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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
再び登場!!本当に順応が早い景虎くんです。
37/87

転機が訪れます。これが運命の解き目です。

采明あやめ!!」


 4年が経ち、緩やかな成長だった采明もさほど背丈は伸びなかったものの、初々しい花がそっと開くかのように美しい少女になった。

 元々童顔だったものの整った顔立ちの少女は、大きな瞳はそのままで、愛らしい膨れっ面が良く似合う頬がほっそりと、そして神五郎しんごろうを支える若く美しい奥方として知られるようになっていた。

 それだけではなく、才女としても知られており、周囲には、


「直江には当主が二人。表の主は神五郎、まことの当主は妻君」


と言う囃子歌はやしうたがあるのだと言う。


 そんなことはどこ吹く風、神五郎は妻をそして娘を可愛がる家庭的な父親に変貌を遂げていた。

 それは表向きで、『直江の虎』の名は健在であり、景虎かげとらを養育し長尾家の脅威になりつつあったのだが、本人は、日々家の中を動き回る妻を娘の手を引き探す。


「采明!!何処にいる?……明子あきこ?お母様は何処にいったのだろうな?」

「う~ん……あきちゃん、たちばなおかあしゃまとおかあしゃまがお話ししてる!!」

「そうか。お母様はお話……?姉上!?」


 顔色を変え飛び出してきたのは、橘樹たちばな


 4年の間に3人の息子と明子を儲けた女傑は、神五郎を見ると、


「神五郎!!采明が!!」

「采明に何がありました!?」


 実は、一月ほど前に正式に夫婦となった二人である。

 日々、年々いとおしさやいじらしさ……切なさ、戸惑い……様々な感情を神五郎に与えてくれた妻をもう手放せぬと思っている。

 その妻が……!?

 明子を抱き上げ駆け込むと、横になってはいたのだが、にっこりと笑っている。


「あ、旦那様?直江家の当主として冷静に……」

「冷静にって、采明!!横になっていると言うことは!!大変なのではないのか!!」

「いえ、一応診て頂くのと大事をとって休んでいるだけなのです。それに、景資かげすけ殿もいてくれますので」

「大丈夫です!!兄上」


 4年前、9才だった少年は今はまだ成長期にはなっていない、中性的な不思議な色気を持つ少年に成長した。

 母の佐々さざれも、4年の間に2人の女の子を産んだ。

 茂平もへいこと、中条藤資なかじょうふじすけは喜び、上の子供共々7人の子供を溺愛している。


「私は、姉上についております。母の事も見ておりますのでご安心ください」

「えーと……弥太郎やたろう……?」


 采明と佐々礼にどんな関係があるのだろう……?


 首をかしげる。

 その様子にプッと吹き出し、弥太郎は、


「兄上、そのお顔、キョトンとされてますよ」

「いや、良く解らぬし、明子?何だと思う?」


娘を見る。


「あきちゃん、お姉ちゃんがいい!!まさくんお兄ちゃんなんだって。おかあしゃま!!あきちゃんお姉ちゃん?」


 問いかける言葉を、組み合わせた神五郎は叫ぶ。


「も、もしかして、ややか!?出来たのか!!」

「旦那様。お静かに!!」


 ビシッとたしなめた采明だが、ふにゃっと頬を赤らめる。


「多分、そうではないかと……それで、姉上が……」

「そうか!!そうか!!ならば、体をいたわらねば……それに、そうだ!!精をつくものを!!」

「兄上、落ち着いてください。姉上にまた叱られますよ?」


 面白そうにクスクス笑いつつ弥太郎が口を挟む。


「そう言うことを言うと思うから、兄上の暴走をお止めしてねと橘樹姉上から私は言われております」

「止めろと言っても、子供……子供……明子の弟か妹かが生まれるぞ!!」


 やったぁ!!


と、明子を高い高いをした神五郎の声に、周囲が慌てたのだった。




 そして、時代も地域も変わり……。




『オペラ界に幼き貴公子、歌姫誕生!!』

『3人の若き歌い手と母女神ディーヴァ!!そして、幻のテノール日本に凱旋公演!!』


 何枚も書かれる新聞を見て、景虎かげとらはげんなりする。

 日本の首都圏にある超高級ホテルの最上階。

 そのホテルの所有者は、光来承彦こうらいしょうげんであり、ごくまれに極秘に帰国して慈善コンサートなどを行っていたが、こんなに大騒ぎになったことはない。


「なんだ……?凱旋公演?何でこんなことになってるの?私は、新潟に……行きたいのに!!あー、これじゃぁ、外に出られないよね?兄上」

「そうだね」


 27才になった元直げんちょくは、苦笑する。


「景虎は、今や『貴公子』だよ」

「何が『貴公子』。はぁ~。百合ゆりの方が私よりもよっぽどだ」


 溜め息をつく。

 扉が開き、入ってくるのは15才になった百合と、13才の琉璃りゅうりりょうである。


「どうしたの?しかもだらしない!!昔の方がもっとしっかりしてたわよ!!5年前の頃の方が良いって、9才でどうするの」

「百合の方がきつかった……」


 がっくり……


落ち込む。

 琉璃は、


「どうしたの?何かあったの?」

「ん?あぁ、琉璃。いや、何でこんなになるんだ!?」

「えっと、お母様はとっても有名なオペラ歌手なの。それにね?兄様もなのよ。でもね、お母様は、学院のお仕事や公式の行事等で出ることはあっても、公で歌うことは……5年前からしてないの」


