渋谷ライブ生配信
——202X年、11月3日。
渋谷スクランブル交差点。
無数の光が夜空を照らす。
巨大スクリーンには、笑顔の彼女が映っていた。
『NEON♡RAY 渋谷ライブ “Last Refrain”
全世界同時生配信、スタート!』
歓声。
シャッター音。
スマホの画面の海。
そして、その中心で——
天沢灯は立っていた。
「——みんな、来てくれてありがとう!」
完璧な笑顔。
震える手をマイクに添え、
ライトの海の中で一歩、前に出た。
観客席の隅、
久城蓮はカメラを構えていた。
息を詰め、
ただその光を追う。
(この瞬間だけは、
誰も彼女を傷つけられない——)
***
舞台裏、照明ブース。
桐谷プロデューサーがマイクで指示を出す。
「カウント17で、照明切り替え。
ステージ中央、トラスを降ろすタイミング合わせろ。」
オペレーターが頷く。
その隣、雪村璃音がヘッドセットを握りしめていた。
『リオン、準備は?』
「……はい。」
桐谷:「17フレーム、合図を待つ。」
璃音:「……了解。」
ヘッドセットの奥、
坂井優斗の低い声が入る。
『俺の出番はいつですか?』
『灯ちゃん、今にも壊れそう。早く“救いたい”んです。』
璃音は目を閉じた。
(お願い、やめて……誰も救えない……)
桐谷の声が再び響く。
「お前が言うんだ。“光が消えた”。
それが合図だ。」
璃音の唇が震える。
***
ステージ上。
曲が終わり、歓声が渦巻く。
灯は息を整え、観客を見渡した。
「みんな、今日という日を——
絶対に、忘れないでね。」
スポットライトが彼女を包む。
照明システムのタイマーが動く。
FRAME: 15
FRAME: 16
FRAME: 17——
その瞬间、照明が一瞬だけ“落ちた”。
——暗転。
会場がざわめく。
『停電?』『演出?』『真っ暗!』
舞台裏の璃音が、
思わず口を開いた。
「……光が、消えた——」
桐谷:「よし、行け!」
坂井優斗がステージへ駆け出す。
観客の悲鳴。
スタッフの制止の声。
灯は目を細め、
暗闇の中でその人影を見た。
「……ユウトさん?」
彼の手には、
舞台小道具として使うはずのナイフが光っていた。
「俺が、君を救うよ。
もう誰にも苦しまなくていい——!」
「やめて!」
灯が後ずさる。
観客は悲鳴を上げる。
——その瞬间。
照明が再点灯した。
刹那の光が、金属の反射を照らした。
カメラを構える久城蓮の視界に、
スローモーションのようにその光景が映る。
灯の瞳が見開かれる。
ユウトの腕が震える。
ステージの光が、白く弾ける。
——刹那の無音。
誰かの悲鳴。
スタッフの叫び。
『カット! カットしろ! 配信止めろ!』
桐谷の声が裏で怒鳴る。
だが配信は止まらない。
視聴者数:230万。
コメント:止まらない。
『演出?』『血!?』『嘘でしょ!?』
『#天沢灯』『#ネオンの終焉』『#17フレーム』
久城蓮はステージに駆け寄った。
「灯! 灯!」
彼女は倒れていた。
真っ白な衣装が、
光に照らされて淡く染まっていく。
彼女の目が、わずかに開いた。
「……久城くん、
光、見えた?」
「何言ってるんだ、喋るな!」
「よかった……
やっと、ほんとの光になれた——」
その声は、
マイクを通じて世界中に流れた。
——そのまま、彼女は動かなくなった。
照明が消えた。
世界が、静止した。
***
三分钟后。
SNSのトレンド1位:
#天沢灯
#ネオンの終焉
#17フレーム
数百万の画面で、
彼女の最期の笑顔がリピートされ続けた。
その裏で、桐谷はモニターを見つめながら
静かに呟いた。
「完璧だ。」
璃音はその場に崩れ落ちた。
震える声で言った。
「あなた……人じゃない……!」
桐谷は笑う。
「俺は光を作った。
彼女は、光になった。」
久城蓮は、
血の中で灯を抱きしめ、
カメラを彼女の顔に向けた。
「——これが、本当の記録だ。」
シャッターが落ちた。
——カシャ。
世界は、
“光”を失った。




