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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
嫁ラブと夫放置でお出掛けしたい嫁との攻防戦です。
30/87

何かを起こすときにはあれこれと色々必要です。

 采明あやめは子供を連れてきたり、赤ん坊を抱き不安そうな女性たちを、侍女たちと共に場所を変え、子供たちが休めるようにしたり、子供たちのおもちゃを準備していた。

 最初、采明が突然、


「この切れ端を頂けませんか?」


と増築していた大工に頼む様子に、周囲はぎょっとする。


「何に使われるんですか?」

「子供のおもちゃです!!もしよろしければ、のこぎりを貸してください!!」

「はぁぁ!?」


 のこぎりを使うと言い張る雇い主の奥方に、困り果てていると、


「どうしました?」


顔を覗かせるのは、悠真ゆうしんである。

 次第に大きくなってきた明子あきこが、眠る前に母親を探すようにぐずるようになっていた。


「あ、悠真さん!!奥方様が!!」


 大工から話を聞いた悠真は、


「采明様?何を作られるんです?」

「積み木というおもちゃと、四角い板に、『いろは』とそろばんの練習のための数字を書き込んだ板を作るのです!!」

「また、色々と考えられますね」

「余った木を使うことで、捨てるものも減りますし、角を削ることで、怪我を防止します。遊びながら、いろはを覚えることで、お勉強になりますし、そろばんを覚えていれば、商家に勤めることも出来るでしょう。子供たちの未来を考えようと!!」


意気込む采明に、


「わかりました。前に家の姉の子供たちに作ってくれといったものですね?作り方は覚えています。ですので……あっ!明子さまが……」


遠くで明子の泣き声がする。


「あっ!そ、それではいってきます!!」


 慌てて走り去る采明に、大工たちは、


「破天荒な奥さまだな……。でも、本当にお優しいかただ」

「本当だ。気軽に声をかけてくださるような身分ではないのに」

「本当に自慢の奥方様です。私たちにとって……あぁ、そうです」


悠真は、懐に大事にしまっていた、設計図を取り出す。


「奥方様がおっしゃられていたものはこんなものです」

「三角、四角い、丸いつつ型?それに、板には……」

「いろはの文字と、数字です。そして、積み木と言って、積み上げたり、逆に崩したりするとか、色々な遊びができるんです。甥と姪は喜んで」


 大工たちは食い入るように見つめる。


「これは、大人がのこぎりで引いて、磨くのは子供たち、むつきを取替に行く途中に売るようにします。旦那様が、もし余り物の木があったら、大きさや長さごとにお金を決めて買い取るそうです。よろしくお願いいたします」

「そうなのか?」

「はい。仕事の邪魔になったりしてはなりませんので、まだ使えるようなものは引き取りません。ここにある大きさ程度で結構ですよ。お願いします」


 その言葉に目を丸くする。

 はっきり言えば切れ端は薪にするしかなかった。

 それを譲ってほしいというのだ。

 これはいい小遣い稼ぎになると思っていると、


「で、あんたたちは利益はほとんど取るのか?」


その声に、普段穏やかな悠真が、表情を変える。


「貴様……!!何しに来た!!」

「仕事よぉ。あそこも辞めさせられちまってな。佐々さざれを差し出しとけば、金が入ったのかもな」

「姉上の名を呼ぶな!!」


 悠真の声に、


「悠真さん。明子が私では嫌だとぐずるんです。だっこお願いします」

「奥方様!!」

「采明でいいですよ」


采明は、ふえふえとぐずる明子を抱かせると、つかつかと近づき、手を翻す。

 周囲はあっけにとられるが、悠真が、


「采明さまの一撃……」

「恥を知りなさい!!自分で働けもしない人間が、おとしめるような人ではないわ!!」

「な、何をする!!仕事に来てやったのに、これかよ!!おい!!皆、見たよな!!この女が、俺に何をしたか」

「お忘れでしたら、もう一撃!!女性や人を貶める事は自分がそれ以下であることを周囲に知られ、嘲笑あざわらわれる事です!!自分が人間としても、男としても、大人としても、周囲に馬鹿にされているんです!!それが解らぬものほど、馬鹿に阿呆はいませんわね!!」


采明はにっこり笑い、懐から金子きんすのはいった袋を出すものの、手を伸ばす男を無視し、


「悠真さん。佐々礼お姉さまの結婚のお支度品として準備のたしにお使いください。この方が働いた分の賃金です。では、貴方は、このままお帰りください。明日からは来ないでくださいね」

「な、何を!!しかも賃金をくれてねぇじゃねぇか!!」

「前の奥さんを、そして子供さんを苦しめて泣かせてきた罰が、このお金でしょう?たったこれっぽっちで、許されますか!?貴方のしたことは、ここでは口に出来ない事ですよ!!子供の面倒を見ない、浮気はする、働いたお金でバクチ!!子供を育てながら働き続けた奥さんに暴力をふるい、確か、8つの子供をそういう場所に売ろうとされていたそうですね?」


采明の表情が険しくなる。


「そんな男が親だと威張らないで欲しいですね!!親なら可愛がる、慈しみ、道を示す事ですよ!!できもしないのなら、結婚したり、子供を儲けたりしないことです!!奥さんと、子供たちがかわいそうです!!私は、こんな人が親だと言わなければいけなかった、夫と呼ぶしか出来なかったご家族が可哀想です!!もう二度とこの家の敷居を跨がないでください!!」

「何をぉぉ!!」


 采明に食って掛かろうとした男の襟首を掴むのは大工の一人。


「奥方に何をする!!」

「そうだ、そうだ!!奥方は正しい!!その程度のはした金、お前の前の嫁さんの苦しみには足りねぇだろうよ!!」

「あぁ、自慢げに話すが、こいつは俺達でも許せねぇ、最低野郎だ!!こんなの仲間とも思いたくないぜ!!出ていけ!!」


と数人の男たちが暴れる男を引きずって行く。


「あ、すみません……!!かっとなってしまいまして」


 頬を赤らめた采明に、大工たちは、


「奥方様は悪くないですよ!!本当にスッキリしました!!」

「前々から柄が悪い上に、自分は昔はある屋敷で働いていたと自慢ばかり」

「その上に、嫁さんや子供にまで!!わしらの仲間とも思いたくありません!!」


頭を下げて、続ける。


「私たちにも誇りがございます。奥方様は私たちを同等に、友のように、仲間として接してくれます」

「私らも、奥方様や旦那様の希望通り、そして、自分達の意見もお伝えして、最高の仕事をさせていただきます!!」

「よろしくお願いいたします!!」


 頭を下げる大工たちに、采明はホッとしたように、


「本当にありがとうございます。こんなに乱暴で、嫌ですと言われたらどうしましょう……!!と思っていたのですが……嬉しいです。どうか、こちらこそよろしくお願いいたします」


と丁寧に頭を下げた采明の事を、大工たちは、家や酒をのみに出た先で話聞かせる。


「あの奥方は、本当に素晴らしい!!」

「俺たちにまで頭を下げてくれるんだ。休憩の時にも、色々としてくれてな……」


 采明の……直江家なおえけの噂は、次第に広がっていくのだった。

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