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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
目を背けていられない事態に発展しそうです!!
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父は、偽りの息子とどのように向き合うのでしょうか?

 妻と、子供たちが姿を見せる。

 しかし、何故本物ではない息子と名乗る少年の立ち居振舞いが、他の子供たちよりも優雅で完璧なのかが知りたいものである。


「失礼いたします。父上、お待たせしてしまい申し訳ございません」


 正面に座るとゆっくりと頭を下げる。

 その礼儀正しさ、そして所作も本当に優雅である。


「では、聞こう。そなたの名は」

中条弥太郎景資なかじょうやたろうかげすけでございます」

「年は」


 きょとんとし、そしてニッコリと、


「11歳……数えで12でございます」

「はぁぁぁ‼」

「なんと?」


家族、兄弟姉妹が、目を見開く。


「あ、そうでした‼18です」

「嘘をつかないでよ‼嘘吐き‼」


 ゆきは背は高いが年下の少年に怒る。


「お兄ちゃんじゃないじゃない‼しかも15の虎ちゃんよりも年下じゃない‼」

「年なんて関係ないね‼知らないのかい?多分、采明あやめさんも知っていると思うけれど、今だってね?本妻の前に側室が子供を産んでいたら、後日、正室が子供を産んだら長男、次男を入れ換える例が多々ある。それに、白村江はくすきのえの戦いといわれる戦いがあり、当時、中大兄皇子なかのおおえのおうじ大海人皇子おおあまのおうじも、実は大海人皇子は母天皇が、最初に結婚して生まれた子供を隠し育て、再婚して生まれた中大兄皇子の後に生まれた子供が幼くして死んでしまったからと、成人するまで静養させると遠方にて育て、成長して呼び寄せたという説話がある。逆のパターン……逆のお話だっておかしくない筈だよ?」

「それこそ嘘‼お父様‼この子は偽物よ‼6才も違うのに、何で、こんな図々しい‼」

「私は、咲夜さくやと約束した。体が不自由になり歩くことができず、不便も多い。でも、懸命に生きる咲夜が心配していたのは、両親……父上と母上、兄弟姉妹……そして、戦場に立つ景虎かげとらさまのこと‼」


 景資かげすけは、じっと雪を見る。


「私は、咲夜と自分に誓った。これから困難な道を歩むであろう景虎さまの傍に、着いて行けない自分を嘆いていた咲夜。私は実の父に、父がしでかした浮気問題を揉み消すために、二つ上の姉は大富豪の第四夫人に、私は同じく大富豪の未亡人に飼われる金糸雀かなりあという歌う鳥。その鳥はね?異国では美しい声で鳴くので愛玩用に育てられるけれど、もうひとつ、飼われる理由があってね?」


 じっと見つめる景資に、


「何よ‼言ってごらんなさい‼」

「じゃぁ言うよ?その鳥は、ここの海を隔てた佐渡に鉱山がある。鉱山は掘れば掘るほど空気が薄くなり、時々温泉の近くだと空気が変化し、息が出来なくなる。この国では違うけれど、他の国では、変化を敏感に伝える鳥……つまり、人が死ぬ前に自分が生き絶えるように飼われているんだよ。つまり生きていても死んでいても飼い殺しだね。それを実の父親に命じられる……その悔しさが解るか?」


景資は続ける。


「今、咲夜は犬を飼っている。その犬は、生まれた時に後ろ足の股関節に異常があって、歩けないから殺すと言うのを引き取った。咲夜は日々必死に自分自身下半身が動けない……感覚がない状態で、歩くこともできないのに、愛犬の前足を鍛え、後ろ足は必死に揉みほぐし、足の曲げ伸ばしを続け、ペットの専門医に診て貰い、股関節の骨の一部を手術で治せばと言ってもらえた。この愛犬は手術をして、走り回れるようになった。この違いは何だか解ると言うのか?雪‼お前は、自分の身分が誰によって与えられ、誰によって衣を与えて貰い、お嬢様として育っているか解っているか‼女だから、咲夜がいたから?馬鹿を言うな‼そんなことを言うなら、『私が弥太郎お兄ちゃんの代わりに景資になる‼』と言えば可愛いものを、私よりも年上と言うならもう嫁いでいてもおかしくない筈だが、それもできないのなら、中条の将来を考えない愚か者だ‼」


