波乱、あるいは協力?
「突然ごめんなさい」
「あ、いや……」
玄関の前で話すつもりだったのは、通りすがりの近所の人の冷やかしが気恥ずかしくてやめた。
ここ一応、俺の部屋
折り畳み式のテーブルの上には、ポテチの袋が散乱しててクローゼットに入りきらなかった服が床に散らばってベッドの上はマンガの山。
さっきまで握っていたペットボトルをテーブルに置くと、周りに水溜まりをつくる。
部屋中に効く暖房のせいで水滴が、水滴に重なり重さに耐えられずに流れ落ちていく。
一言で言うと、男の部屋
一応……男
汚い部屋だけど上がって、なんてありきたりな台詞を吐いてベッドとテーブルの少ししかない隙間に体育座りのように腰を下ろす。
誰か自分以外の人が部屋に来ると、ここは自分の部屋なのに何故か落ち着かない。
さっきまで睡眠といて用途していたためか、TVも点いてなく静かだ。
部屋にいる2人も静か。
沈黙に耐えられなくて、当たり障りのない話題を振った。
「あぁー、隣のクラス……だっけ?」
「はい。よく知ってますね。」
「女子の事は、何でも知ってるよ♪」
「そーなんですか。」
自分なりには、少しこの場を和ませられたらと思って、おどけてみたつもりだったけど……
結構な胸への突き刺さり
「………………」
「……去年は2組でしたよね、七瀬くん」
「ほぇ?」
我ながらアホくさい返事だった。
それを聞いた瞳ちゃんが、初めはほんの少し目を見開いて次にクスクスと笑いだした。
少し、いや結構恥ずかしかったけどさっきとは全然違う反応を見せてくれたから……よしとしよう。
「よく知ってんね。」
「男の子の事は、何でも知ってますから♪」
「………………」
「……冗談ですよ?」
……冗談も言えるんだ。
「……えと、瞳ちゃんは何組だったの?」
「3組です。」
「あ、霞と同じ」
「………………はい。」
やばっ!!
口から言葉が出てから気づいた。
……もう既に手遅れだったけど。
お互い面と向かっているけど、目を合わせられないでいた。
それを終わりにしたのは、彼女だった。
彼女のカミングアウトと一緒に。
「いつからだったんでしょうか……もうとっくに好きだったんです。」
「え?」
「さっきの……、渡仲くんの事好きになったの去年なんです。渡仲くんは大人っぽいのに友達多くて、頭もいいし、勉強も出来て1年間学級委員でしたし、皆に頼りにされて凄いなって。」
「凄い?」
「はい。私とは違って、1度しか話したことはないんですけど」
「1回!?」
思わず驚いてしまった。
いや、これが普通の反応だろうな。
「学級委員が、クラス皆にプリントを配っていて……課題をやっていた私にちゃんと斎梨って呼んで手渡ししてくれて」
奇跡みたいだ。
彼女は、そう感じた。
「あぁ、私も渡仲くんの人生の中にいるんだぁって……」
そう語る彼女の目には、嘘なんてない。
憧れてとか、尊敬とかじゃない……
『霞が好き』
好き、好き、好き……
ただ、それだけしか写っていない。
「俺なんかに、なんか出来る事なんてあるのかなぁ?」
俺が、霞としてしまったことは消えない。
俺が忘れてしまっても
霞が忘れてしまっても
その事実は、決して消えたりなんかしない。
「見てるだけでいいんです。けど、誕生日とか……小さな事だけお祝いさせてもらえたらって」
「誕生日……?」
そういえば、今年はまだ祝ってなかった。
もう祝えるかどうかも曖昧な関係になっちゃったけどな。
たしか……、
「…………明後日だ」
ポツリと呟いたにも関わらず、瞳ちゃんがしっかりと聞き取っていたことの方がビックリした。
「明後日……」
「あ、ごめんね?明後日じゃプレゼントなんて用意出来ないよね……」
……役立たず
「あの……着いてきてくれませんか?」
え……
「今から、プレゼント買いに」
「え?」
もうすぐ卒業式。
外は冬なのか春なのか、手袋はいるのかマフラーはいるのか、厚着がいいのか薄着がいいのか
全部が曖昧な季節なのに、俺のすぐ目の前には確かに春が近づいていた。