琉璃の言葉に、


「えっ?瑠璃るり様は、国やヨーロッパでは良く歌われている……」

「日本で歌っていないのよ。公式の、昨日のような大きな舞台では5年前が最後だったの」

「な、何で?」


琉璃がいつも隠していた手首を見せた。


「……琉璃があるテーマパークに行ったの。お父様の会社関係の方や取材の人に記者会見等もあってガタガタしていて……」

「ガタガタって……それはなんだ!?琉璃!?暗殺者に襲われたのか!?」

「……お母様の本当の娘さん……」


 項垂れる。

 その琉璃を抱き上げる亮。


「ごめんよ?琉璃が怖がるから、この話はこの辺で。でも、景虎をここから出したら行けませんよ?兄上。良いですね?3才の家の子が追いかけたらどうするんです!!」

「あー、そうだね。注意する!!」

「じゃぁ、大人しくしていて。事件については兄上に聞いてくれる?ごめんね?琉璃?部屋に戻ろうね?」


 亮は琉璃を抱き締めて出ていく。


「あれは!!」

「……瑠璃様は再婚でね。前の夫が瑠璃様がモデルや歌い手として世界を飛び回る間に、金を持ち出して遊び歩いたり浮気三昧……子供の養育についても、瑠璃様はきちんと教育を、しつけをとさせようとするけれど、子供は嫌がって、わがままを聞いてくれる父親に甘やかされていてね……?そして……琉璃は両親がいない子で……孤児院にいたんだよ。琉璃の本当の母上と瑠璃様は親友で、引き取りたいと言っていたけれど、そうすると、瑠璃様の娘が琉璃をいじめ、叱ると、父親に頼み込んで、父親が勤める会社が行政にお金をばらまいてね?何処にもいられなくなって、雨の日に白い馬のぬいぐるみをだいて、傘ももらえず泣きながら歩いていたのを亮が見つけたんだよ。で、それを告発しようとした時に、その子にカッターで襲われてね……腹部にも傷が残ってるよ」

「……っ!」


 景虎は驚く。


 そんなことがあったのか!?

 日本はそんなことが許されるのか!?


「で、承彦様の養女となり、そして本当の自分の身分を知るんだけどね……琉璃にとっては、日本はとても恐ろしい場所なんだよ。その不安を押し殺して昨日は歌いきった……。そう言うことがあるから、琉璃への警備は最高レベル。その為に周囲の私たちも厳しいようにしているんだ」

「……考えただけでも、恐ろしいわ!!あの子そんなことしていたなんて!!」

「百合は知っているのか?」

「知ってるわ。でも、大嫌いだったわね」


 百合は嫌そうに言い切る。


「そんなにか!?」

「そりゃそうでしょう?私だって、小さい頃からアイドルのたまごだったのよ?まぁ、新潟を中心に活動をしていて、時々取材とか撮影で来るのよ。それとか、子供服のファッションショーにも出して貰っていたの」

「あぁ、この写真は、その時のか……ふーん……変だ」

「何ですって!?不細工と言いたいの!?」


 食って掛かる百合に慌てて、


「違う!!百合はこれだな?服装も着こなしているし、ほら、向こうで散々させられたウォーキングレッスンは、百合はそんなに注意を受けなかったと言うことはこの頃にはレッスンを受けていたのだろう?」

「それはそうよ。子供モデルだからって甘えなんて出来ないわ!!そんな甘い世界じゃないのよ」

「だろう?で、この写真……顔が瑠璃様に似ているが、足の動きがおかしい。それに、この色は趣味が悪くないか?こんなのを出したらショーはガタガタになると思う。瑠璃様は恥ずかしかっただろうな……と思う」


指で示した人物に、百合は溜め息をつく。


「その子よ。当時の姓はせき。もうないけど備産業そなえさんぎょうと言う会社の副社長の娘だったのよ。名前は驪珠りしゅと言うのよ。来ることはないと思うけど、本当に気を付けてね?元々わがままで、自分の身分や両親の事を自慢するだけで、自分を磨くことができない子だから。年は私と琉璃の間の14才になっているわ」

「関驪珠……解った。注意しよう。特に、百合と琉璃を守らねば!!」

「それはいいわよ。頑張らないで!!何かあったらどうするの!!」


 百合は慌てて叫ぶ。


「大丈夫だ。私も男だ。やれるとも!!」

「やめてぇぇ!!元直兄さん!!どうしよう!!」


 百合と景虎を見た元直は、


「まぁ……危険がないように、最大限の警備を敷くつもりだよ。それよりも百合ちゃんは帰りたい?」


何処にと言わないだけで……場所を理解した百合だが、首を振る。


「行かない……行けないわ。仕事を放棄して私情に走ることはプロとしては失格。お姉ちゃんも……そういって怒ると思うわ」

「新潟の公演で……もし時間があればと言う話もあるんだけど……」


 百合は躊躇い……、


「考えておきます……じゃぁ、景虎もちゃんと注意するのよ?良いわね?」

「あぁ……頑張る!!」


怒りかけた百合をとどめ、


「私がしっかり注意しておくから、ね?」


元直は微笑み、送り出したのだった。

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