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∞ Brave Bullet  作者: 似櫂 羽鳥
第一章 世にも騒がしき来訪者
6/11

~4~

【報告書

 25XX年9月19日、国家連合軍日本ベースにおいて神聖レルアバド教団との戦闘。日本ベース所属第7144分隊|(以下、隊)が応戦。敵数約40、ベース南方より襲来。隊は敵後方よりの奇襲に成功、迎撃す。

 隊隊長カザネ・アキモリ少佐、ユウキ・レイ軍曹が敵戦力を二分、状況は好転。ヴォルク・セレブロ大尉、ルリ・ファルチェ准尉の砲弾によりさらに敵戦力分散。索敵:アリア・マーグリー伍長。しかし敵内にステルス迷彩機構を搭載した機体あり、索敵は難航。ルードヴィッヒ・リッター・ヘルツォーク伍長が迷彩機体の狙撃に成功、そのまま戦闘を続行する。ヘルツォーク伍長のGiA、自機の通信回線を敵機に阻害され以降通信不可となる。

 セレブロ大尉、ファルチェ准尉は砲撃を続行、マーグリー伍長被弾するが修復。依然ヘルツォーク伍長の回線は復活せず、迷彩機との戦闘続く。アキモリ少佐撃破数10、レイ軍曹撃破数13。迷彩機を除く敵機ほぼ鎮圧。ヘルツォーク伍長、迷彩機との戦闘中に武器二種破損、左腕肩部位損傷。射撃武器損失により接近戦となる。攻防の後、敵機駆動系損壊に成功。同時刻、敵迷彩機行動不能、同時に通信回線復活す。】


 ステラはペンを置き、ふう、と一息ついた。いつものことだが、報告書の提出期限ぎりぎりの徹夜仕事だ。アリアが寝る前に入れてくれたコーヒーはすっかり冷めてしまった。申し訳ないと思いながらもキッチンのシンクに流し、コーヒーメーカーに手をかけたが思い直して棚のインスタントを取った。この時間に洗い物を増やすのは気が進まない。

 普段は飲まない粉末のコーヒーはあまり美味しいとは言えなかったが、それでも徹夜の頭は少し冴えてくれた。時計を見ると午前三時。どうにか明日の定例会議には間に合わせられそうだ。

 今回は報告書の内容に多少なりとも書きづらいことが多かった。一番辛かったのは回線遮断中の戦闘状況をルーイに聞いた時だ。その部分だけを残して他を書き上げ、彼の傷が少しでも癒えた頃に…と思ったのだが、あまりにもショッキングなあの日の出来事は彼の心を予想以上に深く抉っていた。




 しょんぼりと眉を下げたアリアが盆を持って食堂に戻ってきた。乗っている今日の朝食は運んだ時のまま、少しも減っていない。代わりに昼食を置いてきたが、きっとそれもそのまま戻ってくるだろう。あの日から二日、ルーイは自室に篭ったまま食事もとらずふさぎ込んでいるようだった。

