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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
目を背けていられない事態に発展しそうです!!
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景資くんは想像以上に親族に可愛がられる運命のようです。

 藤三郎とうざぶろうが、隣の屋敷に駆けつける。


「申し訳ございません‼」

「どうした?藤三郎とうざぶろうか?大きくなったな?」


 かすれた声で囁く景虎かげとらを拳で殴る女性。


「馬鹿‼変声の時期なんだからしゃべらないの‼えっと、景資かげすけの弟さん?」


 ニッコリと笑う女性は、美人ではあるが、あっさりとカラッとした女性である。


百合ゆり。ちゃんと挨拶しなさい。礼儀知らずよ?」

「はい、お姉ちゃん‼」


 采明あやめにたしなめられた百合はニッコリと、しかし優雅に頭を下げる。


「始めまして。私は柚須浦百合ゆすうらゆりと申します。采明お姉ちゃんの妹で、咲夜さくやの姉です。よろしくお願いいたします。藤三郎くん」

「は、始めまして‼あ、あのっ‼私は中条藤三郎と申します。きちんとご挨拶ができないのは失礼だと解っておりますが、兄の‼兄の弥太郎やたろうが、侍女の烏丸からすまるに切りつけられました‼烏丸は兄によって切り捨てられましたが、兄が倒れ……」

「なん……」

「だからしゃべるなって言うの‼」


 あっさりと鳩尾に拳を叩き込み、百合は立ち上がる。

 現在で言えば、160センチの橘樹たちばな、165センチのあかねよりも高い。

 驚くほどの長身である。

 そして身を屈め、


「ごめんなさいね?長身でビックリしたでしょう?お願いします。景資……お兄ちゃんのところに連れていってくれる?もしよければ手を繋いで欲しいの。お兄ちゃんと私はお友だちなの」

「は、はい‼」


差し出された手を握り、歩き出す。

 藤三郎の手は震え、


「兄上は……本当の兄上だった姉上は、あんな目に遭ったのかと……それに兄上も、本当の兄弟でないのに、私たちを本当に心配してくれて……最近、勝手に反物を買ったり、飾りを買ったり、母上が叱ってもやめないゆき姉さんを、叱ってくれて……本当に狙われたのは雪姉さんで……あっ!」


板に載せられ運ばれていく烏丸の遺骸を目にし、百合は、


「まだ馬鹿をやっていたの?この子。それに、景資も本当に優しいんだから」

「驚かれないんですか?」

「うーん……一応はビックリね。でも、自業自得でしょ?自分の愚かさを改めなかった罰よね。でも……」


目を伏せると、連れていく者たちに、


「少しだけ、構いませんか?」

「何かなされるので?」

「鎮魂歌を……」


大きく息を吸い、歌い始める。


『アメイジンググレイス』


 黒人霊歌とも呼ばれる奴隷として異国から連れてこられた人々が、自分達の不運を嘆きつつ、祈りを捧げ、明日が幸せでありますようにと祈る歌である。


 そして、死者に次の世は幸せにと百合は祈る。

 好きではない少女だったが、安易な道しか進まず、自分を考えなかった……けれど、自分はこうなりたくないという反面教師になった少女。

 このような最後を遂げたのはかわいそうではあるが、それでも……。


 一曲を歌い終えると、周囲から拍手が響く。


「とても素晴らしい‼この小娘に歌うのがもったいないのぉ?」


 あずさの感嘆した声が響く。


「この曲は、『アメイジンググレイス』と言って、奴隷として異国に連れてこられた人々が、苦しくとも生きよう……命が尽きて生まれ変わったら、幸せになれるように……と言う歌です」


 采明は妹を見る。


「本当にプロのメゾソプラノ歌手なのね‼」

「本物よ‼オペラハウスで歌ってたんだから‼あ、後で渡すものがあるの。じゃぁね‼」


 藤三郎と手を繋いで、微笑む。


「どうだったかしら?ビックリしちゃった?」

「とても‼でも、采明姉さんも歌がお上手ですが、声の大きさ、広がり、そして歌に込める思いが‼また聞かせてくださいますか?」

「良いわよ。いつでも」


 手を繋いで歩いていった先が、ざわざわとする。


「景資‼景資‼」


 必死に息子に呼び掛けるのは一度会った、咲夜の母、佐々さざれ


「おばさま‼景資の傷の洗浄を‼多分、毒は曼殊沙華まんじゅしゃげの毒です‼」

「な、何故解るの?」

「この家の周囲をめぐる曼殊沙華の花には、毒があります。口に入れると吐き気などがありますが、切られた傷なら、洗浄と、深い傷なら縫います」

「ぬ、縫う⁉景資の体を‼」


 きゅうぅぅぅ……

想像したのか意識を失った母を支え、


「兄上は、布ではない‼」


与次郎よじろうの一言に、顔を覗かせる景虎。

 心配になり追いかけてきたらしい。


「おい、百合……薬箱忘れるな」

「そうだったわ、ありがとう」


 受け取った薬箱を持ち込み、


「ちょっと離れて‼」


と、見ると、


「あぁ、想像よりも浅いわ。神経にも大丈夫でしょう。じゃぁ」


と、ある小瓶の蓋を開け、景資の背中にぶちまける。


「ぎゃぁぁ‼痛い、しみる‼」

「おほほほ~。すみません、清潔な布と、長いさらしを」


 一応背中を拭き、ベッタリと薬を塗った布を押し当て、


「すみません。佐々礼さま。手伝ってくださいませんか?景虎もね?」

「解った」


と、3人がかりでさらしを巻く。

 ぐったりとした景資に、


「しばらく痛み止を飲みなさい。それと、口から飲んだものではないけど解毒剤も」

「お、鬼……痛いじゃないかぁぁ‼」


文句を言う景資に、百合は古びた錆びたカッターナイフを示し、


「これで切られたんでしょう?錆びてるし、あの子何切ってるか分からないのよ?それでもいいの?」

「何切る……って」

「琉璃も切ったし、何かある度に振り回していたのに、それでも消毒要らない?」


その言葉に、


「あ、ありがとうございました。百合さま」

「さまやめてくれる?嫌味?」

「いや、本心です‼」

「じゃぁ、休んでおきなさい」


着替えをさせ休ませると、


「ありがとうございます。百合さん。景資に何かあったら‼」


涙ぐむ佐々礼に、


「いいえ、大雑把な治療で逆に申し訳ございませんでした。佐々礼さま」


頭を下げる。


「景虎さまも……本当に……‼お久しゅうございます。景虎さまのお陰で……」

「佐々礼母上は私の母だ。母上、長い間の親不孝、本当に申し訳ございません」


 頭を下げる主君に、涙ぐむ。


「もったいないことです。本当に……嬉しゅうございます」

「佐々礼‼景資は⁉無事か?」

「あなた……‼」


 駆け寄り抱きつく。


「大丈夫でしたわ‼しばらく、傷が塞ぐまで……休ませて……」

「母上‼そのような時間はありません。景虎さまのご帰還はすぐに周囲にしれわたるでしょう。相手を、翻弄するためにも動くべきです」

「傷は⁉」

「治しつつ行います。景虎さまの軍師として、つとめを果たしましょう」


 必死で言ったものの、途中でガックリとする。

 痛み止の中には睡眠作用があるものもある。

 それに負けたらしい。


「まぁ、景資の考えている事はある程度わかるから大丈夫ね。頑張りましょう」


 百合の一言にガックリと、


「またこき使われるのか……」


と、景虎は呟いたのだった。

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