4.街からの脱出?
10分ほどだろうか、麻袋らしきものを2つ。1つは担いで、もう1つは引きずりながら持ってきた。思ったよりも早かったな。
「リトアさん。思ったよりも早かったな。見たところ、水は持っていないようだが」
「逃げる用意だけはしていましたので。水などは私が魔法で出来ますので。」
「おかーさんは、れんきんじゅつしで薬屋さんやってるんだよ!」
なんと、魔法があるのか。今度詳しく聞いてみよう。それより先に確認と準備だ。
「避難先に心当たりはあるのか?」
「ルベアルから川沿いの道を7日ほど馬車で行った先に王都リベールがあります。ほとんどの人がそちらに行ったようです。」
王都か。兵力があるだろうけど、次に狙われるのではないだろうか。
「他には?」
「海側の道を12日くらい馬車で行くと港町ルームに着くようです。行ったことはありませんが。」
国内で大丈夫なのだろうか。前の時はあっというまに国全部侵略されたって言うし・・・
できれば国外がいいと思うのだが。
「国外にあてはあるだろうか?」
「国外・・・ですか・・・亡くなった夫の郷里がありますが、この国の南にあるポニカ国よりさらに南、タルスル精霊王国になりますので2、3ヶ月かかるのではないでしょうか」
うーん・・・それは無理か、小さな子連れての長旅はなぁ。
あんまり考える時間をかけたくないな。逃げられなくなるかもしれないし。
「では、こうしよう。リトアさん。まずはルームへ行き、その街について情報を集めてどうするか改めて決めよう」
「分かりました。とにかく街から出たほうがいいですからね。」
さてあとは準備だが。
「準備をしたいのだが、毛布と大きめの布を何枚か。それからロープはあるだろうか?」
リトアさんはそれほど時間をかけずに、毛布と布、ロープを用意してくれた。
「これをどうするんですか?」
「これを・・・」
いいながら布を足に巻きつけ、ロープで縛る。足を曲げ伸ばしさせ、動きに支障がないことを確認する。
次に背中に毛布をかけ、背中にいくつもあった輪っかにロープを通して縛る。
さっきシャルを背中に乗せてた時にロープが留められそうな輪っかがあるのに気づいたのだ。基本仕様は搬送用だったのだろうか。
「・・・・こうして、こう。どうですか?」
「・・・・なんといいますか・・・その・・・変・・・ですね」
「あはは。変なのー変なのー。」
うん。計画通り。
過去に読んだ記事なのだが、ある男が顔に奇抜な模様をペイントして銀行強盗したそうだ。
目撃した人はみんな奇抜な模様に気を取られてしまい。誰もその男の人相を憶えてなかったという。
これならなんとかなるんじゃないだろうか。
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逃げ出す準備ができたので、こっそりと外に出る。
まだ西側のほうで争ってるような音が聞こえるので、多分逃げられるだろう。
この体、索敵機能はあるんだろうか?そう考えていたら、前方視界の右下にレーダーみたいなのが表示された。
むむむ?この中心の黄色いのは自分として、赤いのと緑色なのはどういう違いだろう?
どちらにせよ、近づかない方がいいか。幸い近くにはいないようだし。
「リトアさん、準備ができたら乗ってください。」
そういって私は乗りやすいように足を折りたたむ。
リトアさんは馬に乗るようにまたがり、前にシャルを乗せ、手綱代わりのロープを握る。
「いつでも行けます。どうぞ。」
その声を聞くと私は立ち上がり、まずはゆっくり走り出す。
馬に乗ったことはないのだろうか。シャルが歓声をあげだす。
「シャル、口を開けてると舌かんじゃうわよ。」
ちょっとリトアさんピリピリしてるようだ。無理もない。魔王軍に見つかるとまずいのだから。
シャルも素直に口を閉じる。よかった。
少し走る速度を早くする。だく足くらいだろうか。今気づいたが、走っても不思議なことにメカっぽいガシャンガシャンとか音がしない。
謎技術だな。道の石畳を足の先が削ってるガガガという音しかしない。
東門が近くなってくる。が、やばい。レーダーの赤い点が1つ、門の近くにいる。
「門の近くに何かいるようだ、魔物かどうかわからない。」
「え?まだ見えないようですが・・・・」
建物の影からのっそりと出てきた。人型。大きい。棍棒持ってる。トロール?オーガ?ジャイアント?
こちらに気づいたみたいで大きな咆哮をあげ、棍棒を構え直した。
「あれはオーガです!人間を食べます!」
あ、視界前方にまた注略文みたいの出た。
>[ 魔王軍 第257師団 巨人小隊 氏名未登録 ]
おおう、どうする逃げようにも門の前をふさいでるし、なんかないかなんかないか、武器武器武器だよ。
慌てていると、腕の1本が勝手に動き、腹の方をゴソゴソやってたかと思うと剣を取り出した。でかい。2メートル位ある。
でもリトアさんやシャルが乗った状態で接近戦なんかできるわけがない。
あと20メートル。どうするどうする。ええい、やけだ。
「どっせーーーーーーい!!」
剣を思いっきりぶん投げた。
音を立て勢い良く回転した剣はオーガの首をスパーーンと刎ね、そのままどこかに飛んでいった。すげぇ。
私達は首を失ってゆっくりと倒れるオーガの横をすり抜け、門をくぐり街を抜けだした。