 周囲はシーンとなる。

 目を閉ざし大きく息をついた景資は、告げる。


「中条の人間ならば、中条の家を一番に考えることだ。姉のはるのように嫁ぎ、子を儲けるか、出来ぬのなら女の身を捨てて、男として戦場に立て‼それすらできないならば、尼寺に行け‼選べぬなら、そなたは中条の人間ではない‼中条の家を第一に考えてこそこの時代を生き抜ける‼出来ぬのなら‼」


 回廊を回り、姿を見せる侍女が、


「失礼いたします。お嬢様……弦楽のお時間でございます」

「あぁ、烏丸からすまる‼もうそんな時間だったの?お父様行って参ります」

「待て‼話は終わっていない‼」

「聞くなんていっていないわよ‼」


言い返した雪を無視し、


「久しぶりですね?昔は黒龍の姫と吟われた美貌の持ち主が……老けましたね」

「どちら様でございましょう?」

「おや?年ですか?百合ゆりは数えで20ですが、19の筈ですよね?関驪珠せきりしゅどの」

「……ちっ‼」


舌打ちをした烏丸に、


「下品な侍女ですね。厳しい注意をしても構いませんよ?」


微笑んだ景資は、


悠真ゆうしん叔父上、この女を即刻雪から離せ。この女の影響を受けた人間が、咲夜たちに何をしでかしたのか、聞いていないのか‼」


厳しい口調に、雪が叫ぶ。


「勝手に口を挟まないでよ‼烏丸は私の一番の侍女なんだから‼」

「ほぉ?雪は……皆は知らないのか?この女は、母親は私の師匠の弦楽や声楽で世界的にも有名な音楽家。父親は私の実の父の商売敵……と言っても悪徳業者で、当主やその側近に袖の下を、手心を加えていた。そしてこの女は、自分の母親が忙しい仕事の合間に、孤児院に暮らす1つ下の少女を気に掛けて会いに行くのが気に入らず、石を投げたり、泥団子を投げたり、髪を引っ張ったり、突き飛ばしたり……それを母親にたしなめられると、父親に告げ口し、孤児院を追い出した」


 淡々と告げる景資に、雪は烏丸を見る。


「本当なの?そんなことを、するわけないよね?」

「あら、やりましたが何か?つねったり、小さい刀で切りつけたり、あの子が可愛がっていた犬も殺したわよ?……だって、言うことを聞かないんだもの。私の母に近づくな、という命令を聞かないんですもの」


 オホホ……


笑う。


「あの子がいなくなってすぐに母が消えたのよ。そうしたら父は何も悪くないのに母が離婚を突きつけて、財産全部持ち逃げして即、大富豪と再婚よ?大富豪には跡取りの長男と、前の妻の遠縁だという琉璃りゅうりがいたわ。孤児が大富豪の娘?馬鹿馬鹿しい‼私の家をボロボロにしたのはあいつなのに‼だからカッターナイフで切ってやったのよ‼私のどこが悪いの?」

「一言言わせてもらうけれど、この女の父親は浮気性で、その頃、夫のある女性と息子をもうけていてね?その上に世界で、戦争に苦しむ、貧困や女性への暴力などのために歌を歌い、その収入はほとんど寄付していたけれど、大ファンであった琉璃のお父さんが『是非次の舞台で身に付けてほしい』と、宝石を贈ったら、それを盗んで金に変え豪遊するんだよ。先生は必死に探すのに、琉璃のお父さんが見つけて、不快と言うよりも不思議がって電話を掛けて、何かあったのか?相談に乗るよと呼ばれたんだ。そこで、そんな状態の家庭では先生が苦しむと、手を回して財産凍結に裁判だったけど?ねぇ?先生と琉璃のどこが悪いの?」


