試行錯誤
お待たせ致しました(>_<)この時期勤労の方々、共にお疲れ様です☆
橋付近で感染者を排除し家に戻りながら男性は周囲の景色を眺めながら感染者や非感染者をこの土地に立ち入らせない策を考えていた。川に挟まれ真北には人間でも越える事の難しい山と木々に覆われている。橋さえ無ければ見付かる事はないが、男性としても橋が無いのは不便である。どうしたものかと考えあぐねても、一考に答えが出る訳でもなく、気づけば家の前まで辿り着いていた。男性は再度周囲を警戒しながら槍を構える、微かな音に耳を澄ますが、風が木々を揺らしている音と雨粒の滴る音が聞こえるばかりであった。考えに没頭し周囲の警戒を怠った自分を反省しつつ男性は裏口から家に入って行った。
裏口から家に入るとパックが尻尾を振りながら舌を出しながら呼吸をし、お座り状態で男性の帰りを待っていた。男性はパックの頭を撫でると喉を鳴らす様に男性に擦り寄って来た。男性は御苦労様とパックを労いながら裏口にしっかり鍵を掛け家の中に戻って行った。
家の中に戻った男性は和室の襖をそっと開き女性の様子を伺ったが、女性は何事もない様子でスヤスヤと寝息を立てていた。女性の様子に少し安堵しながら男性は襖を閉じ二階に静かに上がって行く、自室に入るとモニターを再度確認したが、感染者も非感染者の姿も無かった。一緒に自室に上がって来たパックは自身のお気に入りの寝床に何度か回る様にして踞り、男性を見詰めていた。モニターに映る映像に異常が無いと分かると男性は椅子の背凭れに寄り掛かり安堵の溜め息を深くつきながらバスタオルで濡れた髪を拭く、緊張の糸が切れ暫く天井を眺めて居たが、男性は釣ってきたイワナの事を思い出す。背中を背もたれから離し椅子から立ち上がると
『庭に置いたままだった………』
部屋を出て一階に戻り庭に出るとイワナは窮屈なバケツの中で元気に泳いでいた。男性はホッとした表情を浮かべた。バケツを持ち家の中に戻りバケツを流しに置くとダイニングテーブルの椅子に座り改めて安堵の溜め息を漏らした。祖母が気に入っていた振り子時計がチクタクと時を刻んで行く、何とも心地の良い音だ、パックは男性の近くに寝そべっている。雨が降ってるので薪割りも出来ず、男性はこの後やる事を暫く考えていが、流しに置いたバケツを持ってダイニングの隣の部屋に行く、其処は男性の集めてきた物資等がところ狭しと積み上げられていた。部屋の端には水槽があり其処に釣ってきたイワナを放流する。バケツより広い場所へと移されたイワナは悠々と水槽の中を泳ぎ回っていた。
感染者の排除等でいつの間にか昼近くになっていた。男性は残っていたご飯でお握りを三個作り、残ったご飯でお粥の準備を整えた。女性は相変わらず眠っていた。パックは以前ホームセンターから入手した骨の形をしたおやつを貪っている。作り置きの味噌汁を温め直し昼食の準備は整い、パックにドッグフードを与えると昼食を取る事にした。三個作ったお握りを二個だけ食し、残り一個はラップに繰るむ、小腹が減った時用に取っておく為だ、相変わらず雨は降り続いていた、男性は女性の眠る座敷に行くと、開けてあった雨戸を極力音を立てない様に閉じて、パックと一緒に二階にある自室に戻って行った。
自室に戻るとモニターの置かれた机の椅子に座りモニターを時折見ながら、銃の弾薬等を磨いた。いざと言う時に錆び付いて使い物にならないじゃ話しにならないので、銃のメンテナンスも分かる範囲で施していた。ゆっくりとした時間が流れパックはお気に入りの場所で眠っている。こんな現状になってから、ゆっくりと過ごせる様になったのは、つい最近の事であった。
感染者が現れて以来、男性は物資の調達、安全の確保、感染者の排除や自給自足の為の作業に終われていた。この家から一番近い集落の感染者を全て排除したり、家のセキュリティの強化等も行った。男性は別に無闇に感染者を排除しているのではなく、必要と思った時に排除していた。誰だって感染のリスクは避けたいし、相手はリミッターの壊れた見境のないキリングマシーンだ、それだけでも充分過ぎる程避けたい位だ、感染者は餓死もしくは腐敗が進み動けなくなるのだろうかと毎日の様に考えていた。もし、何れは感染者が動かなくなるなら、それに越した事はない。もしかしたら今、世界の何処かでワクチンが作られて居るのかも知れないが、ワクチンに関しての期待等は男性は持って居なかった。
銃のメンテナンスと銃弾の拭き取りを終えると二時間以上経っていた。それ程、男性は結構な数の銃弾を所持していた。その間モニターにも感染者の姿はなく、アラームも鳴っていなかった。男性は一度一階に降り女性の様子を伺った。窓の欄間部分は開けて居たので多少の光は射し込んで居たので蝋燭等の照明は必要無かった。女性は安心しきってるのか、ぐっすり寝息をたてながら眠っていた。
