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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
再び登場!!本当に順応が早い景虎くんです。
59/87

遼さんは現実か夢か幻か……さ迷います。が、その前にデレ甘本性が暴かれました。

 結婚式場に一番近い病院に担ぎ込まれたはるかは、大手術に臨むことになる。


「先生!!私も手伝わせてください!!」


 なつめが叫ぶ。


「私は、外科医です!!先程入った山田先生の後に、外科主任を任されます!!それに、兄を!!兄の命を救いたいのです!!」

「駄目じゃ。身内に対する感情に揺さぶられ、メスがぶれては困る!!迷惑じゃ!!それに、ワシは知っておる。遠藤遼えんどうはるか。こやつは、本当に生きる意味を知っておる!!そこで泣いている嬢ちゃんを守ろうとしておる!!」

「私は、馬鹿ばかりをしていた。兄から見て愚弟の一人です!!でも!!私は!!それだからこそ、兄を救いたい!!そして、咲夜さくやちゃんたちと異国に旅立つ兄に安心させたい!!自分が今まで本気ではなかったことを改めて、自分が遠藤病院を守ることを!!お願いします!!」


 頭を下げる棗に、


「……解った。では、たもつ。息子を早急に外科主任とやらに短時間で叩き込んでやるわ。このヘボ親父!!」

「うるっさいわ!!何なら、棗を最高ランクの外科医に早急に仕上げやがれ!!……それと、遼を……」


保は頭を下げる。


「わかっとるわ!!行くぞ半人前!!」


 医師小西は、入っていった。


「遼様……遼様!!あぁぁぁ!!」


 泣き崩れる咲夜を抱き締めるのは、景虎かげとら百合ゆり


「咲夜!!泣くな!!あの遼兄さんがそう簡単に負けるか!!咲夜!!お前が泣くと、ゆかり兄さんにショーンが悲しむ」

「そうよ。咲夜!!泣くより、気をしっかりもって!!遼さんが大好きなもの、知っている?」

「えっ……」


 ハッとすると、俯く。


「い、何時も、私の好きなものを探してくれて……。美味しいジュースを一緒に飲んだり、ケーキを買ってくれて……笑ってくれて……。あっ!」


 咲夜は、顔をあげる。


「テディベア!!とても大好きだって!!一緒に作ったんです!!ウェルカムベアとウェイトベア……大丈夫でしょうか……」

「あの熊たちは、後で返してくださいと警察にお願いしているわ」

「本当ですか?葉子ようこお母様!!じゃぁ……あの、私、遼様と祐司お兄さんにテディベアを作ります!!元気になるようにって!!」

「お姉さん……」


 泣き腫らした目で近づいてくるのはショーンである。


「お姉さん……僕にも、作り方教えてください!!祐司伯父さんに……僕が!!」

「私も作るわ……ショーン。一緒に!!」


 カランも涙は見せないが、青ざめた顔で告げる。

 と、今回は仕事で抜けられず、結婚式出席キャンセルだった勾田儁乂まがたしゅんがいが、何故か大きな荷物を抱えてくる。


「オーイ!!咲夜ちゃん!!それに伯父さんに伯母さん!!はるは?それに祐司兄ちゃんまで巻き込まれたってほんとですか!?」

「……儁乂しゅんがい君……」


 必死に己を支えていた葉子が、顔を覆い泣き出した。


「何で……何で、紫と沙羅さらちゃんとの式に!!離婚してもつきまとって……あの女!!」

「はぁ!?あの女って……」

絵莉花えりかだよ。あれがやって来ていて……異国の暗殺者と接触して、本物の爆破装置をおもちゃだと!!祐司君が、ショーン王子と遊んでいたときに見つけて、遼と二人で、犯人と爆破に巻き込まれて……うぅぅっ」


