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星師  作者: 小糸
18/53

アストリア

 


 そしてアンナさんは語り始めた。

 長いながい彼女の物語を。


『どこから話そうかしら。そうね──まず。

 あたし、ルカが大好きなのよ。

 もちろんヘンな意味じゃないわよ。きょうだいとして、家族として。

 あたしたちは男女の双子としては多分、規格外の仲の良さだったと思うわ。

 って言っても、仲良しになったのはつい最近だったんだけどさ。

 中学生くらいまでは死ぬほど仲が悪かったの。お互い憎み合ってたぐらいで。

 どうしてかって?

 だって、あたしたち双子でしょ。双子って、いつも周りからワンセットで扱われるのよ。

 双子だから一緒にしましょう、同じ服を着せましょうって。ふざけんなって感じよね。

 何よりあたし達、半星だったし。

 ──あ、言い忘れてたけど、うちって歴代の星師の家系なのよ。

 外国では星師のことアストリアっていうのよ。知ってるでしょ?

 え、知らない? ……蒼路って、面白い奴ね。

 とにかくね、うちはグランパもグランマもパパもママも、みいんなアストリア。

 だもんで、あたしとルカが生まれた時は相当がっかりしたみたい。

 だって、よりによって半星よ? 

 半分の力しか持たない異端児が二人もじゃあ、そりゃ一族のお荷物よね。いっそ星を持たないで生まれたほうがどれほど楽かというものだわ。

 でもあたしたちは生まれてしまった。半星を分かち合う双子として。

 でもどうにかしてあたし達をアストリアにする方法はないか──親はこう考えたのよ。だって、アストリアしか生みだしてこなかった家だもの。他のなにか、パン屋さんとかさ、スチュワーデスとかにしようなんて思いもよらないわけ。

 でも半分の力しか持たないのでは到底戦えないでしょう?

 すぐに死んでしまうのがおちだわ。

 親は始めは諦めようとした、って言ってた。

 でもね、まずいことに、あたしとルカは、半星としてはかなり強い力の持ち主だった。それこそ弱いアストリアと同じくらいには、二人とも力を備えていた。

 だから二人で一緒に戦えばいい──親はこう判断したのよ。

 ……そしてあたし達は双子のアストリアになった。

 世間様からは受けが良かったわ。珍しかったんでしょうね。

 けっこう、有名なのよ。あちらでは。

 あたしたち途中で解散しちゃったし、日本にはほとんど帰って来なかったから、こちらでは全く知られてないと思うけど。

 そう、解散、したのよね。中学を卒業と同時に。

 もういやだって言いだしたの。ルカが先に。

 あたしはね、嫌い嫌いって言ってても、心のどこかではルカをやっぱり大好きだったから、言わなかったけど、向こうに嫌だって言われたらカチンとくるじゃない?

 大げんかしたの。

 あたしはアストリアの仕事を続けたかった。誇りを持っていたからね。

 誰かの力になれることが嬉しかったし、笑ってくれると自分の存在を認めてもらえるような気がして、ほっとしたの。自己満足だけれど。

 けどルカはまじめだったし、星以外にやりたいことがたくさんあった。

 というよりも、星を憎んでいたのね。

 あの子、チェロを弾くの。知ってるでしょ?

 とても良い音を出すのよ。

 ……チェリストになりたいんだと思う。本人はけしてそう言わないけれど。

 だからルカにとっては、星なんて邪魔な烙印でしかないのよ。

 とにかく、ある時から彼は、もう絶対にアストリアはやらない! の一点張りを始めたわ。

 で、あたしと絶交して。

 あたしはひとりでアストリアをやり始めた。

 はじめはうまく行っていたのよ。

 あたし、言ったように結構強かったし。

 なにより空間支配能力を持っていた。

 わかるでしょ。日本で言う、空間師の力を備えていたの。

 半星なのにアストリアができたのも、この力を持っていたからって所が大きいでしょうね。

 ご存じの通り、空間師の絶対数はとても少ない。だからいくら半星の双子でも、あたしたちは重宝されたの。

 あ、勿論ルカも空間師だったわよ。

 はじめてあんたと姫君に会った時、結界張って威嚇したでしょ?

 あれ、あたしとルカが張った結界だったの。

 ……で、どこまで話したっけ?

