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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
再び登場!!本当に順応が早い景虎くんです。
36/87

景虎君は自分の道を探し始めたようです……刹那より大人です。

 その日の居間での会話の中で、景虎かげとらの歌が披露され、半分養育係であり、兄がわりの元直げんちょくが一番驚いた。

 景虎が歌えないことを悩んでいたのを知っていたのもあったが、それ以上に選んだ曲と、声に……。

 何時も歌のレッスンの時間になるとぎこちないひきつり笑いと、カチカチになって歌っている少年が、穏やかに語りかけるように……。

 成長している……もう自分は必要ない……。

 時々、リョウの家族の住んでいる宮殿の迎賓館の一角に泊まりに行くと言う。


「では……景虎の部屋は……変えた方が良いですね?」


 そっと告げると、景虎が顔色を変え必死にしがみつく。


「今まで通り、元直兄上の隣がいい!!やだぁ!!」

「でも、別の部屋に……」

「うわぁぁん!!嫌だよ!!嫌だぁぁ!!別の部屋になるなら、歌わない!!歌わないもん!!」


 泣きじゃくる景虎に、ロウディーンは、


「元直殿?景虎は、最初は本当にギョクランやジュン、白竜はくりゅうとどう接したら良いのかと不安そうにしていたんだよ」

「えっ?」


自分達の前では落ち着いていて、安心している。

 最近は好奇心が旺盛になり、歌が歌えないからと琵琶びわ三線さんしんしつきんに興味を持つようになった。

 その為、試しにりょうとその妹の珠樹しゅじゅに子供用のヴァイオリンを教えてほしいと頼むと、嬉しそうにレッスンに出掛けるようになった。


 ロウディーンの……国の方針で、公国では小学校から高等学校まで無償で通うことができる。

 景虎はまだ学校に通う歳ではないが、今まさに言語を覚え、もう少し柔らかい表現を出来るように教えている所である。


 様々な事情で人に溶け込むのが怖い琉璃りゅうり以外の子供たちには、公国の国立学園に入学させる。

 琉璃は母が学長である音楽学院の一期生として珠樹と学んでいる。


 しかし景虎は、様々な人々と触れ合う、そして成長していく必要がある。

 その為に自分のような存在は……と、悩んでいたのである。


「でも、ヴァーセルの子供たち以外が、良く庭木に悪戯をしてね。お説教を……と思っていたのですよ」


 フフフ……っと笑うロウディーンに、ヴァーセルが、


「そうすると、ジュンとギョクラン、白竜を少し遊ばせていて、傍に見ていたリフォーンが、庭木に意識をそらせている間に3人を苛めてね。景虎が追い払ったんだよ。でも、本当に3人が泣きじゃくっているのをどうしよう……と躊躇ってキョロキョロして……何をしたと思う?」

「えっと、歌を歌ったんですよね?」


景虎を抱き上げあやしながら問いかける、と、


「景虎は、ハク達に最初はそっと近くに行って座ると、今の君のように3人の頭を撫でて『大丈夫、大丈夫、大丈夫だ。私がいる』と言っていたんだよ?そしてぐずっている3人に、とんとんと優しく背中を軽く叩いたり、頭を撫でながら歌い始めたんだ。君が良く、ぐずる景虎を優しく声をかけてあやして寝かしつけているのと同じだよ」

「えっ!?私……ですか?」

「そう。君はまだ若いけれど、景虎にとっては兄であり、半分父であり、自分を守ってくれる人だと思っているんだよ?景虎の育ちは大体解るだろう?先も、泣きながら……『自分の生き方は、生きるか死ぬかだった。でも、自分は国を変えたい。でも……』と言っていたよ」


ロウディーンは、息子を抱き上げた。

 リョウは、


「元直兄。景虎はとても賢いけれど、まだ子供だ。俺よりもものを考えるが、子供らしい遊びとかも余り知らなかったんだろう?」

「あ、あぁ……そうだね。月英げつえいに『般若心経なら唱える!!』と言いきって、ガックリきていた」

「だから兄は、色々手を繋いだり抱き上げたりして連れていったり、見せたり、遊んだんだろう?兄。そこまで面倒を見ていたら、解るだろう?兄だって、景虎の事を大事に思っている。景虎だってそう思っているんだ。突き放しちゃダメだ!!折角、家のちび達と遊びたい、おいかけっこをするんだ!!ってちび達と遊ぶんだって、年相応の子供に育てたんなら、ちゃんと見てやれよ!!甘えられない景虎が甘えられるのは、兄だろう!?」


