停電5秒
——白い光。
——叫び声。
——無音。
それは、ほんの五秒間の出来事だった。
だが、その五秒が、世界を変えた。
***
渋谷ライブ会場。
翌朝、ニュースヘリが上空を旋回していた。
『人気アイドル・天沢灯さん、ライブ中に死亡。
ファンによる殺傷事件か。』
リポーターの声が、
まるで他人事のように流れていく。
現場はまだ封鎖中。
警察、報道、救急。
“光”の余熱がまだ消えない。
久城蓮は、
救護テントの中で包帯を巻かれていた。
腕に切り傷。
顔には血の跡。
警察官:「あなたが現場のカメラマンですね?」
「はい……」
「映像データ、確認させてください。」
蓮は無言で頷き、
カメラを差し出した。
だが、その手がわずかに震える。
(——あの五秒の間に、
何が起きた?)
彼は覚えている。
光が落ち、音が消えた瞬間。
坂井優斗がナイフを振り上げた。
灯が目を見開いた。
——だが、
刃が届く前に、
“別の何か”が光った。
閃光。
そして、電源が切れた。
「停電時間は五秒間でした。」
警察の記録が読み上げられる。
「その間、監視カメラも照明も、すべて停止。
再起動後、彼女は倒れていた。」
蓮は拳を握りしめた。
「……その五秒、映像に残ってるんですか?」
「残っていません。全て消えています。」
「全部、ですか?」
「はい。不自然なほど綺麗に。」
警察官が言い残して去ると、
蓮はゆっくりとカメラのSDカードを取り出した。
一枚、
別フォルダに自動保存されたデータがある。
——record_akari_live.mov
彼の心臓が跳ねた。
パソコンに差し込み、再生。
画面には、
照明が落ちる直前のステージ。
灯がこちらを見ている。
「久城くん——
光を、忘れないで。」
——その瞬間、映像が乱れた。
ノイズの中に、一瞬だけ別の映像が挟まる。
舞台の下。
黒いコートの人物が、
手に持つタブレットを操作していた。
その画面には、
【照明制御:MANUAL/17 FRAME LOCK】の文字。
(……桐谷……?)
彼の目が怒りに震える。
再生を止め、
再び再生する。
今度は、
ノイズの奥から女性の声がかすかに聞こえた。
「光が消えた……今。」
璃音の声だった。
(あの瞬間、
合図を出したのは——)
「桐谷でも、坂井でもない……
璃音……あなたが?」
頭の中で何かが崩れる音がした。
***
午後、
ニューススタジオでは“事件再現CG”が流されていた。
『照明故障によりステージが暗転。
その隙にファンが侵入し、被害者を刺したと見られています。』
だが蓮は知っていた。
照明は故障していない。
意図的に落とされたのだ。
そして、あの五秒間——
誰かが“光を消すボタン”を押していた。
「……17フレーム。」
蓮は呟いた。
テーブルの上に置かれたハードディスクを開く。
フォルダの一番下に、
ひとつの新しいファイルが自動生成されていた。
『Frame17_error_log.txt』
開くと、
英数字の羅列の中に、
ただ一行だけ日本語が混ざっていた。
「光の中で死ぬのは、誰?」
その文字の下に、
小さく署名のような文字。
“Y.R.”
蓮は息を呑んだ。
(——雪村璃音。)
視界が滲む。
怒りと恐怖と、
どうしようもない喪失感。
「灯……
俺が、必ず全部暴く。」
カメラを握りしめ、
彼は立ち上がった。
背後のテレビでは、
事件を“美しく切り取った”映像が流れていた。
涙のBGM。
悲劇の天使。
視聴率速報。
誰かが笑っていた。
——桐谷プロデューサーだった。
画面越しに、
まるで視聴者へ語りかけるように言った。
「光は永遠です。
彼女は、私たちの中に生き続けます。」
久城蓮は静かに呟いた。
「……光は死んだ。
でも、影はまだ、生きてる。」
そして、
再びシャッターを押した。
——カシャ。
黒いレンズの中で、
彼の瞳が静かに燃えていた。