 嘆く両親を晶人あきと冬樹ふゆきがベンチに座らせる。


「儁乂兄さん……なつにいが、はるにいの手術に立ち会うって、先に運び込まれた祐司兄ちゃんの方がまだまし……って言っても、全身傷だらけ……。はるにいの方は、教会の柱か、ベンチの樹か何かが背中に……祐司兄ちゃんを庇ったみたいで、頭も打ってるのに、犯人を捕まえて引き渡してから意識を失ったんだ」

「……ヤバイんじゃないかそれ!!祐司兄ちゃんも……」

「沙羅姉さんが嘆いてて、紫にいが……でも、一番衝撃なのは、紫にいだと思う……」


 儁乂は、どうしても外せなかった仕事に舌打ちする。

 もし傍にいたら、何とか出来たかもしれないのに……と、


「あ、そうだ。咲夜ちゃん。心配して手がつけられないと思うけど、これ、はるが道具を買いにいくお店の半分縫っていて最後に綿詰めをするだけのテディベアだよ。綿とかも持ってきたから……心配だと思うけど、気をまぎらわせよう。ね?」

「……あ、ありがとうございます!!」

「あいつはタフだから大丈夫だよ。だからかわいいベアを作ってあげてね?」

「はい!!」

「あぁ、何ならウェディングベアなんてどう?咲夜ちゃんのドレス姿、あのはるがニタニタはしないと思うけど、絶対デレる!!」

「僕も!!おじちゃんに!!祐司おじちゃんに作りたいです!!」


ショーンに儁乂は微笑む。


「おぉ!!頑張れ!!祐司兄ちゃんは絶対喜ぶぞ?」




 病院や国の用意した、病院内での会議室などは警察の確認によりほぼ解放されているが、ロウディーン公主達の待機室にぬいぐるみに道具などを持ち込んだ。


「あ、新しいお道具です……それに、裁縫箱……」


 咲夜の呟きに、儁乂は、


「はるが咲夜ちゃんの為に、揃えたいんだって言ってたんだよ。あいつは表向きはあぁ言う感じだろう?自分の趣味と言うかもうひとつの顔を見せるとって言うんでな。俺が、嫁の好きなテディベアを買いにいくってことで、行ってたんだ」

うららさんは!?」

「今回は俺も仕事、麗だけでもと思っていたが合宿だったから……咲夜ちゃんを本気で心配していた」


咲夜は瞳に涙を溜める。


「儁乂さん。私は……昔、何かあったら家族や皆だけ助けて、自分は死んでもいいって、思ってました……」


 新しい、しかも特注らしい裁縫箱には、咲夜のイニシャルとクローバーと可愛い二体のテディベアのイラストが丁寧に描かれている。

 そのテディベアを撫でて、ぽろっと涙をこぼす。


「でも、間違っているんですね。私一人がって……家族が、大好きな人がこんなにも悲しむんですね……こんなにも……苦しいんですね。私も、遼様たちにこんなにも……!!」

「……咲夜ちゃん。咲夜ちゃんのは、遙の元部下の馬鹿の仕出かしたことで、今回はゆかりんの元の嫁に近づいたテロリストの犯罪だ!!咲夜ちゃんは頑張っているだけだよ」

「儁乂さん……私がいるせいで、遼様が……と言うことはありませんか?お父様たちに……」

「そんなことはあるか~!!」


 ロウディーンと話していた保が怒鳴る。


「家の遼を甘く見るんじゃない!!他の4人は馬鹿ばかりだが、遼は私の自慢の息子!!あれが、咲夜一人に振り回されるわけもなく、逆に遼に振り回されておるだろうが」

「振り回される……?」


 咲夜はキョトンとする。

 自分は、遼といるのが嬉しいし、遼といると幸せである。

 それを告げると周囲は、ガックリとして。


「ここまであいつはやったのか!?やったんだな!?」


と言う儁乂に、首をかしげ、


「えっと、おはようのご挨拶はほっぺにチュッとします。寝る時にもです。車イスを自分で動かすのがとても苦手で……押してくれたり、車イスで移動できない時はだっこに、お洋服を選んでくれたり……あっ!け、ケーキと言うのを食べたら美味しくって、『美味しいですね!!』って言ったら、時々連れていってくれます!!お饅頭も、おぜんざいも、かき氷の赤いのの上に、練乳って言うのがとろっとかかっていて、食べるのが遅くて、食べさせてもらって……」