 烏丸を冷たく見据え、景資は続ける。


「琉璃は腕に数十ヶ所切りつけられていたよ。他にも、お腹を刺されていたって言っていたね。そして、琉璃の素性が解った。異国の国王のただ一人の血のひいた姪。その国のクーデターのゴタゴタで行方不明になっていた妹姫の忘れ形見。琉璃はかわいくて優しい子だよ。結婚してもうすぐ子供が生まれるけれど、本当に幸せそうだ。でも、お前は……努力もせず、歪んだ恨み辛みだけを吐き続ける、本物のからすになったんだね。無様な‼」

「私のどこが悪いのよ‼そこのがきんちょだってちやほやしたら、同じだったわよ。遊ぶのって楽しいわよ?裏で告げ口したりね?あはは‼この子はすぐに言う通りにやってくれたわ‼それに結婚できないのをひがんでいるのよ。そこの妹には婚約者がいるのに、行き遅れになるんじゃないかしら」


 笑う烏丸に、すぅぅっと近づいた佐々さざれが平手打ちをする。


「私の娘を馬鹿にしないで頂戴‼」

「なんですって⁉おばさんだって体を売って……な、な‼」


 烏丸は目を見開く。

 藤資ふじすけが一瞬のうちに刃を閃かせたのである。


「……何度も何度も、更正の道を与えられておったのに……その優しい手を振り払い、周囲を苦しめ続けたむくいは、自ら受けよ‼」

「な、何で、私が……‼私が、何をした、のよ‼」

「わしの刃で逝けることを誇りに思え」


 控えていた一太いちたが、主の剣を受けとる。

 と、烏丸が、隠し持っていたカッターナイフを、雪に振り上げる。


「雪‼」


 立ち上がった景資は、雪を抱きしめ体を反転する。


 ザッ!


という音に、景資は唇を噛みしめる。


「弥太郎に何を‼」

「弥太郎さま‼雪さま‼」


 悠真と一太が駆け寄ると、


「一太、雪を‼」


妹を預け、身に帯びていた脇差わきざしで、


「地獄で自分の罪を償い、生まれ変われ‼」


と、両手で握り、切り捨てた。




 目を見開き、生き絶えた烏丸を見下ろし、


「罪人といえども、母親は素晴らしい方だったが、父親がひどい男だった……赦しは私は与える者ではないが、いつか……優しい両親のもとに生まれるといい、な……」


力を失った様に膝をつき、倒れこんだ。


「景資‼景資‼」


 佐々礼が叫ぶ。


「医師を‼薬師を‼」

「ハッ!」

「その前に、寝台に‼休ませよ‼」


 一太は傷にさわらぬように抱き上げ連れていき、佐々礼は必死に追いかける。

 悠真は、近くにいた男たちに遺体を運ぶようにと告げ、侍女が青い顔をしながら数人が血に染まった板の間を拭いている。


「……雪」


 静かに、藤資が娘の名を告げる。


「何か言いたいことはあるか?」


 ビクッと肩を震わせた雪は正座をし、深々と頭を下げる。


「も、申し訳ございませんでした‼お父様‼私が、私が愚かでした‼兄上の、兄上の覚悟も知らず、自分の身分をかさにきて気ままに生きようとしておりました‼申し訳ございません」

「……雪。景資は、お前の何だ?」


 顔をあげた雪は告げる。


「兄上は、私の兄上です‼私は身を慎み、中条の娘として生きていこうと思います‼」

「……それでよい。与次郎よじろうたちも良いか?」

「はい‼兄上は僕たちの兄上です‼兄上と共にこの中条の家を守ります‼」

「……では、藤三郎とうざぶろう。隣の屋敷に向かい事情を説明を。与次郎。兄に付き、佐々礼……母を慰めよ。あれは本当に……」


 藤資はふと庭の空を見上げる。


「嵐になるか……そして、晴れ渡るか、もしくは景色が変わるか……」

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