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act.18

エレベーターに乗り込むと悠真は胸ポケットから黒いカードを取り出し、階数ボタン下にある薄い隙間に差し込んだ。

カードの磁気が読み取られ、それにより点灯した階のボタンを押す。

押された階を見て結菜は顔色を変えた。


「五十嵐くん…一体何処に行く気?」

まさかと思いながら恐る恐る尋ねる。


「俺の部屋」

言うのと同時にドアが開く。


レストランフロア2階下のインペリアルスイートがある階層は、他の客室フロアと違いそのまま階数ボタンを押しても反応しないようになっている。

止まるためには、専用のフロアカードもしくはルームキーが必要だ。

クリスタルで出来たシャンデリアが照らす廊下、漆黒とオフホワイトで統一された内装も、他のフロアとは別格扱いになっている。


目の前に現れたフロアの内装を見て結菜は咄嗟に手を振り払おうとしたが、逃さないと悠真は彼女を抱き上げる。

離してと暴れようとするが、肩上に抱き上げられ、腰と膝裏を固定されているため抵抗しようにもまるで動けない。


悠真は結菜を抱えたまま廊下を進むと、一番奥のドアの前に立つ。

先ほど取り出した黒いカードを差し込み部屋のドアを開けると、メインベッドルームへと向かった。


冗談でしょ…まさかさっき言ったことを実現しようとしている訳じゃ…。

本気じゃない、よね……。


悠真と一緒にこの部屋に入るのは二度目だが、今回は明らかに前回と違う理由だ。

何処に連れて行かれようとしているのか判ると、結菜の心臓の音が更に煩くなる。


悠真はターンダウンが済んでいるキングサイズのベッドの上に結菜を投げ出すように下ろすと、そのまま彼女を組み敷く。

怯えたようにも見える彼女の顔を見つめると、そのまま自分の唇を彼女のそれに落とした。


「んっ…」


リップ音を立てながら、少しずつ彼女の奥へ入り込もうと唇を動かす。

舌で優しく歯をつつくと、躊躇いがちに結菜の口が開いた。

口内へ侵入すると、味わいつくすように何度も舌を差し込む。


「んふ…ぁん……」


乾きを潤わすように蹂躙すると、悠真はペロリと唇を舐め上げる。


「ずっとこうしたかった…」


翻弄されるような熱が離れ、目を開けると苦しそうに見下ろす悠真の顔があった。

何故そんな表情をするのか――――。


「結菜は俺と会いたくないのか?」


頬を吸い上げるようにして結菜の顔を浮かせると、再びチュッと音を立ててキスを落とす。


言っている意味が判らない。

会いたくない、などと思ったことはない。

むしろ会いたいと、声が聞きたいとずっと願っていたくらいだ。


「何で余計なことをする」

「余計なことって…」


悠真の押し殺したような声に結菜はショックを受ける。

余計なことかもしれないけど、頼まれてもいないことだけど、それでも――――。


「だって、賭けに勝たないといけないんでしょ?お父様とそう約束していたんじゃないの?」

「だからそれが余計だって言っている」

「……ああそう、悪かったわね。判った、もうしないわよっ」

「もう手遅れだ」

「は…?」

何だか会話が噛み合っていない気がする。


「五十嵐くん、一体どういうことか説明してくれる?」

そっと上に乗っている悠真を押し返すと、彼はあっさりと身を起こした。


元々、結菜をどうこうするつもりはなく、他に聞かせられない話をするために部屋に連れ込んだのだ。

悠真の纏う雰囲気が明らかに変わり、結菜は肩の力を抜いた。

悠真はベッドから降りると、一人がけのソファに身を沈め、ゆっくりと話し始めた。



買収騒動に対し、独自で調査をしていた悠真は少し行き詰っていた。

何をどう探れば良いのか、範囲が広すぎて絞れなかったためだ。

しかし、結菜が『月白げっぱく』へ連れて行ったことが突破口となった。

買収推進派のトップ二人、佐々木実と村田良一。

彼らが何故、強く買収を進めたがるのか。

そして、何故そこまでして日本鉄鋼エンジニアリングに拘るのか…。


