7.命名騒動?
朝、シャルが起きてから大騒ぎだった。
「うわぁ。妖精さんだぁー」
妖精さんを触ろうと手を伸ばす。
妖精さんは、無表情のまま、羽ばたきもせず、スッと手の届かないところに上昇する。魔法的な何かで飛行か?すごいな。
シャルは歓声を上げながら、ぴょんぴょん飛び跳ね。捕まえようとする。
妖精さんは逃げ出す。シャルは追っかける。妖精さんは焦り始めたようだ。
「だから子供は嫌いなんですよ・・・・・。姿隠し使っても効かないし。睡眠でも眠ってくれないし・・・・」
子供すげぇな。
リトアさんも微笑みながら追いかけっこを見てる。が、そろそろまずそうだ。勢い余ってシャルがパッチンと潰しちゃったら笑えない。
シャルにやめさせようと話しかける。
「シャル。しつこく追いかけていると妖精さんに嫌われるよ?」
「はーい。わかりましたー。妖精さんごめんなさい」
妖精さんは、ゼイゼイ息を切らしながらこたえる。
「ゼィ・・・・、まぁ・・・ゼィ・・・仕方ない・・・・ぜすね」
あ。噛んだと思ったらギンって睨まれた。
ダーク・フェアリーということを紹介し、名前がないということでまた大騒ぎだった。
「ミケにしようとしたら、拒否された」
「当たり前ですっ!!どうしてペットの名前なんですかっ!!」
「えー。ミケって名前かわいいよ?」
私に射殺せそうな視線を放った妖精さんは、そのままシャルに向ける。
シャルは動じない。そのままニコニコ顔だ。
「却下です。却下」
「ミケいいよ。ミケ。ミケミケミケ~」
「何なんですかこの子は」
「この子じゃないもん。シャルだもん」
形勢不利と悟った妖精さんは、リトアさんにすがる。
「貴方。そこの貴方っ!貴方が名づけて下さいっ!!」
「え?私ですか?」
リトアさんは微笑みながら一部始終を見ていたが、いきなり自分に振られたのでびっくりしたようだ。
「ミケという名前でいいんじゃないでしょうか」
「!。~~~~~~~~~」
声にならない声をあげ、空中でジタバタする妖精さん。かわいい。
「嗚呼、この世に神はいないのでしょうか!!!」
盛大に嘆く妖精さんにリトアさんが声をかける。
「シルフィではどうでしょうか。風の精霊のシルフィードからきてるので、妖精さんとはちょっと違うと思いますが・・・・」
「!。そ、それでいいですっそれで。ミケじゃないなら。私の名はシルフィ。シルフィで決まりですっ!」
本人がいいというなら、いいよね。
ようやく落ち着いたころには、だいぶ日が登ってしまった。
なんだろう。こののんびりした感じは、逃亡中なのにいいんだろうか?
「リトアさん、大丈夫なのだろうか。こんなにのんびりして」
「あ。クロさんに話してなかったですね。すいません」
朝起きてから遠見の魔法で、攻められた街、ルベアル様子を確認したのだろう言う。
なにその便利魔法。
とりあえず、簡単な朝食をとった後、焚き火の後始末をして、港町ルームに向かいつつ、話を聞くことにした。
シャルは昨日のように抱っこされて、布でリトアさんに結わえつけられてる。ロープだと痛くなるもんね。
妖精さん、違ったシルフィはリトアさんの左肩に腰掛けている。フードつきマントの肩の部分をしっかり握ってるので、落ちることはなさそうだ。
シルフィに中に入って仮眠しなくていいのかと聞いたら、知識を得るために外に出るという。お腹が空いたりするけれど、人間の食べ物で大丈夫だ。さっき食べたしと。
仮眠中は意識がないからつまらないんだそうだ。好奇心が高いのかな。
あ。リトアさんの魔法の話はこんな感じだった。
「遠見の魔法を使ってルベアルの様子を見ました。魔王軍と思われる軍勢は4分の1ほどは街に残り、後の軍勢は王都方面に向かいました」
「こちら方面、ルーム側には軍勢はいなかったのか」
「ええ。なので、しばらくは大丈夫だろうと安心したわけです」
「もうちょっと早く知りたかったのだが・・・」
「ごめんなさい。ずぐ話そうとしたのですが」
今朝の騒ぎになっちゃったわけだ。しょうがないか。
遠見の魔法は、身体強化魔法の上級魔法なんだそうだ。習得している人は少ないらしい。
上級魔法だけあって、消費する魔力が多く、遠くのものや、長い時間見ることは難しいそうだ。
鳥が上空から見下ろしたように見えるという。建物の中とかは見えない。
「リトアさん、貴方はすごい魔法使いのようだ」
「すごいかどうかはわかりませんが、なくなった主人と10年位あちこちを冒険しておりまして、その間に憶えました」
「え?10年?!その後にシャルを産んだってことは・・・」
頭の片隅で警報が鳴る。まずい。女性に年齢の話は禁句だ。
ゴンッと音が鳴る。私の背中を殴ったようだ。素手で。怖い。
「その先はナシですよ?」
にっこりと笑う。目が笑ってない。怖い。
「了解した。二度と口にしない」
「はい。よく出来ました」
私はなんとか話題をそらすことにする。
「それにしても、こちらに逃げてきた避難民に一向に合わないな」
リトアさんも話にのってくれたようだ。
「そうですね。もう見かけてもおかしくはないと思うのですが・・・」
私の走る速度はダク足のままである。それでもリトアさんがいうには、馬車の速度より速いという。
お互いに不思議に思いながら進む。
シャルもシルフィも目をキラキラさせながら、周りを見てる。旅は初めてなんだろうな2人とも。
動きがそっくりで、なんか姉妹みたいだ。
いろいろな話をしながら道を進む。
この世界のことは全くわからないので、ありがたい。
話を聞きつつも、レーダーは常時確認している。
緑の点はいくつか確認できたりするが、近づいてくるのはいない。むしろ離れていってるのが多い。
シャルは疲れて眠ってしまったようだ。
シルフィはまだ興味が尽きないみたいだ。
丘をこえて、その先の大きく広がった平原に、黒っぽい塊がぽつりぽつりと見えた。