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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
嫁ラブと夫放置でお出掛けしたい嫁との攻防戦です。
21/87

余りにも変貌を遂げた神五郎さんに周囲は複雑だったりしています。

 すやすや……

 夫の腕の中で寝入る采明あやめを見つめ、


「ほんに可愛いのう……。神五郎しんごろう!!ようやった!!このように可愛い嫁を貰うとは!!わらわはほんに嬉しいぞ」

「本当に。御母様。きっと、神五郎は送っていないと思って……そ、それに……」


橘樹たちばなは、夫の顔を見上げる。


「け、けやきが、私に言ってくれたのです。御母様にお伝えして……そ、そして、御母様にご挨拶に伺えればと……今まで、御母様には心配ばかりお掛けして……情けなく……」


 瞳を潤ませる娘にあずさは、


「何を言うておる!!そなたはわらわの可愛い娘ぞ?何があったとしても、その繋がりは、他のどの繋がりよりも強いもの。それに裁ち切れる筈もなかろう!!橘樹は、直江家の大事な娘ぞ!!直江の宝じゃ!!」

「……あの……母上……」


頬を腫らした重綱しげつなが手をあげる。


「姉上が大事で、俺は?兄上は?」

「神五郎と采明はほんによい夫婦めおとじゃ。神五郎はわらわに似ていて凛々しいゆえ。そして采明は、山吉やまよしの者とは思えぬほど愛らしいのぉ……。橘樹と欅もよい夫婦じゃ。幸せになるがいい。欅も、わらわの自慢の息子。葛木かつらぎ……いや、もう、あかねでよいの。茜もほんに直江家の娘じゃ」

「じゃぁ、茜の亭主の俺だって!!」

「うるさい!!」


 神五郎は、弟を叱りつける。


「采明がようよう寝たと言うのに!!」

「と言うか、ちこまい姉上だな」

「……これでも13だ」


 自分の指を握り、幸せそうにすやすやと眠っている采明の頬をちょんっとつつき、幸せそうに笑う兄に薄気味悪く、


「嘘だろ!?これで13?景虎かげとら様を女装させて……でぇぇぇ!!」


重綱は、義兄の欅によって容赦ない鳩尾への攻撃を食らう。


「失礼を。しかし、重綱どの。采明の姿がどうしたらあの景虎様に見えるのか教えていただけますか?采明は淡い髪の色、瞳も淡く顔立ちも柔和ですが、旦那様をお説教されるほどしっかりとされておられます。景虎様は6才。お体は大きい方ですが漆黒の髪に瞳。キリッとされたお顔だちで、お年ながら賢い方ですが、采明のように屋敷の中の者と話をして笑ったり、旦那様の代わりに屋敷の者をあれこれと仕事を伝えたり気が回る方ではありません」

「采明って、直江家の当主の嫁を呼び捨てでいいのか?」


 一応渋い顔の父と、逆に甘い顔の兄を見て問いかけると、


「采明が泣きますので。実は、敬語で話をするとボロボロと泣かれました。『お、お兄様は、采明が嫌いですか?』と。一応、こう言うことだからと、伝えたのですが『お兄様は、采明のお兄様です。采明はお兄様が大好きなので、名前で読んでほしいのです……』と言われました。で、丁度横にいた……」

「采明が言うのだから構わないと言ったのだが?文句はあるか?」


神五郎は、告げる。

 目の前には、気を利かせた姉によって食事を用意されてはいたが、嫁を見るのにほぼ全神経を集中させており、器は見事に残っている。


「山吉の娘と聞いたが、あの山吉に、このような娘がおったか?」


 低い声で問いかけてきた父親に、おやっと顔をあげて、


「父上も、そのような方向に考えが及ぶとは、あちらで母上にとことんまでお説教をいただいたのですか?」

「話をそらすな!!」

「そらしたのではなく、感心したのですよ。融通の利かないと言うのは私も同じですが、妻によって広く物を考えることこそ、第一に考えること。そういったことにより、有利に動けるのだと教わったのです。妻は、本当に私の師であり、妻であり、永遠に傍にいたいと思える存在です」


重綱は兄の変貌に砂を吐くような思いで見る。


 あのお堅い兄が一変した!!

 壊れたに違いない!!


「ふにっ……」


 長いまつげが揺れ、目を覚ました采明は、見知らぬ男二人に驚き、


「だ、旦那様……?」

「采明。目が覚めたのか?騒々しくて悪かった」


顔を覗き込み、微笑む。


「あの母上の隣の方が、父の親綱ちかつな。あのヘラヘラしたのが弟の重綱。父は母上を心底惚れておられて、追いかけてきたそうだ。重綱は……ただの暇人だ。子供ができたと言うのに、嫁である茜……欅兄上の妹を置き去りに遊びに来たと……騒々しいので母上が叩きのめしたらしい」

「……ご、ご挨拶……」

「いらぬぞ。采明?そなたは直江の当主の正妻じゃ。頭を下げぬでよい」


 梓は閉じた扇で突きつける。


「特に、重綱!!年は幼いとはいえ、姉に対してそのような無礼!!何を考えておる!!采明よりも、そなたが先に頭を下げよ!!」

「お、御母様……あの……」

「起きるな、采明」


 神五郎は、引き寄せよしよしと頭を撫でる。


「きちんとしなければと思う気持ちは大切だ。だが采明?体が弱っている今、無理をすることが、後々大変なことになることもある。前に、別のことで、私が動こうとしたときに止め、教えてくれたのは采明ではなかったか?焦ってはいけないと、教えてくれたのは采明だ」

「だ、旦那様……」

「今は休むこと。そして、口うるさいだけの父と、だらしない重綱は気にするな。あぁ、そうだ。熱が下がったら母上と母上のお屋敷に向かうが、欅兄上の妹の茜は、とても優しい妹だ。采明とも仲良くなれるだろう」


 欅を見て、目を丸くする。


「茜お姉さまですか!!嬉しいです!!お会いしたいです!!」

「その為には元気になるように」

「はい!!……旦那様?」


 自分の前の膳に並んだ器に残ったおかずに、夫を見上げる。


「駄目ですよ?旦那様。ちゃんと食べないと、作ってくれた皆さんが残念がります。それに、好き嫌いは駄目ですよ?無理して全部食べてくださいね?とお願いしていないでしょう?一口でいいのです。食べて下さい。野菜は、とても栄養があります。お肉や、魚だけでは得られない体が動くための補助になるものです。いいですか?」

「あ、う……」


 采明を見ていて食べてない……と言いにくかった神五郎は、


「わ、解った!!ちゃんと食べる。だから心配するな。休んで……」

「采明は見てます。旦那様は、嘘をつくような人ではないですが、お父様や御母様、お姉さま方とお話に集中されて、食べないことがあっては駄目ですよ?直江家の当主として……」

「……ぶっ!」


盛大に噴き出すと、


「兄上、滅茶苦茶尻に敷かれてるじゃねぇか!!アハハ!!直江の鬼が!!」

「うるさい!!……おい!?采明!!」


のそのそと這っていった采明は、スッパーンと頬を叩く。


「旦那様を笑うのは許しましぇん!!旦那しゃまは、旦那しゃまは……采明の……」


 ヘロヘロと崩れた体を欅が受け止め、


「旦那様!!早く食べましょう!!采明が本格的に泣く前に!!」

「わ、解った!!」

「だ、駄目なのでしゅ……旦那しゃまを……」


しゃくりあげ始めた采明を見て、スッと立ち上がった梓は、


「……着いて参れ。重綱」


という、低い低い声を発し、下の息子に説教と言う名の、再教育を行ったのだった。

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