SNSフォロワー10万達成
「フォロワー十万人、おめでとうございます!」
スタッフの声が響く。
控室の空気が一瞬だけ明るくなった。
NEON♡RAYのメンバーが拍手し、
テーブルにはケーキと風船が並んでいる。
天沢灯は笑顔でロウソクを吹き消した。
「みんな、本当にありがとう!」
フラッシュ。スマホの音。
その一瞬を記録する無数のレンズ。
——けれど、久城蓮はシャッターを押せなかった。
(……この笑顔、なんだか違う。)
あの日のライブと同じ笑顔。
けれどどこか、形だけの光。
その奥に、薄い影が差しているように見えた。
「灯ちゃん、コメント読んでー!」
結衣がスマホを差し出す。
画面にはファンの祝福が流れていた。
『女神!』『10万人おめでとう!』『これからもずっとついてく!』
『俺だけは信じてくれるよね?』
『もう誰にも渡さない。』
灯の指が一瞬止まる。
(……また、この人。)
坂井ユウト。
毎日メッセージを送り、コメントを残す“1位ファン”。
彼の名前を見つけるたびに、
胸の奥が冷たくなる。
「灯ちゃん、大丈夫?」璃音が声をかける。
「え、うん……ちょっと目が疲れただけ。」
「休んでいいよ。明日から地方撮影でしょ?」
璃音の言葉に、灯は微笑んだ。
けれど、その笑顔を見つめる久城蓮の心はざわついていた。
(璃音さん……どこか“知ってる顔”をしてる。)
***
夜。
蓮は一人、編集ルームに残っていた。
今日の撮影データを整理していると、
フォルダの中に“見覚えのない動画ファイル”がある。
『from_Akari_private.mp4』
(……灯のプライベート映像?)
再生ボタンを押す。
画面には、部屋の中で鏡に向かって話す灯。
疲れた顔。メイクを落とした素の姿。
「十万人……うれしいけど、こわい。」
「数字が増えるたびに、誰かの目が増えていく。」
「笑わなきゃ、愛されない。
でも、本当の私を見られたら、きっと……嫌われる。」
音声が少し震えていた。
蓮は拳を握る。
(……こんなの、誰がアップした?)
画面の隅に、投稿元のタグが表示されていた。
“uploaded by: yuki_r_official”
——雪村璃音の公式アカウント。
「……まさか。」
彼が立ち上がると、スマホが震えた。
通知はSNSのトレンド。
『#天沢灯 本性』
画面には、
さっきの“涙の独白動画”が拡散されていた。
再生回数、十万回突破。
コメント欄は嵐のように荒れていく。
『演技?』『被害者ぶるな』『アイドルやめろ』
『守ってやる、灯ちゃん』『俺がそばにいる』
坂井ユウトのアカウントが、真っ先にコメントを残していた。
『誰も信じるな。俺だけを見て。』
***
スタジオの廊下。
蓮は璃音を追いかけた。
「璃音さん! どういうことですか!」
「何の話?」
「あなたのアカウントから、灯さんの動画が——!」
璃音は立ち止まり、振り返る。
表情は静かで、冷たい。
「……知らないわ。
でも、もしそうなら——
“誰か”が私の名前を使ったんでしょうね。」
「誰かって……誰がそんなことを。」
「さあ、あなたは知ってるんじゃない?」
その目が、一瞬だけ彼を射抜いた。
蓮は息を飲む。
(この人は……何を隠してる?)
璃音は背を向け、
「センターの光は眩しすぎるの。
だから、影ができるのよ。」
そう呟いて歩き去った。
廊下の奥、
蓮のスマホが震える。
画面には、灯からの新しいメッセージ。
『——ねえ、蓮くん。
私、誰かに見られてる気がする。』




