表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
始まりは何時もと少し違います……。
2/87

直江実綱は面倒見のいい兄ちゃんのようです。

 采明あやめは、青年の後ろを追いかけて行くが、荷物の重さと道の悪さに速度が遅くなる。

 後ろの少女の息が、あがっていることに気がついた青年は立ち止まり、手を差し出す。


「へっ?」


 焦って俯いて歩いていた采明はどーんとぶつかり、よろめく。

 転ぶかと思われたものの、腕を回して支えてもらったことを知った采明は、


「あ、ありがとうございます。すみません。よそ見をしていてご迷惑を……」


おろおろとしつつペコペコと頭を下げる。


「……こちらもすまなかった。ここは、山の奥、夜も近い……近くに我が屋敷があるゆえ」

「い、いえ、いえ!!ご迷惑はお掛けできません。家に帰ります!!」

「家とは、どこに?もしや密偵では……」


 一瞬気配を剣呑なものに変えた青年に、采明は、


「えっと、家は……あの……ここはどこですか?先よりも時間が進んでます。私は、朝ここに来て、お昼前のはずですけど……」

「何を言っている。今は見てみるがいい。もう夕刻。夕餉ゆうげの支度が整ったことをお伝えするために参ったのだ。景虎かげとら様に、お伝えをと」

「あ、そうなんですか!?えっと、じゃぁその景虎様はどちらです?」


きょとーんと小首をかしげる、珍妙としか見えない少女に、眉をひそめた青年は、ため息をつき。


「……その、数珠は……景虎様が肌身離さず身に付けておられたものだ。そうそう手放すものではない。お主……」

「あ、すみません!!」


深々と頭を下げる。


柚須浦采明ゆすうらあやめと言います。12才です!!」

「ゆすうらあやめ?」

「はい。読みにくいのですが、柚子ゆずすべからくのうらは『万葉集』の山部赤人やまべのあかひとの和歌である『田子たごの浦ゆ うち出でてみれば 真白にそ 富士の高嶺に 雪が降りける』の浦です。采明は、釆女うねめの采に明るいと書きます」


 12才のしかも女人が歌を知っている!!

 その上、漢字も理解して説明できることに驚く。


「あの……あなたは誰ですか?」


 風変わりな装いに、目を覆う黒い縁の何かの奥にはキラキラとした、まるっこくて小動物系の瞳。

 髪は長いのだが、見たこともない結い方で結われ、服装も変。

 しかし理解力や説明力に長けている点では、優秀である。

 興味がわく。

 そして答える。


直江実綱なおえさねつな神五郎しんごろうと、呼ばれている」

「直江……直江……あぁ!!景綱かげつなどのの最初の名前ですね!!」

「は?」


 怪訝そうな顔をする青年に、拳を握りしめ、


「お年はおいくつですか?」

「27だが?それよりも、先ほどの、景綱と言うのはどういう意味だ?それに年を聞いてどうする?」

「え?年を聞くと、大体の年代がわかります。私の時代には、実綱さんの名前はそんなに有名じゃないんですよ。それと、年を聞いたら景虎さんの年も分かるので、6才ですよね?虎千代とらちよという幼名を名乗られているのでは?ここは、林泉寺りんせんじなんですか?」


矢継ぎ早に質問をする少女にたじたじとなる。

 その苦虫を噛み潰したような顔に、はっとしたように、ペコペコと頭を下げる。


「すみません!!すみません!!歴史について調べるのが大好きなんです!!特に、父と調べ回った遺跡を!!今日も、そこにいて……」

「……父御は?」

「母と離婚して、中国……えっと、みんですか?そこにいると思います」


 采明は苦笑する。


「父は歴史学者で、研究に没頭すると、全く家族を省みない人だったので、母に愛想を尽かされました」

「母御が、離婚を!?」

「あ、そうですね。この時代は女性の方から離婚は言い出せませんが、私の時代は離婚を言えるんです。離婚してからはもう、会っていないのですが、元気そうなので安心しています」

「父御に会いたくはないのか?」


 采明は首をかしげる。


「父は仕事に集中すると、忘れちゃうんです。家族のこととか、お金のこととか……なので。今は妹と一緒に母が働いてくれるので、私は、炊事、洗濯、掃除もやっています。父が元気ならいいと思います」

「……まだ小さいのに、割りきれるな……さかしいな」


 くしゃくしゃと頭を撫でる。


「あの、私はお姉さんですけど?」

「12才の娘が大人びた口調で言うな。ほら、荷物を貸せ。帰るぞ」


 荷物を奪い、実綱は采明の手を引いて歩き出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