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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
嫁ラブと夫放置でお出掛けしたい嫁との攻防戦です。
26/87

生まれた赤ちゃんの名前が決まりました!!父親大丈夫ですか?

 季節が過ぎ、先に身ごもっていた重綱しげつなの妻のあかねが男の子を生んだ。

 生まれる前から何度か様子を伺いに行っていた采明あやめ神五郎しんごろうは、大声で泣き叫ぶ甥に采明は喜び、神五郎は大きな甥と采明を見比べ、周囲の言う通り、采明にはまだ早すぎる!!と自覚した。


「わぁぁ……可愛い……ちっちゃい手……」


 見つめる采明に、茜は、


「抱いてみる?采明ちゃん。結構重いのよ、その子」

「はい!!抱っこしたいです!!」


神五郎と重綱の予想に反して、少し重たげだが抱き上げて、


「わぁぁ、本当にがっしりしてます。重綱お兄様に似てますね。眉がキリッとしてます」

「そうでしょ?なのにこの人、どこが似てんだ!?ですって」

「でも、口の形はお姉さまみたいににっこりですよ?」


よしよしとあやしながら、歌を歌う。


「眠れ 眠れ 母の胸に 眠れ 眠れ 母の手に

 こころよき 歌声に 結ばずや たのし夢

 眠れ 眠れ 母の胸に 眠れ 眠れ 母の手に

 暖かき その袖に 包まれて ねむれよや

(シューベルトの子守唄:訳詞内藤濯)」


 采明の歌声に、周囲の大人も、聞き惚れる。

 赤ん坊も優しい声と、優しく揺すられて、すやすやと寝息をたて始める。


「わぁぁ……采明?それは呪文か!?」


 驚く重綱に、神五郎に抱かせていた采明はにっこりと、


「ここから西の国の子守唄……です。子供をだっこして歌を聞かせてあげると、とってもいいんですよ?」

「えっ?どうしてだ?」

「赤ちゃんって、小さい頃は余りお目目が見えないんです。それに余り動けないので、感じるのは、お耳とお鼻です」


 自分の耳と鼻を示す。


「それに、だっこしてくれている人の暖かい温もりで、安心……だ、旦那様ぁぁ!!」


 ぎゃぁぁ……と泣き出した甥に、


「わぁぁぁ!!悪かった!!俺が悪かった!!えっとえっと……采明!!抱き方を教えてくれ!!」


神五郎は顔色を変えて妻を見る。

 采明は、


「旦那様、左の肘の内側から、手のひらに乗せる感じで、右の手は添えます。そして、優しく撫でるように、肩をさすってあげてください。大丈夫大丈夫って」

「こ、こうか!?」

「まだちょっとぎこちないですけど、大丈夫ですよ。ぼうや?いいこちゃんですね?」


よしよしと頭を撫でると、赤ん坊は泣き止み、采明の方を見るとにこぉっと笑う。


「おぉ!!笑った!!」

「まだ条件反射と言うか、無意識ですけど……可愛いですね。重綱お兄様。お名前決まりました?」

「親父がなぁ……」


 妻と一緒に首を竦める。


「固いから、もっと柔らかい名前にと思っていたのに、なーにが『綱親つなちか』だ!!自分の名前をひっくり返しただけだろうが!!」

「って、怒ってたのよ、この人。そうしたら奥さま……じゃなかったわ。御母様が、『じゃぁ、明綱あきつなでよかろう?文句はないな?』って……御母様は、どうしても初孫の名前をつけたいって言われていたのよ」

「明綱……」


 重綱と茜は、神五郎を見る。

 子供に慣れていない神五郎にはかなりの苦行らしい。


「あ、采明!?な、何か濡れて……わぁぁ!!」

「あぁ、むつきが濡れたのですね。旦那様。衣をゆすいで来てくださいね?采明はむつきを取り替えますので」


 てきぱきとこなす妻を見つめ、情けない顔をした兄に、重綱と茜は吹き出す。


「わ、笑うことはないだろう!!」

「兄貴……娘が欲しいって言ってたけど、それじゃぁまだ無理だな。ほら、着替えにいこうぜ」


 神五郎と重綱は出ていく。


「はぁぁ……綺麗になりました。お母さんのところに行きましょう」


 采明は濡れたむつきをよけて、明綱を連れていく。


「采明ちゃんは、羨ましいわ。私は本当に器用じゃないから……」

「慣れますよ。お姉さまは手先が器用ですし、とても賢い方ですもの。羨ましいです」

「と言うか、私が敵うのはこの背丈よね……大女って、馬鹿にされるのよ。慣れたけど。それに、橘樹たちばなねえ様もスラッとしているものね」


 采明も驚いたのだが、茜はこの時代では珍しい長身である。

 橘樹も大きい方で、采明の着物の仕立てる際の感覚で、大体元の時代の160㎝程、茜も165㎝程はあるだろう。


「大丈夫ですよ。お姉さまは、とても綺麗な衣の似合う美人です。采明は嬉しいです。それに大女じゃなくて、お姉さまは采明の住んでいた所では、衣の柄ではなくて、形や、下駄等のお店が、似合う人に着て貰って、それを着て見てもらうのがあるのです。お姉さまは、とても自然体のお化粧がお似合いですから、そして、紅はちょっと強く、頬にも塗って……と言うのも出来ます」

「えぇ!?化粧は、もっと……」

「駄目です。采明が調べたら、化粧の白粉おしろいなまりと言って、体に良くないものが入ってました。体を悪くすると明綱ちゃんも体が悪くなります。白粉とか、采明は勉強しますね」


 采明の言葉に、


「采明ちゃん!?このお守りを作ったり、石を加工して飾りを作って……これ以上何をするの?」

「采明は、直江家の財政を預かる人間になって、景虎かげとら様が戻るまで、基盤を作るつもりです。大丈夫ですよ」

「えぇぇ!?商売ってこと!?お父様や御母様、兄上は何て!?」


直江家の鬼に教育指導官である親綱ちかつなけやき、そして、直江家の実質的支配者のあずさは、厳しい筈……。

 心配する茜に、采明はにこっとわらう。


「大丈夫ですよ。お父様や御母様は孫である明綱ちゃんが可愛いですし、欅お兄様も、とても、生まれてくる赤ちゃんのことを心配されていて。すぐに大丈夫って言われました」

「と言うか、采明の『お願いします』に上目遣いに、敵うのっていないだろう」


 戻ってきた重綱は呆れたように言う。


「と言うか、采明の一言でこの家は動く!!絶対動く!!何たって、あの兄貴があれだ!!」

「采明……お前が母親になる前に、私が、子供を抱いたりする練習が必要だろうか?もしくは、さっきの歌を歌うとか……」


 情けなさそうにがっくりした神五郎の姿に、采明は微笑み、


「大丈夫ですよ?旦那様。もう少しで出来ますもの。それに、明綱ちゃんや、橘樹お姉さまの赤ちゃんも生まれますから、大丈夫ですよ。旦那様はできます!!」

「そ、そうか?落ち込んでいたんだが、采明に言われるとホッとした」


かなりの落ち込みぶりだった兄の嬉しそうな声に、重綱は、


「采明が直江家の実質的支配者!!絶対だ!!あの兄貴もでれでれだ!!」

「そうよね~!!でも、昔の肩肘張ってたお兄様よりいいと思うわ。力が抜けてて……余裕もあるみたいだし」


楽しげに二人は笑い、夫婦の様子を見守っていたのだった。

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