「何てデレカップルなんだ!!」


晶人あきとが叫ぶ。


「めっちゃくちゃ恋人ラブ!!あの兄貴が!!あのはるにいが!!」

「砂吐く!!」

冬樹ふゆきお兄さん……えっと、スパゲッティの貝に砂が入ってたんですか?えっと砂は、一晩吐かせないと駄目だって遼様が言ってました。一回作ってくれて、フォークのクルクルがうまくいかなくて、なので食べさせてもらったのです……」


 本人は真顔、しかし周囲は胸焼けしそうな甘ったるさである。


「あ、でも、どうしましょう!!あの、昔、ずっと晒しを巻いていたのですが、最近体の形が変わってきて……太ったんでしょうか……き、嫌われたらどうしましょう!!」

「えーと、一応聞くけどどこのサイズが変わったの?」


 儁乂の一言に、示す。


「胸です!!」


 ブゥゥー!


今回はお茶を口に運ぼうとしていたロウディーン公主もお茶を吹き出す。


「お腹のサイズは変わらないんですけど……」

「そ、それは、デザイナーの月英げつえいさんに聞きましょうね」


 葉子の言葉に頷く。


「はい。でも、どうしてなんでしょう……。筋肉は減ってるって言われたのに……」

「き、筋肉って……」

「男の子だった頃は、父の恥にならないように、剣術に槍の稽古を。父と母が結婚して私達を実の子供として引き取ってくれる前は、私を含め5人の母で、やんちゃな弟達や妹たちの育児に忙しかったので、下働きや日雇いに……食べられるものを探して必死に生きてきました。ある時に、景虎かげとら様と神五郎しんごろう様と出会い、母を景虎様の乳母として、私たちを遊び相手として……。母と妹たちは本当ならあり得ませんが、神五郎様のお姉さまの橘樹たちばなさまに、立ち居振舞いに所作、裁縫等を教わり、私と弟たちは、景虎様と同じように扱っていただき、学問に身を守るすべなど教わりました。それに、働くはずが勉強してばかりだったので、薪を作ったり、近くの森で小枝や燃えやすいものや、川で魚を釣ったり、大きなものは仕留められませんが、ウサギとか鳥とか……」

「……」


 まだ12才の少女の壮絶に近い生きざまに絶句する。


「あ、でも、神五郎さまはそんなことをしなくてもいいと言ってくださったのですが、それでは申し訳ないと必死に働きました。小回りが聞く上に足が早かったので、良くお使いをいいつかって、そうすると向こうのお家でお菓子を。でも一人で食べるのはと頂いて帰って、持って帰るとお駄賃を。それをこつこつためて……妹に髪飾りとか、弟たちには、木を使ったおもちゃとか。お母さんにも。そうしたら、4年前に子供5人いる母を父が引き取ってくださった時に、嫡男として、まだショーン王子と同じくらいの弟たちが成人するまでと……なので、今は、こんなになにもしなくていいんだろうかと、とても心配なのですが、遼様が紫お兄さんの結婚式のベアを一緒にって言ってくださって、嬉しいです」


 これは、本気だ!!本気だ!!

 あの遼が壊れている……この小さな少女に!!


「わぁぁ!!お道具、とても可愛い。私は何時も、男の子の格好だったので、可愛いものや色んな所を見るのが嬉しいです」

「……ここまで純真、愛らしいと、あのはるが壊れるの解るわ……」


 この間真顔で、


「咲夜にあげる可愛い裁縫箱を売っているところはないだろうか!!トールペイントとかで可愛いベアや、可愛い花柄とか……」


と、麗に聞いていたことも知っていたが……。


「どこまで甘やかすんだ……あいつは。まぁ、甘えベタだし遠慮があるからいいものを……まぁ、いいか」


 儁乂はほっておくことにしたのだった。

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