プレゼントを貰えるとは……僕は幸せ者だな。……さあ、この書類をさっさと運んでしまおう」
「は、はい。……宜しくお願いします」
――何に対して「宜しくお願いします」なのかは秘密。
「ダイヤの原石」をお読みになった方はお気付きかも知れませんが、主人公が手編みのマフラーを落としたのは伏線だったので、いつか拾ってあげたいと思っていました。
今回、その望みが叶ったので、作者としてホッと胸を撫で下ろしています。