表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十五歳、まだ名前を呼べなかった頃 〜メイリーン戦記・ララ編〜  作者: 水戸直樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

終話 名前を呼ぶ日

「娘の目が覚めない。高名な神官も医者も匙を投げた」


「まだ六歳でしょう。七日間、ゆっくりマナを注ぎ込めば――きっと」


「すまんな。聖女の力は、隠してきただろうに」


「いいのよ。こういうとき来られるように、秘密にしてるだけなんだから」


 ココアベージュの髪をかきあげて、少女は微笑んだ。


◇◇◇


「お姉ちゃん、だあれ?なんでララのベッドにいるの?」


「ふふ、あなたの治癒に呼ばれたの。おはよう、ララ」


 幼いララは、瞬きを繰り返す。


「……お姉ちゃん、きれい」


「ありがとう」


 少女は笑った。


◇◇◇


「ララ、わたくし、お忍びで来ているの」


 二人で、絵本を広げている。


「お姉ちゃん、『おしのび』ってなあに?」


 少女が、にこりと笑う。


「秘密ってことよ。誰にもね。だから、いつか、あなたが禁図書館に来たら」


 指先が、額に触れる。


「その時に名前、教えるね」


◇◇◇


「帰らないで。これからも、ずっと、ララと遊んで!」


 幼い手が、必死に袖を掴む。


 少女はほんのわずか困った顔をして、それから優しく撫でた。


「いつか、禁図書館においで」


「え?」


「物語が、尽きることなく眠っている場所よ」


 ララの瞳が輝いた。


「行く!おとなになったら、ぜったい、行く!」


◇◇◇


 ――あ……夢。


 まぶたが重く持ち上がる。


 最初に見えたのは、柔らかな光だった。


 すぐ傍に、伏せる影。


 静かな寝息。


 ララの手が、強く握られている。


 ココアベージュの髪が、頬にかかっていた。


(……きれい)


 胸の奥が、かすかに震える。


(……あ、色)


 記憶が、ゆっくり繋がる。


「……お姉ちゃん」


 声が、かすれる。


「……あのときも……」


 指先が、ぴくりと動いた。


 まぶたが開く。


「……ふふ」


 柔らかく笑う。


「やっと思い出した?」


 少しだけ、掠れた声。


「おはよう、ララ」


◇◇◇


 禁図書館のラウンジには、穏やかな午後の光が差し込んでいる。


「おやつにしましょう。お腹すいたわ」


 テーブルには、色とりどりの果物が山のように盛られていた。


「うわあ、フルーツいっぱい……!」


「陛下がね、今回の褒美にたくさんくださったの」


 話しながらも、メイリーンは葡萄をつまむ。


「すごい……こんなにいただけるなんて」


「ララも、ご褒美をたくさんもらえるわ。起きたら、希望を聞いておくように言われているもの」


「え……希望って……思いつきません」


「何もなければ、お金か長期休暇がおすすめだけど……」


 少し考え込み、ふと思い出したように続ける。


「でも、ララの活躍なら、お金と休暇をもらっても、さらに何かつけてくださりそうね」


 ララも、葡萄を一粒つまんだ。


 甘さが、ゆっくり広がる。


「……なんでも、いいんでしょうか」


「いいわよ。わたくしだって、ララにご褒美あげたいもの」


 その瞬間。


 ララの声が弾んだ。


「メイリーン様からいただいても、いいんですか?」


「もちろん」


 一拍。


 ララは俯く。


 両手をぎゅっと握る。


「あっ、あの!」


「なあに?」


 メイリーンが、穏やかに首を傾げる。


 ララは顔を上げた。


 ほんの少しだけ、頬を赤くして。


「こ、これから――」


 息を吸う。


 勇気を、押し出すように。


「これから『メイ様』って、お呼びしてもいいですか?」


 メイリーンが、わずかに息を止め――


 くすっと笑って――


 天窓から、光が降りている。


 二人のあいだで、午後がゆっくりほどけていった。


挿絵(By みてみん)

◇◇◇


物語は、続く。


※本作と同じ世界を舞台にした物語(単体でも読めます)


・メイリーン視点の前日譚

『欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す ~メイリーン戦記~』(完結)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