男性も、やる事が無くなったので少し昼寝をする為に自室に戻った。
ベッドに横たわると直ぐ様睡魔に襲われ眠りについた。
次に目を冷ました時、昼寝から2時間経過していた。男性は寝過ぎたと焦りベッドから起き上がると慌ててモニターをチェックするがモニターには相変わらず感染者の姿は無かった。その事で男性は少しホッとし、焦った気持ちを立て直した。自室のドアをゆっくりと開くと聞き耳を立てるが物音はしなかった。寝入ってしまった事で警戒は怠らない。一階に降り周囲を警戒しながら座敷に向かうと襖が開いている。恐る恐る座敷を覗くと、其処に女性の姿は無かった。男性は慌てて勝手口を確認するが、しっかりと施錠されており此処から出た様子はない。座敷の雨戸も窓のシャッター等もしっかり閉じられていた、玄関もしっかりと施錠されていた。何処に行ったのかと思っていると、トイレから水を流す音が聞こえてきた。拳銃を構えたままトイレに向かうとトイレのドアが開き女性が中から姿を現した。
女性はトイレから出て来た時下を向いて居たので男性には気付いておらず、ふと視界を上げると男性が拳銃を構えて立って居たので凄く驚いていた。
『あっ!………す、すいません………御手洗い勝手に使ってしまって………』
何とも気の抜ける様な言葉に男性はどっと力の抜けた様子で構えていた。拳銃を下に下げると溜め息を溢しながら拳銃をホルスターに収めながら話した。
『驚かせてすまない………こちらも布団に居なかったので驚き慌てていた………』
男性の言葉に女性は胸を撫で下ろしホッとしている様子であった。女性はまだ少しふらついていたが、歩くだけなら支障は無いとの事だったので、ダイニングの椅子へと案内した。ゆっくりと椅子に腰を下ろす女性、男性は湯を沸かし温かいお茶を女性に差し出した。
『熱いから、気を付けて………』
そんな言葉を掛けながら男性は女性の状態を伺っていた。肌の色も昨日よりは良い、回復は順調の様だ。女性がお茶を一口飲むと湯呑みをテーブルに置き男性と視線を合わせると少しずつ話出した。
『あ、あの………この度は助けて頂いたのに、ま、まだ、お礼すら言ってなかったので………あ、有難うございます!』
少し照れた様な仕草だった。恐縮しているのたろうし、改まった物言いに男性もまた改まって、まるで面接を受ける様に背筋をピンと伸ばしてしまった。
『いや、気にする事はないよ。それより体調の方はどうだい?』
男性は至って柔らかい物腰で尋ねた。その言葉使いに優しさがあるのを理解した女性は先程より、ゆっくり柔らかい口調で答えた。
『あ、はい、お陰様で何とか………ただ、まだ思う様に力が入らなくて………』
女性は自分の手を開いたり閉じたりしながら確認していた。まだ無理はさせられないと判断すると、男性は女性に尋ねた。
『お腹空いてない?』
女性は少し恥ずかしそうに頷く、その仕草を確認して男性は立ち上がると台所のコンロに鍋を置き火をつけた。
『直ぐ用意するから………』
そう言うと、男性は黙々と女性の為に食事の準備を行った。男性が準備をしている間、女性は隣に座って尻尾を振っているパックの頭を撫でながら時折男性の後ろ姿を見ていた。手際よく準備を整え、女性の前にお粥や干物の魚、味噌汁、漬け物が並べられる。
『さぁ、どうぞ』
男性の言葉に少し戸惑いながらも、食事を口に運び食べ始めた。その様子を男性は微笑ましく眺めながら、自身の夕飯の準備を始めた。女性は箸を止めふと疑問に思った事を男性に尋ねた。
『………あ、あの………御手洗いでも驚いたんですが………此処ってまだ水道が使えるんですね………』
男性は女性の疑問に答えた。
『あぁ………水道水は湧水を引いてるし、トイレとかは沢の水引いてるからね………市街地は水道も使えないだろうし、今までどうやってたの?』
『雨水をトイレや洗濯物を洗うのに使用して………貯水タンクの水は調理用や飲料に使ったりです………ある程度ミネラルウォーターを調達したりと………』
他愛ない会話ではあるが、男性には久々に人間同士の会話が出来た事が嬉しかった。今までは独り言かパックとの一方的な会話のみだったが、まだ名も知らぬ生存者と、会話出来る事に新鮮味を覚えていた。女性が食事を終えると男性は水とビタミン剤を女性に差し出した後片付けを始めた。
女性は背を向けて食器を洗う男性に更に尋ねた。
『ずっと、此処に一人で居たんですか?………』
女性の言葉に男性の食器を洗う手が一瞬止まる。何かを思い出しているかの様に暫しの沈黙が流れた後、男性は答えた。
『一人じゃないよ………ずっとパックと一緒だったしね………』
他にも何かを語ろうとした男性ではあったが、其処で語るのを辞めた。女性も先程の沈黙で、これ以上聞いてはいけないと察し男性への質問を辞めた。