日本鉄鋼エンジニアリングの買収については、悠真が以前説明していた通り、相変わらず買おうと進める派閥と、それに反対する派閥で揉めていた。

佐々木と村田が買収推進派だった理由は単純だ、日鉄エンジの役員から買収の話を持ち掛けられ、その見返りに賄賂を受け取っていたからだ。

あの日、『月白げっぱく』で話していたのもその賄賂を含む見返りについてが中心だった。


「賄賂?」

「ああ。結構な額を貰っているようだ」


そう言えばと、大輔の言葉を思い出す。

やたらと羽振りが良いと言っていなかっただろうか?

まさか新型のベンツもそのお金で…?


「でも…どうして会社を買収するように五十嵐ホールディングスに持ち掛けていたの?わざわざ、自分達の会社を買い取れなんて……」

「その答えに今日会っただろ」


日本鉄鋼エンジニアリングは年々業績が落ち続けている。

3月期の赤字も大きく、更に今年度は危機的状態に陥るのではないかという噂。

悠真が独自に調べた結果も同じような答えだったため、ほぼ間違いない。

倒産するほどの赤字となれば銀行からの融資も難しい。

そこで彼らは身売りすることを考えた。

五十嵐ホールディングスの傘下に入ることで資金繰りを何とかし、会社を立て直そうと。


「銀行も馬鹿じゃない。自分たちが融資している先が倒産なんてことになれば問題だろう。間違いなく調査に入っているはずだ」

「だけど、五十嵐ホールディングスの傘下になれば…」

「まぁ、銀行も安心するだろうし。新規の融資も考えるだろ」

「それじゃ、今日のことにも意味があったの?」

「十分な程に」

「それなら何で余計なことって…確かにそうかもしれないけど、タイムリミット迫っているんでしょ?」

「迫っているがまだ時間はある」

「どうして!?早く解決すればっ…」

「俺は何でここに泊まっていると思う?」

遮るように悠真が問う。


「何でってそれは…お父様がそうしろって言ったからでしょ」

「そう……つまり俺は、体の良いスパイに使われたんだよ」

『スパイ?』と聞き返す結菜に悠真は言葉を続けた。



経営が危ういと噂がある日本鉄鋼エンジニアリングだが、彼らが持っている海外市場と、ある程度赤字になったとしても、その赤字を節税に使うという部分ではメリットがあるように思えた。

しかし、強行とも取れる買収推進派の動きが、反対に懸念を生んだ。

特に目立った二人の役員について行動を調査したいが、社内でも誰が彼らに組みしているか判断が出来ない。

他の役員も信用できなかった悠真の父は、間違いなく『裏切らない』と思われる息子を利用することにした。

佐々木と村田が贔屓にしており、尚且つ頻繁に会合をしていると調べ挙げていたホテルへ送り込み、悠真が望む『留学』を盾にすれば、自ら行動を起こすだろうと。


「言っただろ。俺の行動は足立に監視されている。最初は馬鹿な行動を起こさないよう俺を見張っているのかと思ったが、今なら違うと判る。俺が会っている人物から調査した内容を全て、親父に報告しているんだよ」

「でも…」


結菜は足立と会った時のことを思い出す。

確かに悠真の言うとおりかもしれないが、彼は悠真の境遇に同情し、心配していたようにも見えた。


「今日あったこともどうせすぐバレる。ここまで証拠が揃っているんだ、後は日鉄エンジの融資について林を調べれば、買収するかどうか判断できるだろう」

「買収する可能性はあるの?」

「赤字でも日鉄エンジを買い取るメリットがあれば。双葉銀行がどれくらい融資をするかにもよるな。佐々木と村田は処分されるだろうが、買収含めその辺は俺が判断するところじゃない」

「なら、もうすぐ解決できるじゃない」

そう言う結菜に対し、悠真は再び苦しそうな、悲しそうな表情になる。


「……解決したら俺はここに泊まる理由が無くなる」

悠真の言葉が結菜の中で重く響いた。


設定に無理があるのは重々承知です…。

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