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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
目を背けていられない事態に発展しそうです!!
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驪珠は、見たこともない世界に戸惑っています。

 ざわざわと周囲の声が響く。


「な、なんなんだい?この不細工な顔!!」

「そうだよそうだよ。この髪も、奥さまはふわふわの柔らかそうなのに、なんだい、この気持ち悪い色は」

「しかも、服装もひどいもんだ。春をひさいで移動してきたのかねぇ?でも、こんな不細工、買う方も買う方だよ」

「奥さまが拾ってきたのかねぇ……本当にあんな目に遭ったと言うのに……本当に奥さまらしい」

「それにしても景資かげすけ坊やも……中条の旦那様も奥さまも悲しみは尽きないねぇ……」

「お可哀想に……あんな可愛い坊やをうちらは失い、こんなのをこの部屋に迎えたのかい?」


 驪珠りしゅは、イライラする。

 そして、


「うるっさいわよ!!不細工不細工と!!その不細工はどこにいるのよ!!捨ててくればいいじゃない!!」


起き上がり叫ぶが、周囲の失笑を買う。


「あははは……!!自分の姿がわかんないのかねぇ?自分のことを捨ててこいなんて」

「あぁ、おかしい!!」

「なんですってぇ!!このあたしのどこが不細工よ!!」

「黙れ!!朝から騒々しい!!」


 驪珠は頭を叩かれ、押さえる。


「早朝からわめくでないわ!!黒なら目立たずよいものを、金ぴか下品なからすが!!」

「な、なんですって!!私を!!」


 食って掛かろうとした驪珠に、


「あんた、お止めよ。この方はね!!」

「このかたでもどのかたでも知るか!!ばばぁってだけでしょ!!」


その言葉に周囲が凍え、顔をあげた驪珠は般若はんにゃを見た。


「……なんじゃと?そのほう、この妾に向かって何と申した」

「お、お止めよ!!この方は……」

「うるさいわよ!!このばばぁ!!どうせ、若作りの化粧ベタベタしてるんでしょうが!!」

「お前にいわれとうはないわ!!」


 当主、神五郎の母、あずさはにっこりと微笑む。


「そなたのように、しみや根性の悪さを隠さずとも、私の美貌は光輝いておるわ!!この無礼者めが!!」


 手をひらめかせ、すさまじく良い音が響く。

 驪珠は吹っ飛び床に倒れるが、起き上がるとすでに、髪の毛を踏まれている。


「まずは、礼儀作法から覚えるがよい。出来ずば本日の食事は抜き。そして、この者達と共に一日働いてもらう。この汚い髪は要らぬな。お前は今日からたえとよぼう。しかし……妾も、このような品のない女に『ばばぁ』と罵られるとはの……」


 梓に掴まれた髪を、肩の辺りですっぱりと切り落とされる。

 そして、落ちた髪を、


「これは、ごみじゃ、妙、掃除を。そなたが掃除を終えぬと、皆が仕事にならん!!」

「あ、あたしは汚してないっ!!」

「命令を聞けと申した!!言い訳など聞きとうはないわ!!」


 パーン!!


響き渡る。


「な、何をするのよ!!お、お父様にも殴られたことはないんだから!!」

「ほぉ……で、お前のような愚か者が育ったか。妙」

「私は妙じゃない!!驪珠!!」

「……おほほほほほ……!!」


 梓は、扇を広げ笑う。


「驪珠……金ぴか下品なからすが、黒龍の宝玉とな?その黒龍……父親の馬鹿さ加減がようわかったわ。おほほほほ……これは笑える。では、お前は烏丸からすまると呼ぼう。烏丸。掃除を丁寧にな?出来てなければ、再び参るぞ。では、ゆき参るぞ?」

「はい!!おばあちゃま」

「ばばぁじゃないの!!」


 ポロっとこぼした一言に、梓から張り手、雪からは蹴りを頂く。


「孫におばあさまと言われても良いが、関わりのない人間にばばぁと呼ばれるのは腹が立つの。ではの」


 立ち去る二人に、周囲は頭を下げ、


「本当に、本当にやめてくれないかい?大奥様は、ここでは有名な美貌の持ち主であり、あの気性で戦場に立たれるんだよ!!」

「そうだよそうだよ!!梓様には二人の息子と二人の娘がいらして、一番上のお嬢様は……」

「おはよう!!皆。あらぁ……バサバサじゃない。色も変だし……この子の名前は?」

「おはようございます。橘樹たちばなお嬢様。お体は?」


庭から回ってやって来たその女性は、ぎょっとするほど大きなお腹をしている。


「で、デブ……!!」

「何か失礼な言葉が聞こえたような気がしたけれど?」


 持っていたなぎなたの刃先を烏丸に突きつける。


「ふ、太って……いらっしゃるんじゃないんですか?」

「あら、言えるじゃないの。でもね?行儀がなってないわ!!主の姉に対して、その物言いは何!?お辞儀もできないの!?」


 刃先が怖く、慌てて何とか見られるように頭を下げる。


「よろしい。それと、私のことは橘樹様と呼びなさい!!そして、このお腹はもうすぐ臨月!!わかったかしら?」

「わかりました……」

「かしこまりましたでしょう!!皆!!迷惑かと思うけれど、この小娘を最低限見られるようにしておやり。神五郎しんごろうや旦那様と父上は兎も角、重綱しげつなは馬鹿だから、近づけないようにするわ」

「かしこまりました。ですが、旦那様も大丈夫ではございませんか?」


 その言葉の苦笑する。


「ダメダメ。神五郎は可愛い嫁と娘がいないと動かないのよ。今日も3人でお隣に行くのよ……と言いながら、何をしているの!!お前は!!」


 逃げ出そうとした烏丸を追いかける。

 そして、


「みな!!食事に、仕事を始めなさい!!仕事ができないと困るでしょう?私がこの小娘……」

「烏丸と、大奥様が!!」

「そうなの。じゃぁ、金ぴか下品なカラスを捕まえてくるわ!!」


楽しげに、なぎなたを持ったまま走り出す臨月前の橘樹を見送ったあと、周囲はため息をつく。


「橘樹様も面白がられるから……」

「まぁ良いけれど」

「それよりも食事よ食事」


 女性たちは髪の毛を捨てると、食事をとるのだった。

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