その言葉に、


「えっと……実は、私は国際的な教員免許がなくて……一応、教えられる英語、日本語の教師として、音楽学院の方に……。だから、景虎はもっと皆と溶け込める……」

「嫌じゃ~!!我も、兄上と同じがいい!!わぁぁぁん!!」

「でもね?景虎は、将来、人の上に立って国を守るロウディーン様のような統治者となる。でも、ロウディーン様を見てごらん?様々な方に慕われ、敬意を持たれ、愛される方だよ。このような人にならなくてはいけないんだ」

「嫌!!いやぁぁぁ!!」


余りにも激しく泣く景虎の声の間から、


「元直兄。この秋から音楽学院の中に、特別クラスが出来るんですけど?」


琉璃にクッキーを食べさせながら亮が告げる。


「は?聞いていないけれど?」

「済みません。家の兄が勝手に作って……」

「あぁ、瑾瑜きんゆ兄上……子供が生まれるとか?」


 亮は、溜め息を吐き、


「二人目ですが、一人目を放置して、姉上に殴られ、姉上が……生まれたら私が育ててくれと……」

「生まれたヨーン♪」


飛び込んできた瑾瑜の腕にはへその緒のついた赤ん坊……硬直する周囲に、


「ど阿呆!!何考えてんのよ!!」

「赤ん坊に何かあったらどうすんの!?」


紅瑩こうえい晶瑩しょうえいの過激な攻撃に子明しめいが、子供を救い取り部屋を飛び出し、きんが、


「何考えてんだ!!この馬鹿兄!!」


と、壮大な喧嘩に発展しそうなのを、


「瑾瑜お兄ちゃん?紅瑩お姉ちゃん、晶瑩お姉ちゃん、均お兄ちゃん。こんにちは、なの」


コロコロとした琉璃の声に、ぴたりと止まる。

 琉璃を抱いた亮とロウディーンがにっこりと、


「後で、兄上方?シャーロット様とリョウと、景虎の特別クラスの話をお願いしますね?」

百合ゆりさんは普通学校よりも音楽学院に入りたいと言っていましたね。亮?どうするのですか?」

「百合ちゃんは、采明あやめちゃんのようになりたいと言っていますが、声の質と高さが違うので、高音ではなく深みのあるメゾソプラノのレッスンに。琉璃がソプラノですからこのままレッスンを続けたいですが、先程の景虎君はとても良い声をしていました。一人では緊張するのだと思うので、琉璃達とそして最初は元直兄に付いて貰ってレッスンをしたいものです」


告げた亮は、兄弟を振り返り、


「兄上?自分が考えることは結構ですが……私の養子になると言う赤ん坊を……」


ロウディーンは琉璃の耳を押さえ、元直は、景虎の耳を押さえる!!と、


「どんな考えをしているんですか!!このまま二時間正座してお説教をしますよ!!この声で!!」


声楽家の本領発揮の声量に、周囲はよろめき、


「うわぁぁん!!亮!!ごめんなさい!!息子を見せたかったんだよぉ!!」

「私は止めようと!!」

「私もなのよぉ!!」

「僕も、母さんに言われて~!!」


悶絶する4人に微笑みながら、


「正論でも言い訳でも、許せる範囲を超えてます!!行きますよ!!……来なければ……お分かりですね?ロウディーン様。琉璃をお願いしますね?」


兄たちを豪快に抱えあげ出ていった亮の背中を呆然と見つめ……リョウは、


「俺……亮兄だけは、怒らせないようにしよう……」


と呟き、よろめきつつも元直は、


「景虎?じゃぁ、私と一緒にいよう。一緒に学校にいこうね?」

「本当か?兄上……わぁぁん!!兄上!!」

「ごめんね?一緒にいようね?」


元直は、自分の首にすがり付く景虎を、抱きしめたのだった。

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