 ああ、そうそう。ルカと別れてあたしは一人でアストリアをやり始めた。

 はじめは上手く行ってた。ルカがいなくても。

 でも一年ぐらいたって──あたしはその頃、イギリスのハイスクールに通い始めていたんだけど──なんか、身体がおかしくなったのよね。

 こう、きしむっていうか。

 星を使うと、身体じゅうが痛いの。

 病院に行ったけど異常はないって言われたから、気のせいかなって思って、そのままアストリアは続けたけど。

 お決まりの展開が待ってたわ。

 いっこうに、身体は良くなる気配がないの。

 むしろ、酷くなってくるの。

 身体のきしみというか、なんだろう……肉体の内側に、なにかが住んでいるような妙な感覚がしはじめて。

 それが星を使うと暴れて、もー、本当に苦しいのよ。いっそ殺してくれって言う位。

 あたし、段々、悶絶するようになってさ。

 歩けないくらいになっちゃって。

 戦闘を外されて、アストリアの治療師に身体を見てもらったの。

 ──そうしたら。

 信じられないことだけれど、体内に星が根を張っている、って診断が下された。

 星が根を張るって聞いたことある?

 ……あるんだ? そう。じゃあ、深くは説明しないわ。

 とにかくあれってさ、星の持ち主が星の力に負けた時に起きる、一種の拒否反応でしょう。

 蒼路も知ってると思うけど、弱った星師や、星師としての務めを放棄したり、間違った行動をした星師には必ずこの定めが待っている。

 星師は星に殺される可能性があるの。

 まるで、神様が、もうお前は要らないから死ねって言ってるみたいな。

 ……あたしはショックだった。だってそうでしょ?

 半星で生まれたのはあたしの責任じゃない。そう決めたのは神様よ。

 なのに、好きでアストリアをやってるあたしに、星の根を張らせたのよ。

 でもまあ、根を張った星に勝てた星師はいない。

 あたしはどんどん衰弱していった。

 で、ルカがさ。

 久しぶりに日本からイギリスにもどって来て、あたしの病状を知ったわけよ。

 ……その時、信じられない事にあいつ、泣いたの。

 星の運命に対して泣いたんじゃないわ。星が憎いから泣いたわけじゃなかった。

 あたしに対して、ごめんって言って。

 そう、謝罪の意味で大泣きしたのよ。

 何も謝ることなんてないのにね。そう思うでしょ?

 で、あたし達は晴れて仲良しの双子に戻ったのだけれど──病状は元に戻りはしない。

 ルカはあたしの傍についててくれた。ずっとね。

 信じられないことにアストリアの仕事に戻ってくれさえした。

 罪滅ぼしのつもりだったみたいで、見ていられなかったけど。

 あいつはね、優しい子なのよ。

 誰よりもほんとうは優しいの。

 血を見るのが嫌いだし、誰かが傷つくのも嫌い。

 皆に幸せでいて欲しいと思っている子なの、本当は。

 だからアストリアの仕事が嫌いなんだと思うわ。

 なのに無理して復帰してさ。どんどんやつれていって。

 このままじゃ二人とも死んじゃうって思って、あたし、言ったのよ。

 無理しなくていいわよって。

 あんたの星はあたしが引き受けるから、あんたはやりたいことをやんなよって。

 あたしは恨んでなんかいないし、憎んでもいないから。誰も。

 そう言ったの。

 それで、死んだの。

 

 ……でもね。やっぱりルカが心配でさ。

 気が付いたら彼に魂がくっついちゃってて。

 離れられないのよ。

 ルカはずっと泣いてた。あたしが死んで。

 迷子になったみたいな顔をして……あたし、そこで気付いたのよね。

 ルカはずっとあたしを必要としてくれてたんだって。

 なのにあたしはそんなルカを捨てて、ひとりでアストリアをやろうとして、それで勝手に死んじゃったんだって。

 すごく身勝手な妹だったのよ。

 だから謝りたかったの。

 でもね、それを言う前に──ルカに魂が憑依してしまった。

 それからあとは自分の自由も利かないし、かといって祓ってくれるよう頼んでもルカは受け付けてくれないし、あまつさえ暴走しはじめちゃったし。現在に至る。

 あたしはこうやって僅かに自由がきく時間を見計らって、キヨ様に助けを求めに行った。

 ……それで、後はあんた達の知る通りよ』

 

 

 


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