きっかけ
真珠の光沢の柱にもたれ世話役に付き添われた『異母弟』を観察する。
この世界の王が我らが父。
成人。一人前として挨拶をし、役割をいただく。
成長速度の都合とはいえ、また弟に先を越されていく。
いつもなら駆けてくる弟が不思議そうに見つめてきていた。
よく見てみると色が違うのに気がついた。ほんの僅か、それでも違うソレ。
「あにうえ」
不安そうな声は確かに弟のもの。
弟には違いないか。
娯楽で王をつとめていると言い放って笑っている父だ。それでも、その緩さは力溢れる父王故に許される傲慢。
「しゃんとしなさい」
弟は混乱しているようだった。
弟の本性は大クラゲ。穏やかで甘えただ。
それとなく謁見の間に誘導する。
謁見の間では父王がいつものように妃たちを侍らせていた。
妃たちの種族の半数は単性の種族。つまり他種との交渉で子をなす種族だ。
弱過ぎるがゆえに乱獲され滅びかけた生き残りも、高過ぎる戦闘能力ゆえに殲滅されかけた生き残りもいる。
王の名のもとに今は保護されている。
そしてその候補とされている少女達も存在し、王の子が成人のおりにそばに配される。
「南の地区を任せる」
父王はのんびりと弟に言い放つ。
あの地区は本来穏やかだが、今は荒廃の海域だ。
生態系も狂っている。
「お前の魔力ならなんとかなるだろう」
相変わらず適当な父である。
問題を抱えていることに気がついていないわけでもないというのに気にした風もなく楽しげだ。
かつて、弟は一人前の成人になどなりたがってはいなかった。
今の弟はそれをはやる表情で受け入れる。
ゼリア。
そんなに嫌だったのか。
弟は荒廃の海域に渡るには向いた性質を持っている。だが、性質と性格は別のものだ。
切りはなされた身体は魔力と共に周囲に散り活性化させる。それが弟の持つ性質。
つまり身を切る痛みを許容してこその荒廃地再生事業となる。
ただ、ゼリアは痛みを嫌う。
性格が向かない。
今のゼリアはそれをわかっていないようでやる気に満ちて出ていった。
アレは喰われる想定などしていなさそうだ。
南の海域は広く暖かく穏やかな美しい海域だ。
本来なら。
そう。現在は荒廃している。
数週間前に魔法使いが禁呪合戦をやりあった。
その海域に住む生物全体から生命力を枯渇させうる禁呪。発生源自体は父が術士ごと消滅させたが、海域をかつてのように美しく命咲き誇る海へと再生させるには魔力を供給するだけでは狂った生態系となる。時間と順序をかけなくてはいけない。
父はその再生事業を弟に任せたのだ。
『面倒くさい』なんて幻聴だろう。