 ため息をつくアリアを一瞥し、ヴォルクが大きく鼻を鳴らして荒々しく廊下を突き進む。扉の前に置かれた昼食のトレイを手に取ると、乱暴にノックをした。

「おい。起きてんだろルーイ! せめて飯くらいちゃんと食え!」

 返事はない。わざと聞こえるように舌打ちし、一層激しく扉を叩く。

「ったく、いつまでもうじうじ引きこもっててどうすんだ! 返事くらいしろ、そして飯を食え! 作ってくれてる奴らに失礼だろうが!」

 痺れを切らして、ドアノブを荒く掴んだ。するとそれはあっさりと開いた。暗い部屋の中で、ルーイはベッドにもぐりこみ布団にくるまって丸くなっていた。

 吐息を一つ、部屋に入る。散らかった机にトレイを置き、ヴォルクはベッドの端に腰かけた。

「…おい」

 返事の代わりに、布団がもぞもぞと動いた。少し顔を出したようだが、表情まではうかがえない。ヴォルクは背中越しに、ルーイに話しかける。

「辛いのはわかる。まさかララがな…しかも、あんなことになっちまった。どうせお前のことだ、自分を責めてんだろ」

 沈黙は肯定の代わりだ。

「まぁ、なんつーか…元気出せよ。落ち込んでばかりいたって、何にもならねぇんだから」

 ふいにルーイが体を起こした。解いたままの長髪が顔を隠していたが、心なしか泣いているようにも見えた。

「……そんなこと言われたって、無理ですよ。僕の気持ちなんかわかりもしないくせに、薄っぺらい慰めなんかしないでください」

 ぶっきらぼうに言い放つが、声は震えていた。ヴォルクはちらと彼を見、虚空を仰いで長い長い吐息をこぼした。

「…わかるんだよ、俺は。お前の気持ちがな。自分を責めまくって、あの時こうしてたら、もっと早く気づいていれば、そんなことばっか考えてる。後悔ばっかで押しつぶされそうで、明るいとこで笑ってる周りの奴らがみんな憎らしく見えるんだろ。誰も俺のことなんかわかってくれない、慰めの言葉なんて聞き飽きた。そうやってどんどん一人で閉じこもっていく」

 訥々とつぶやき、煙草に火をつける。ポケットから携帯灰皿を取り出して、ゆっくりと煙を吐き出した。

「あいつのことしか考えられなくなって、夢に出てくるほどな。楽しかったことばかり思い出す。でもあいつはもうどこにもいないってわかってるから、余計に自分を責めちまう。な? その通りだろ」

「……どうして…どうして、わかるんですか…」

 すべてが図星だった。ルーイは驚愕を隠さず、ヴォルクを見る。彼の瞳が少しだけ陰った。

「…俺も昔…自分のせいで、恋人を失ったんだ。お前と同じさ…誰にも言うなよ」

 小さなため息と共に吐き出された紫煙がたなびき、中空に溶けるそれをルーイはただ見つめた。思えば、ヴォルクが自ら過去に触れてきたのは初めてかもしれない。少なくともルーイは初耳だった。いつになく寂しげな彼の瞳を見て、決して自分を慰めるために嘘をついているのではないと悟る。同時に、深すぎる後悔と悲しみを見た。

 記憶の奔流。消せない過去。弱い自分と彼女の笑顔。揺れる紅い巻き毛。初めて触れた手の暖かさ。思い出。優しく甘いキス。そして三度の別れ。永遠の離別。

「辛いよな。悲しいよな。我慢すんな。泣いて泣いて吐き出しちまえ」

 大きな手のひらにあやされながら、ルーイは感情のままに声をあげて泣いた。涙も鼻水も垂れ流し、枯れ尽くすくらい、大声で泣いた。その間ヴォルクは、ただ静かに彼の痛みを感じていた。自身の心の奥底に隠しこんだ傷が、鈍く共鳴する音を聞きながら。


 ひとしきり泣いて落ち着いたルーイは、目を腫らしながらも清々しい顔でヴォルクの持ってきた昼食に手をつけた。満足そうにうなずき、ヴォルクは「さっきの話、誰にも言うんじゃねぇぞ」と念押しすると部屋から出ていった。

 すっかり冷めてしまっていたが、アリアの作った野菜のスープは不思議と彼の心を温かくした。ゆっくりとその素朴で優しい味を噛み締め、そういえば昔は野菜が大嫌いだったな、と思い出す。

『ルーイ様、好き嫌いはいけませんわよ。どんなお料理も食材も、作ってくださった人の心がこもってますの。それを感じれば、嫌いなものだって美味しくいただけますわ』

 彼女が言っていた言葉だ。最初こそ渋々従っていたが、毎日言われ続けているうちにいつの間にか偏食が減っていた。彼女と食事をするときは必ず食べる前にお祈りをしていた。全てに感謝を。お祈りの締めくくりはその台詞で、いつしかルーイも暗唱できるようになっていた。どんな些細なことにも感謝と愛を。彼女の教えはルーイの心に響き、見える世界を美しく変えてくれた。

