ただ、傍にいればいい。
キスの経緯が明らかに。
て、ほどのものじゃないですが……
先に言い出したのは、俺だった。
今まで色んな彼女と付き合って一週間……いや、5日間もったことなんてなかった。
その日を迎える前に必ずフラれてしまう……
なんたる低堕落
それと同時に、渡仲霞<トナカ カスミ>彼にクッションになってもらう日々が続く。
もうフラれる事には、馴れてしまった。
けど、胸の痛みには馴れることが出来ない。
クッションになってもらってる間、霞は何も言わない。
ただただ、クッションになる。
慰めてくれるわけでも、
宥めるわけでもない。
ただ、黙ってそこにいてくれる。
それが、妙に心地いい。
それが壊れてしまったのは、夕暮れの今日……
「泣くな……、聢<タシロ>」
「うるせー、グス……女にフラれたんだから……グス、泣くだろー、グス……がー…」
STの後、それまで強がって作っていた笑顔が崩れた。
霞が、放課後一緒に数学の課題をやろうと誘ってくれたから少しは気が紛れるのかと思ったけど……
ダメだった。
やっぱり傷は深い。
優しくされればされるほど、涙が込み上げる。
「ここ、教室」
「知ってんだよー…」
「だから、泣き止め」
そう言って、霞の左膝と右膝の間に腰をおろす。
「うるせー…、クッションだろー?大人しくしてろよぉお……」
霞の両膝にすっぽりと収まってしまう自分の体の小ささにすらも、悔しくなって涙が溢れる。
「ガキかよ……」
「うっせー…、彼女のひとりも出来ないお前に、グス……なんか、言われ……グス、たくないんだよー…」
いつもならすぐに“聢みたいに何回もフラれたくないからな”と毒づくのに……
「………俺の事なんて、どーだっていいだろ」
今日は、返答が違った。
少し気になったけど、それはそれで素直じゃない返答だったから霞に対立して、乱暴になる。
「うっせぇえー…」
「……はいはい」
宥められてから10分……だと思っていた時間は、30分以上経っていた。
せっかく誘ってくれたのに課題には、一切手がつけられなくなりそうだ。
「霞ぃぃ…?」
「何、もういいの?」
そう言って頭を撫でられる。
本当なら、せっかく誘ってくれたのに課題進められなくてゴメン。と素直に謝るつもりでいたのに……
「………………」
「どうした?」
うまく言葉が出てこなくて……
普通なら、とても考えられない。
ましてや、男のコイツに……
「寂しくなった……」
「は?」
甘えてしまうなんて
頭に触れていた霞の手が急に離れたから……と、頭の中で霞に全て責任を押し付けてみる。
そうだよ……、霞が悪いんだ。
だから、こんな意味の分からないことを言ってしまったんだ。
「俺、今寂しいよ……」
「だから、新しい彼女探すんだろ?さっき散々言ってたじゃんか」
突き放された言い方になんか、急に……
そう、壁を感じたんだ。
そしたら、俺………
「今!!」
「は?」
また、ワケわかんない方向に話を進めて……
「今、寂しいんだってば」
今まで散々使ってきた上目使いでオトす。
男の霞相手に……
というか、意中ではない相手に『オトす』という表現が合っているのかは些か確かじゃないけど……
「そんな目で言われても……、俺に女は見繕えないからな?」
何をむきになっているのか……
何をこんなにイラついているのか……
「……がう」
「え?何て?」
さっきまでの涙と鼻水で声がうまく出ない。
ただ、何を思ってたのか。
「霞ぃー?」
「聢?何か変じゃね?」
この時の霞が、他の女……いや、霞は女じゃないんだけど何処の女よりも色っぽく魅せた。
一言で言えば、正真正銘男のコイツに見とれてしまったんだ。
「………………」
「聢……?」
今思えば、そう……
この時の俺の発言が2人に火をつけたのかもしれない。
静かに霞の肩に手を置く。
少し伸びてきた髪の毛が、甲に当たったり当たらなかったりするのがくすぐったい。
「キス、て男でも同じなのかなぁ……」
予想以上に色っぽい。
……自分で言ってしまうのもなんだけど。
「聢、やめろって!!」
こっちの反応も予想外。
俺が想像してた以上に頬を赤らめていたし、
どこか可愛いというイメージを過らせた。
はらわれた手を再び霞の肩に寄せる。
「お願い、今だけ俺のもんになってよ……」
「聢……」
今の俺は、こんなにも……
「霞……」
「けんな…よ」
ふざけんなよ、と言った気がした。
ただ、霞の声がさっきの俺よりも掠れた声だったから正確には、聞き取れなかった。
「え?」
「すんだろ?」
両膝に挟まれていた身体は、いとも簡単に霞の膝の上に乗せられていた。
「あ……あぁ、うん」
「前の女だと思ってろよ」
……この体勢は俺のが女の位置なんじゃないかと思ったけど、欲を満たす為にはそんな事はどーでも良かった。
「……分かった」
たった1度の浅いキス……
何か、大切なことがあったわけじゃない。
このことで、
2人の関係が崩れたわけじゃない。
俺が彼女を作らなくなったわけじゃない。
1週間も経たない内に振られてしまうのも……
霞が彼女を作らないのも……
相変わらずだった。
何1つ変わらない。
言ってしまえば……そう
若気の至りだ。