危うい蛸
容も、彩も、
いたずらな目論見、
ちょっとツンデレして、ショーウィンドウの光が通りすがりだよ
と、おしゃべりな小競り合い――――‥あや、やかな…
ガラスの向こう側では、時間がぴあのを弾いている。
転が・る・つぼの中の
ダイス‥
ライムの木には、楽譜の生りもの―――‘今にも’な未来。
陽気な、内気だけれど、陽気な、
ハートの鴎は、
羽のロマンを風に訴求‥、波、波、、
「時間の蛸は、どこにでもパスをもっているのよ。
だから侃侃諤諤、どれも正しかったりするってこと。」
おしゃべりなムーンライトのおしゃべり
半信半疑のサイコロを
振ってみても出る目は、おもいきりのジャンプ台
「時間の蛸が、ここぞとばかりにたんこぶを膨らませてみせたら。
憂鬱のドーム状火山なの。
つまり、茹でられた蛸のアタマってこと。」
おしゃべりなムーンライトのおしゃべり
不可解のサイコロを
振ってみても出る目は、とびきりのバンジージャンプ
「たんこぶ…。」
探検バルーンの勢いは途中で、
まったり溶けだして
喉元あたりでコトバがバラけるから‥
ラッコ泳ぎしている弓なりの月は、
含み、のあるスマイル
藍いろ
ソーダの空には、
シュワ、シュワ、はじける流れ星。
さびしがりの兎は、とっておきみたいな
瞬きで‥。
‥時間の蛸のせいで、
おかげで、おかげ様をもちまして、
そぞろな日没――――。
「いらっしゃいませ。」
目抜き通りのブティックは今だけセール。
それを、ごちそうと啄ばむのは夢の木漏れ日なの
と、街のありふれた小鳥たち。
メレンゲのように細やかに日々をめぐらしては、
わずかずつ積分されてゆく羽ばたきを
頃合いよく形にして
そうして赤い実を、赤く萌えたつ実を‥。
/9,980円の噂のTシャツを俯瞰している小鳥たち/トキトキと血流を沸かせて/あの梁まるで白雲みたい/天井知らずにむねをはっている凧のシャツ/いま降りてきてよと小鳥たちは囀り/つかまえた50%オフの凧糸/今日はツイテルよと日替わりのラッキー占い/天窓の星座が笑っている
私は、ジグザグ歩きして小鳥たちをかわしながら、
新人アーティストのTシャツ棚へ。
Akemiのキリンは目力に星屑がひそんでいる。
「こちらのデザイナーのものは先日入荷したばかりですが、売れ行きがよくて。
お客さまも、お気に召しましたか?いつものようにラップいたしましょうか?」
リボンのかけられた紙包みとレシートをさしだす彼女は、
にこやかな、首の長い、…えっ、麒麟?
の、口‥
の、鼻‥
の、目‥
の、耳‥
の、角‥?!
角、つの、ツノ、実のところ…たんこぶ!!
意識がスクランブル交叉点をガラス越しにみている
ぼんやりとした時間のhysteresis《履歴現象》が起きて
わたぼうしの私はふわふわと
ピリオドの忘却
トゥルル‥
ふと鳴るムーンライトからの
トゥルル‥
「時間の蛸が、ここぞとばかりにたんこぶを膨らませてみせたら。
憂鬱のドーム状火山なの。
つまり、茹でられた蛸のアタマってこと。」
さみしがりの兎。
未来の楽譜を、ライムの木に生らそうと
トゥルル‥ トゥルル‥
時間の奏でるおたまじゃくしに、
トゥルル‥ トゥルル‥
「…ケガにね。」
「え?」
「頭のケガにね、気をつけて。あの、頭の左側。」
「はぁ…。」
それだけの予告編‥――――が繋がる
ドキュメンタリーは、数日後の彼女。
「ついそこの歩道で、看板が落ちてきたんです。
気になって帽子を被っていたおかげで、軽傷ですみました。
でも何か感じられたんですか?」
「時間の蛸が・・・あ、いえ、ただ何となくです。」
ショートカットの髪がまだそこだけ少し盛り上がっている。頭の左側。
風もない日の災難。
何度も何度も私にお礼を言うと、彼女は偶然の出会いに雑踏の中から手を振った。
さみしがりの兎。
未来の楽譜を、ライムの木に生らそうと
トゥルル‥ トゥルル‥
時間の奏でるおたまじゃくしに、
トゥルル‥ トゥルル‥
タイム・パラドックスを生じかねない…予告編。
危惧の鬣が沈黙の咆哮にひろがる。
「時間の蛸は、どこにでもパスをもっているのよ。
だから侃侃諤諤、どれも正しかったりするってこと。」
ムーンライトは今宵もほろ酔い加減。
「ね、時間のダイスはすてきな音楽にもなるのよ。
だから、さみしくなんかないのよ、兎さん。」