「…ありがとう、ララ。キミのおかげで、僕は少しだけ、僕を好きになれたよ」

 記憶の中の彼女は変わらない笑顔をしていた。今度こそ忘れない、絶対に。

 勢いよく残りのスープとパンをかっ込み、髪を結って立ち上がる。

「…僕はもう、ひとりじゃない」

 扉を開けて、一直線に仲間の元へ。空のトレイを片手に現れたルーイを見やり、全員が安堵と労りの言葉をかける。皆の慰めは、素直にルーイの中に入ってきた。

「ご心配をおかけしました、すみません。アリアさん、ご飯ごちそうさまでした。美味しかったです」

 にっこりと笑うアリアにトレイを渡し、改めてルーイは全員を見た。そして力強く、言い放つ。

「…なんとなく、気持ちの整理がつきました。遅くなってすみません。もう、一人で抱え込むのはやめにします。僕には仲間が…皆さんがいる。それに、彼女のこと…ララのこと、みんなにもちゃんと覚えていてほしいから」

 ちらりとヴォルクに目配せする。いつもの定位置に腰かけた彼は微笑み、そっと頷いた。

「だから…全てをお話しします。ララのこと、僕のこと、あの日起こったこと…全部。長いかもしれませんが、どうか聞いてください。お願いします」

 深々とルーイは頭を垂れた。一皮むけたような彼の姿に、カザネはしゃがんで下からルーイを覗き込んだ。

「なんか、ルーイ別人みたい。前より全然いいよ、その方が」

 お辞儀をした拍子にずれた眼鏡をからかうこともなく、カザネはにーっと笑う。

「聞くに決まってんじゃん! あたしたちはみんなで一つ! もう家族みたいなもんでしょ? 最初から最後まで、ぜーんぶ、話してよね」

 それから顔を上げて、メンバー全員を見回す。

「ほらほら、みんな着席…はしなくていいけど、まじめにルーイの話聞くこと! 隊長命令だからね!」

「言われなくても」

「わかっとるがな!」

 呼応したユウキとルカも笑っている。全員がルーイを囲むようにして、デスクについた。

 ———それからゆっくり少しずつ、ルーイは自分たちのすべてを語った。今まで中二的に捏造していた自らの過去も、包み隠さず打ち明けた(カザネからいろいろツッコミは入ったが、当然だろう)。特にあの日…戦闘中から彼女の死に至るまでの部分は、時間をかけて真実を伝えた。自分でも噛み砕くように、受け入れるように。ステラが報告書のため、と申し訳なさそうに詳細を聞いてくるが、嫌な気持ちはしない。覚えている限りで細かく話した。あの日自分を襲ったのは彼女の意思ではない、教団がそうさせたのだと念を押しながら。

「エンジェル・ハイロゥ…私も知っているわ」

「確かぁ、TAFの歴史関連の書物にもぉ、載っていましたよねぇ」

「はい、僕も授業で聞いた程度ですが…あの時のララは普通じゃありませんでした。教科書に載ってた通り、操られているような感じでしたから」

「へー…なんか怖いね、教団のやることって…人をおかしくさせて、GiAに乗らせる、なんてさ…」

「ほんまやな。でも確かにルーイはおかしくなっとるララをみた、それは揺るぎない事実や。そんな無茶苦茶な機構でギヤ動かしよるなんて、ほんま理解できひんわ」

 その会話の間中ずっと、ヴォルクは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。が、それは誰にも気づかれることなく通り過ぎた。

