act.16
悠真の連絡先が判らないので、レセプションへ寄ってレジカードをこっそり見に行ったが、五十嵐ホールディングスの名と会社と思われる電話番号、住所が記載されているだけだった。
悠真の個人的な連絡先は皆無。
こんな情報だけで良いのかと思ったが、悠真の身元がハッキリしているので許されているのかもしれない。
所詮、悠真との関係はホテル従業員と宿泊客と言う痛い現実に直面した結菜は、オペレーター室に戻って来た。
こうなったら、悠真でも足立でも向こうから連絡が入るのを待つしかない。
「玲さん、五十嵐様か足立様から連絡ありました?」
「今日?ううん、連絡無いけど、どうして?」
「えーっと、どうしても伝えたいことがあって…何とか連絡取りたいんです!」
「と言われても…」
「やっぱり連絡来るの待つしか無いですよね…」
肩を落とす結菜を見て玲は少し考えると「そうだ」と、何かに気付いたように、
「五十嵐様ってハイヤー使っているのよね。それなら、ハイヤーの運転手と連絡取れれば、五十嵐様に繋がるんじゃないかしら」
そう言う玲の言葉にハッとなる。
「玲さん、頭イイ!」
「それならやっぱり…」
「判ってます。山口さんですよね!?」
「そう言うこと」
悪戯っぽく玲が笑う。
大輔には向井からの言付けも伝えなければならない。
結菜は焦がれるように学会が終わるのを待った。
念のため宴会場のクロークに連絡を入れ、間違いなく学会が終わり人も捌けていると確認が取れると、結菜はドアデスクの内線を鳴らした。
出たドアマンに大輔を呼び出してもらうと、まず向井からの伝言を伝える。
双葉銀行の林について話すと「またあいつか」と悪態をついた。
『ストライプ』の部分が意味不明だったが、大輔曰くいつもストライプのスーツを着ているからとのこと。
宴会セールスとドアマンの間では『ストライプ』で話が通じるらしい。
そして、悠真と何とかして連絡が取りたいので、ハイヤーの運転手を捕まえて貰えないかと依頼すると流石に渋った。
大事な伝言を預かっているので、一度ホテルのレセプションに連絡を取って欲しいとだけ何とか伝えてもらえないかと頼み込む。
悠真がレセプションに連絡を入れてくれれば、結菜が客のフリして残したメッセージを受け取ることが出来る。
「この前も思ったけど、一体お前は何を企んでるワケ?」
「企んでいるとか人聞きの悪い事言わないでください」
「で?何をやってる?」
「……すみません、今は話せないんです。でも、どうしても連絡が取りたいんです。今夜、双葉銀行の人がホテルに来る前に」
「……そういや、ストライプが会うのは日鉄エンジの社長だよな?」
「そうです」
「結菜、イイコト教えてやろうか?」
「良い事、ですか?」
急に嬉々とした声音に変わった大輔に訝しむ。
「去年、倒産した大和電気覚えてるか?」
話題が変わったことを不思議がりながらも記憶を辿る。
結菜が覚えている限りでは、大和電気は従業員800人近く抱える大手の電機メーカーで、業績不振により年末に倒産した会社と言うことだけだ。
大手だったこともあり大々的にニュースをやっていた。
その事を伝えると、
「倒産する迄の数ヶ月間、ストライプと大和電気の役員はうちのホテルで頻繁に会ってたんだぜ?」
と答えた。
「え?!」
「どう解釈するかは任せるけど、お前が言いたい事は判った。仕方ねーからレミーマルタンで手を打ってやる」
「ええーっ!」
「お前な、理由も言わずに俺に協力しろとか言っておきながら見返り無しかよ。レミーマルタンなんて安いもんだろ」
「…判りました。ラウルに言っておきます」
「前回の情報料もこれでチャラにしてやる」
「…アリガトウゴザイマス」
「それから、変な入れ知恵した玲にいつか覚えてろと言っとけ」
判ったな、と念を押すと大輔は電話を切った。
言われた事を玲に伝えると「そう言って大ちゃんはいつも忘れちゃうのよね」と、のほほんとしたものだ。
これで悠真との連絡は何とかなるだろう。
後はレセプションにメッセージ残し、さくらに先日と同じような事を頼むだけ。
――――それにしても、山口さんが言った事が気になる。
業績不振に陥っている日本鉄鋼エンジニアリング。
にも関わらず融資担当と会っている社長。
会う理由は?…融資を頼もうとしているのかしら?
だけど、五十嵐ホールディングスの役員はどうしてそんな会社を買収しようとしているんだろう?
――――ダメだ、全然判らいない。
悩んでも仕方ない、ここは行動あるのみ!
結菜は再びインカムを掛け直すと、さくらと連絡を取るべく『月白』の内線を鳴らした。
結菜は私服に着替えると、『ストライプ』こと、双葉銀行の林が来ると思われる前に『月白』へ向かった。
先日とは違い今回はいつものパンツスーツ姿だ。
レストランの前に悠真の姿は無い。
メッセージ受け取ってくれていれば、そろそろ来るはずなのだが…。
捜すようにキョロキョロしながらレストラン入り口に近寄ると、さくらが小走りに駆け寄ってきた。
何だか焦っているように見える。
「結菜、ごめん!」
目の前まで来ると、両手を合わせて申し訳なさそうに言う。
「どうしたの?」
「それが『ストライプ』のヤツ、予約を懐石料理に変えちゃって、席がお座敷の個室になっちゃったの」
ここでも林は『ストライプ』で通じるのかと思いながら、「お座敷?」とさくらに尋ねる。
「そう。しかも、もう今夜は席が空いていないから結菜達を懐石に入れる事が出来ないの…」
「え?!」
「ホント、ごめん…。あたしも忘れてたんだけど、『ストライプ』っていつも個室予約してるんだよね。今回はお連れ様のリクエストで、天麩羅セクションになるはずだったんだけど…」
ただ単に自分の好みを優先したか…もしくは、何かとても大事な話があるのかもしれない。
お座敷の個室なら周りからシャットアウトされている上、襖を閉めればスタッフは開ける前に必ず声を掛ける。
ここまで来て――――。
どうしようかと悩んでいると、背後から「結菜」と呼ばれた。
ずっと聞きたかった声に心臓が高鳴る。
我に返って勢い良く振り返ると、そこにはスーツ姿の悠真が立っていた。




