友達とかでもいいけどさ。
聢、いい加減起きてきなさい!!なんて田舎のお袋のような起こし方をする母親
寝癖で髪の毛が上手くまとまらずにイラついている妹
出張で家を空けている父親
いつもの朝だ。
ふぅぅううんーー
と、いつもより長い伸びをしてみる。
まぁ、この行為をしてもいつもの朝となんら変わらないのだけれど。
結局、いつもと同じようにまた月曜かよ、と思う。
ただ違うのは、いつも一緒に登下校していた霞に会いたくないこと。
いつもの電車よりも1本(と言っても8分)早くしようと思ってること。
少しだけど、先週の月曜と今週の月曜は違う。
リビングへの階段を何でもなかったように軽快に駆けていく。
おはよ、と語尾の短い挨拶をしたら、今日日直だから早く行かなくちゃ。なんて在り来たりな嘘をついて朝食を取らずに家を出る。
母サンからしたら、今まで1度も無かったのに?とかなんとか疑問に思うだろうけど…、そしたらまた新しい言い訳を考える。
卒業したら、電車の時間だけ気にして乗れるようになるのだから。
「行ってきま…」
目の前の光景にさっきまでの笑顔が凍りつき、言葉が喉で詰まってしまった。
「朝から元気だな、おい」勢いよく閉めたはずの扉は、いつまでたっても閉まり終えた音しなくてまるで時間がとてもゆっくり進んでいるんじゃないか?という気にさせた。
「ガッコ、行こーな」
いつもの霞は、
いつもの姿で、
いつもの笑顔で、
いつものように微笑んだ。
優しい雰囲気は、何一つ変わってない。
「何、俺見ていきなり雰囲気変わったな。」
「な……にが?」
「あんなに元気だったのに」
こんなバレバレな態度を取っておいて何だけど、少し微笑んで細くなった霞の目が、俺を解りきったような目をしていたのが急に恥ずかしくなって、
「どうせ、俺とのことが申し訳なくなって1本早い電車で行こうとしたんだろ?」
「何で……、」
何で……
何でこいつはいつもいつも……っ
いつもいつもそんな目で見んだよ……っ
何で、そんなこといちいち……
「わかんだよっ!!なんか、ムカツクッッ」
「分かるよ、聢の事なら何でも分かる」
この時、
嬉しかったのも事実で。
「分かるわけねぇよ」
「分かるっての」
何でもない会話が出来たのが、
楽しかったのも事実で。
「てか、あんなことで関係崩れたりしない。」
あんなことという卑下したようなひとくくりに纏まられるのが、
悲しかったのも事実で。
「何でだよ……」
「俺ら、ずっと友達じゃん」
初めて意識した、霞は友達なんだ。
当たり前なのに……
俺の中の何かが反応して、心臓のあたりが妙に痛い。
息苦しくて……、
目まぐるしい……、
「友達……」
「……そ、だろ?」
「……ぁ、ああ。」
肯定するのにも、自分の中のもう1人が背中を押さないと言葉が上手く出てこない。
「拒否られたら、どーしようかと思った。」
「なわけ、ねぇよ」
『友達じゃん』
初めてちゃんと意識した言葉。
『ずっと友達じゃん』
当たり前の事なのは自分も霞も、周りにいる誰でも分かってはいる。
ずっと友達……、
正体が何だか分からない心臓のずっと奥にあるものがギュッと掴まれて、締め付けられる。
ギュウギュウでもギシギシでもない音を立てて俺の中へと侵食していく。
ずっと友達……、
その言葉に少し……いや、結構傷ついたもの事実だ。