「…で、狙撃か。まさかGiAの戦場に、歩兵が忍んでいたとはな」

 ユウキが訝るのも無理はない。GiAを用いた戦場で白兵戦が同時進行することはごく稀にあることだが、今回はそういうわけではなかった。教団を裏切ろうとした彼女を処断するなら後々だって不可能ではない。AHの支配下にあるのならそもそも彼女が戦闘中に正気に返ることもなかったはずだ。予備電源の損傷から起こった想定外の事故、と言い切ってしまえばそれまでだが、わざわざ一部隊を撤退させた後生身の狙撃兵を待機させ、『偶然』機体から離れた瞬間を見計らい、『偶然』彼女が愛する人の目の前で射殺した。まるで端からこうなることを予測していたかのような敵の行動。すべてを偶然と片付けるにしてはできすぎたシナリオだ。

「私とルカさんは味方機の回収に気を取られていて…敵GiAがすべて撤退していましたので、もう誰もいないとばかり…迂闊でした。本当に申し訳ないとしか…」

 語尾を濁したステラにそっと首を振り、ルーイは悲しげな笑みを浮かべる。

「謝らないでください。悪いのはステラさんでも皆さんでもない…ララを騙して、ひどい目に合わせて…簡単に切り捨てた、あいつらです。僕は教団を…絶対に許さない」

 ぐっと握った拳が震えた。その手をいたわるように、そっとルリの手のひらが包んだ。

「…」

 いつもと変わらない無言のルリだったが、沈黙の中に労いと大きな怒りを感じ取れた。

「…そういえば」

 不意に、ルカが腕組みをしながら呟いた。

「なんや、変な機体がおったな。レーダーには映っとったんやけど、戦闘区域外からずーーっと動かへんから言わんかったんやけど」

「変な機体? GiAオタクのルカちゃんでも見たことないヤツってこと?」

「せやねん。まぁあちらさんの使ってる奴らはみんな独自の改造されてるのが多いから、初めましてさんがおってもおかしいことはないねんけどな」

「特徴は?」

 ユウキの問いかけにうーんと唸り、必死に記憶をたどる。

「ブリッジのモニターにちらっと映った程度やからなぁ…はっきりとは。なんや腕のパーツのとこにペイント入ってたんはわかったわ。柄までは見えんかった」

「腕に、ペイント…それって、ララの乗ってた機体にもありましたよね」

「そんな感じのや。同じ模様かどうかまではわからんし、第一あれが何か意味のあるモンなのかもわからへんけどな」

 軍本部に回収されたフェアラートの機体。右腕の一部に、大きく何かの模様と文字が描かれていた。だが一見してただのペインティングにしか見えないそれは本部の人間にスルーされ、一応の記録用として写真データが残っているだけだ。機体そのものは研究目的ですでに解体が始められている。

 全員が押し黙った。何せ隊員の身内が命を落とした、という案件である以上、少しの引っ掛かりにも敏感になってしまっている。だが現状でそこから何かが見いだせるわけでもなく、それぞれが小さくため息をついた。

「…まぁ、その件は本部からの情報を待ちましょうか。ルーイさん、お疲れ様でした。お話してくださってありがとうございます。戦闘中のことに関しては、プライバシーに注意して報告書に書かせていただきますが…よろしいですか? 不躾ですが、仕事なので…ごめんなさい」

「大丈夫です。むしろ、ご報告が遅くなってしまってすみませんでした」

 ステラに会釈を返し、改めて皆に向き直る。

「皆さん、本当にご心配とかご迷惑とか、たくさんおかけしてすみませんでした。そして、聞いてくださってありがとうございました」

 ルーイの顔はいつになく晴れ晴れとしていた。

「ララがくれたいろんなことを大切に、頑張っていきます。ですのでどうか皆さん、こんな僕ですがこれからもよろしくお願いします!」

 立ち上がり、深く礼をした。拍手こそなかったが、全員がルーイを温かい目で見守っていた。顔を上げたルーイは彼らを見て、あの日以来ようやく心から笑えた。

 もう、独りぼっちじゃない。こうして支えてくれる、大切な仲間たちが、ここにいる。

(ララ、もちろんキミも、一緒だよ。キミは僕の心の中で、生きているんだから)

