8.襲撃跡?
丘をこえて、その先の大きく広がった平原に、黒っぽい塊がぽつりぽつりと見えた。
「なんだろうあれは?」
私はリトアさんに尋ねてみる。
「さぁ。なんでしょう」
リトアさんもわからないようだ。
リトアさんは、しばらく黒っぽい塊を見つめていたが、突然ハッとした表情をすると、慌ててまだ寝ているシャルにマントをかぶせ、外が見えないようにした。
はずみで、シルフィが放り出されるが、彼女はそのまま空中を飛んで無事だった。
そのまま飛んで私の頭にもあった小さな輪っかに捕まる。
「リトア、何かあったのですか?」
シルフィはリトアさんを「さん」づけしない。なんでもダーク・フェアリー族のほうが人間族より格が上だからだそうだ。そうですか。
リトアさんは、シルフィの質問には応えず、こわばった表情で私に聞く。
「クロさん、何か近くにいますか?確認してください!」
道中、私に索敵機能みたいなものがあることは話したんだ。でも近くにリトアさん達以外の緑の点はない。もちろん赤も。
「近くには何もないようなのだが。一体どうしたのだ?」
「盗賊が近くにいる可能性があります。十分気をつけてください」
リトアさんの表情はこわばったままだ。油断なく辺りを見ている。盗賊か。
「私はこういう事象は初めてなんだ。どうすればいい?」
盗賊になど当然出会ったこともない。警戒するぐらいはわかるのだけど。
「このまま警戒しながら進んでください。できればもう少し早く。襲撃があったら、できる限りの速度で駆け抜けてください」
「わかった。早くしよう」
進んでいくと、黒っぽい塊が何かわかった。
横転した馬車
転がった荷物
ピクリとも動かない横たわった馬と思われるもの。
そして人
火矢でも射掛けられたのだろうか。燃えたり、焦げたり、煤がついたりして全体的に黒っぽい。
人は・・・・
動物にでも食べられたのだろうか、損傷が激しい。かろうじて人と分かる程度だ。
そのうちの1つを鳥がつついてる。カラスそっくりだが、茶色い。こちらを見ていたが、逃げもせず、やがてまたつつきだした。
「リトアさん、今知ったのだが、索敵機能は死んた生き物、小さな生き物には反応しないようだ」
「わかりました。大事になる前にわかったのは、幸運だったと思います」
それっきり会話がつづかない。シルフィもずっと黙ったままだ。
私達は警戒しつつ、急いてこの陰気な場所を後にした。
ふと、疑問が浮かんだ。小さいのにレーダーにシルフィの反応があるのは何故なんだろう。
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陰気な場所を後にして4時間位休憩もせず。そのまま早めの速度で進んだ。
リトアさん、シャル、シルフィの3人は、走ってる私の上でそのまま携帯食を食べた。シャルは降りられないので機嫌が悪そうだったが。
あ。そういえば、言ってなかった。この世界も1日24時間なんだ。1時間60分、1分60秒。不思議だな。
ただ、ひと月20日 18ヶ月で1年。 つまり1年360日だそうだ。うるう年はないらしい。
時間の経過感覚が地球と同じようだから、自転速度も似てるんだろうな。
会話がほとんどなく。緊迫した雰囲気で道を進む。シャルが時々ぐずる。リトアさんが必死でなだめる。
丘を2つ超え、森を抜け、また平原にでた。日が暮れ始めた。
リトアさんが辺りを見回し、ほっとした表情をして言った。
「今日はここで、野宿しましょう」
シャルは駄々をこねる。疲れちゃったんだろうなぁ。
「やだーー。おうち帰る!おうちがいいー」
泣き出しちゃった。困ったな。私は身を低くし、腕の1本で頭をそっと撫でる。
「じゃあ、私がお話をしてあげよう。シンデレラというお姫さまの話だよ?」
「お姫さま?」
座り込んで泣いてたのを一旦やめ、私を見上げる。
「そうだ。シンデレラという、とてもきれいなお姫さまの話だよ。聞くかい?」
「うん、聞く・・・」
どうやら興味を持ってくれたようだ。よっしゃ、がんばるか。
「昔むかし、あるところにとてもきれいなお姫さまがいました」
「お姫さまはとてもきれいで、性格も優しく、国のみんなに愛されていました」
「でも継母の王女さまは、それが気に入りません。辛い水汲みや、洗濯を押し付けて、毎日いじめていました」
「おひめさま、かわいそう・・」
シャルがつぶやく、いいぞのってくれた。私はシャルの頭を撫でつつ、話を進める。
「継母はそれでも満足せず、ある日、シンデレラに毒入りリンゴを食べさせました」
あれ?間違った?!まずい。しかし訂正するわけにはいかない。シャルがかなり興味を持ってる。
「シンデレラは毒入りリンゴを食べて眠ってしまいました。何年も何年も」
「王様は国中のお医者さんを集めて治療をさせましたが、ずっと眠ったままです」
「シンデレラがずっと眠ったままだったので、国中のみんなは困ってしまいました」
白雪姫だか眠り姫だかわからない話にシフトする。ヒヤヒヤものだ。
「ある日、隣の国の王子様がこの国にやってきました」
「王子様はシンデレラのあまりの美貌におもわず、キスをしてしまいました」
「すると、シンデレラはパッチリと目を開けました。呪いがとけたのです!」
パチパチと手を叩くシャル。気に入ってくれたようだ。
「ままははの王女さまはどうなったの?」
シャルが聞いてくる。どうなったんだっけ。覚えてない。ええい、やけだ。
「実は継母の王女さまは魔王の手下だったのです!」
「うわぁ」
シャルがびっくりしている。このまま畳みこむ。
「王子様は魔王の手下の正体を暴き、退治しました」
「そしてそのまま魔王の城へと向かい、激戦の末、魔王を倒しました」
「おうじさま、すごーい」
シャルがまたパチパチと手を叩く。
「王子様はシンデレラと結婚してこの国の王様となって幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし・・・・・・。面白かったかい?」
シャルはニコニコしながら頷く。
「またお話してくれる?」
よし。計画通り。
「シャルがいい子にしていたら、またしてあげるよ」
「うん。わかった。やくそくだよ!」
うまくいったようだ。
ふと、目を上げるとリトアさんはすでに枯れ枝を集めており、ご飯も作り終わってた。
手伝わなくてごめんなさい。