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運命(さだめ)の迷宮  作者: 刹那玻璃
もう一人の主人公である景虎くんの登場です!!
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景虎君はどうやっても飛行機が苦手なようです。

「な、何なのだ~!?」


 VIPルームで光来家こうらいけ専用の飛行機が準備されている間、景虎かげとらは周囲を見回し、必死に元直げんちょくにしがみつく。


 二歳上の琉璃りゅうりが、りょうと手を繋いで窓と言う透明で外の見える所できゃぁきゃぁとはしゃいでおり、月英げつえい蓮花れんげ百合ゆりは何か『ふぁっしょん』と言うものを熱心に語り合っている。

 そして、元直は圭吾けいごと話しているのだが、


「げ、元直兄上!!圭吾父上!!あれ、あれは何なのじゃ!?と、飛んでおる!!鳥よりも、大きい、あの大きいものが!?何故じゃ~!?」


混乱し、指を指して示す景虎に、元直は抱き寄せてヨシヨシと肩を叩く。


「大丈夫大丈夫。あれは、飛行機と言って、空を飛んで遠い場所に移動するものなんだよ。君が少し眠っている間に、新幹線……早い速度で移動する箱で移動しただろう?それが空を飛ぶものと思えばいいんだよ」

「でも、あんなに大きいのだぞ!?ごごごって、ごごごって言うておる!!」

「大丈夫。お兄ちゃん達がいるからね?」

「景虎君。この飲み物は美味しかったかい?」


 話をそらせるように、圭吾は示す。

 すると、景虎は目をキラキラさせて、


「最初はシュワシュワがビックリしたが、甘くてうまい……違った、美味しかった。もうないか……」

「あるよ。ほら……」

「お待たせいたしました。景虎様」


VIPルーム専用の接客担当の女性が微笑む。


「先程はサイダーでしたので、今度は、お嬢様がたと同じ、クリームソーダを。どうぞ」

「おぉ!!綺麗な……わ……僕が食べてもいいのか、な?お姉さん」


 新幹線に乗る前に、月英に簡単な言葉遣いを習っていた景虎は、上目遣いで問いかける。

 景虎は、5才(数えでは6才)だが、大きな黒く澄んだ瞳が印象的な美少年である。

 本人は自覚していないが、その美少年が可愛らしく首をかしげる様は、数人のVIPルーム専用のお姉さまがたの心を、一瞬にして鷲掴みにしており、彼女もほんのり頬を赤らめ、


「構いませんよ。景虎様。とっても美味しいですよ?」

「あ、ありがとう。い、戴きます」


照れたように笑う景虎に、ますます胸を踊らせるだろうなぁと、思いつつ、普段はきちんとしている彼女達は権限以上のこと……例えば、写真を撮ったり、表……ここできゃぁきゃぁとはしゃぐ訳ではないため、元直は見守っておく。

 景虎は、うっとりと見つめ、スプーンで白いアイスクリームをすくうと、ぱくっと食べて、目を輝かせる。


「お、美味しい!!お、お姉さん、ありがとう!!こんなに美味しいなんて!!」

「それは良かったですわ。では、ごゆっくり。あぁ、そうでした。こちらのケーキもお召し上がりくださいね?」

「あ、はい!!い、戴きます!!」


 先程の怖がりようとは違い、えへへ……と嬉しそうに食べている。

 そのさまは本当に、時代の違う生まれとは思われることはないだろう。

 きっと、小さい飛行機しか見たことがない、もしくは、VIPルームで真正面で自分が乗る飛行機の準備まで見ることもできる場所に来たことはないのだと思うはずである。


 クリームを頬につけて、にこにこ笑っている少年が、ふと、


「元直兄上は食べないのか?とっても美味しいのに」

「私は……甘いものが好きなのだが、ここではね……。向こうで食べるよ。向こうはとてもフルーツ……えっと、果物が美味しいんだよ」

「果物?えっと、どんなの?えっと、わ……僕が知ってるのは、なんか、西の国の皇帝が、じょ、徐福じょふくと言う者に命じて、探しに来た不老不死の妙薬が、果物……と聞いた」


圭吾は目を丸くする。


「詳しいね。それはね?この日本の原産のたちばなと言う木の実の事だよ。橘は、葉が落ちないから『永遠』を意味するんだ。でも、橘に似た果物が甘くて、美味しいよ。ミカンと言うのだけど……」

「そうなの……?父上」


 景虎は、圭吾の遠縁の子と紹介されており、両親の事情で引き取ったことになっている。

 琉璃の父の手回しで、すでに戸籍もある。


「それに、野イチゴがとれたりしないかな?」

「野イチゴ……?」

「あぁ、蛇イチゴだよ。野生の赤い実の。他には、コクワの実は?」

「こ、コクワの実は、食べる!!でも、へ、蛇イチゴは毒!!食べるなと……」


 ビックリする景虎に、圭吾は微笑み、


「コクワは、小さくて甘酸っぱいけれど、蛇イチゴも食べられるんだよ。毒はないんだよ。でも、そんなに甘くないから、ジャムにすると美味しいんだ」

「ジャム?」

「今度、向こうで作って食べようか?亮が料理が好きでね、色々お菓子も作るよ。ジャムと言うのは、果物を、お砂糖とコトコトと煮立たせて、冷まして色々なものにつけるんだよ」


元直の言葉に、


「さ、とう?」

「あぁ、南の地域には甘い木があるんだよ。竹……みたいなものかな?それを取って、潰して汁を絞る。それを煮詰めて白い砂のようになるんだ。それがこれ、だよ」


圭吾は、自分の飲んでいたコーヒー用のシュガーを示す。


「ほら手を出してみて」


 素直に出した景虎の手に白い砂が少し乗せる。


「沢山口にするとジュースが飲めないからね?嘗めてごらん?」


 恐る恐る嘗めて……、


「甘い!!わぁ、こんなものがあるのか。すごい!!」

「これと、イチゴや、コクワの実等をコトコト煮込んだら、甘いジャムになる」

「わぁ……僕、楽しみだ!!」


はしゃいでいた少年だが、


「皆様、ご搭乗の準備が整いました」


の声に、硬直する。


「ち、父上……僕……帰る!!」


 逃走しようとした景虎を抱え上げるのは、元直。


「大丈夫大丈夫。怖くないよ~?」

「や、やだやだ!!こわいよぉ!!うわぁぁん!!」


 泣き出し、逃げ出そうとする少年を抱えたまま、飛行機に乗り込んだ元直は、圭吾達に、


「さすがは子守りのプロ!!」


と、言われたのだった。

 ちなみに、元直は幼稚園教諭等の資格を持っていたりする。

 景虎の教育係も元直の仕事になることになるようである。

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