 そう、永遠に。





 マグを片手にデスクへ戻り、ステラは一つ、伸びをした。まだまだ残暑の厳しい季節だが、夜は涼しい風が窓からそよぐ。夜風と共に小さく虫の声が聞こえ、日本らしい風流さが胸に心地よい。

 ステラは腕をまくり、ペンを握りなおした。さぁ、あと少し、頑張らなくては。


【以上、ヘルツォーク伍長から報告である。尚ほぼ同刻、敵部隊全て撤退を確認。隊回収中、敵迷彩機に搭乗のフェアラート・リーネ・クリングベイルとヘルツォーク伍長が接触。しかし間もなく、クリングベイルは狙撃される。教団内の人間と思われるが犯人は不明。輸送機並びにベース監視カメラに映っていないことから、戦闘区域外からの狙撃と推測される。クリングベイルは即死。

 同じく戦闘区域外に敵機体あり。迷彩機と同様のペイントを持つ機体とファルチェ中尉の報告。しかし該当敵機は戦闘区域に侵入することなく撤退した模様。目的は不明、指揮官の可能性あり。現状ではその他情報が不足の為、詳細は報告不可。

 以上をもって今回の戦闘報告とす。

 撃破数詳細 カザネ・アキモリ少佐:14

 ヴォルク・セレブロ大尉:8

 ルリ・ファルチェ准尉:4|(迫撃砲による撃破を除く)

 ユウキ・レイ軍曹:16

 ルードヴィッヒ・リッター・ヘルツォーク伍長:2


 市街地被害なし。隊負傷者一名|(軽傷)。

 死者一名:フェアラート・リーネ・クリングベイル】


 そこまでを一気に書き上げて、ステラのペンがふと、止まった。「お姉さま」と自分を呼ぶフェアラートの朗らかな声が耳元に聞こえた気がして、目頭に熱いものがこみ上げた。ぐっと堪えて、最後の一文を書き足す。


【尚、クリングベイルはヘルツォーク伍長と婚姻関係にあった為、プライバシーには重々留意されたし】


 どうしてもそれだけは記しておきたかった。もちろん彼女は教団の人間として、敵として人々の記憶に残るだろう。教団の任務と知りながらこちらに接触してきた以上、スパイとしての汚名も戴くことになるのだ。

 しかしそのままでは、あまりにも彼女とルーイが報われない。きっかけや教団の目的はどうあれ、彼女は少なくとも本当にルーイを愛していたのだと、ステラにはわかっていた。ルーイを見るあのキラキラした瞳は、恋する少女のものでしかなかったからだ。そこに邪な気持ちや黒い思惑など、一つもなかった。

 婚約の事実を記載すれば、ルーイにも何かしらの聴取は免れない。あの日のことを何度も蒸し返させてしまうのは心苦しかったが、きっとルーイは全身全霊で彼女の矜持を守り通してくれるはずだ。自分たちに事の顛末を打ち明けてくれたルーイは、今まで見てきた中で一番たくましかったからだ。だからこそ、ステラはその事実を書くと決めた。

 気が付けばもう夜明けが近い。うっすらと空は白み始め、ビルの隙間に朝日がほんの少し顔を覗かせていた。大きく伸びをすると、書き上げた報告書をまとめ、コーヒーを飲み干した。数時間後には定例会議だ、少しくらい仮眠が取れるだろう。あまり音をたてないようにカップを洗い、部屋を出ようとしてデスクの真ん中に置かれた写真に微笑みかける。

「…おやすみなさい」

 彼女が帰る直前に撮った、全員の記念写真。

 皆に囲まれてはにかみながら王子様の手を取る赤毛のおてんば姫は、幸せそうに笑っていた。

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