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北の森の魔女 第3シーズン  作者: 鉄猫


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小さな冒険

「おい、小僧(キッド)。支度しろ」

 ジャガイモ畑を耕していたシュウジにボルトが声をかける。

「オレの名前はシュウジだ。キッドじゃないぜ」

「いや、おいとかおまえとかって呼ぶよりマシだろ。おまえは今日からキッドだ。というわけで、キッド。出かけるぞ」

「どこに?」

「ちょっとした冒険だ」

 シュウジはボルトの後を追い、広場へとやってきた。広場には2台のHMMWV(高機動多用途装輪車両)が停まり、それぞれが出発の準備をしている。

「自動車じゃないか! それに銃もある」

「そうだ。俺たちは"マリンコ(海兵隊)"でな? 聞いてなかったか?」

ずるい(チート)じゃん」

「俺たちは別腹なんでな」

 興味深げにHMMWVを見上げるシュウジを魔女が手招きする。シュウジは「オレ?」と自分を指さす。魔女はうなずいた。

「これを着るんだ」

 魔女はシュウジに小さく調整したプレキャリを手渡す。

「鎧か? 重いぞ」

「普通の板金鎧に比べれば十分軽いさ。そして、これが武器だ」

「なんだ? 小さい剣じゃないか」

「そりゃそうさ。そのために剣の使い方を教えたのさ」

 ラチェットがシュウジの方を見て、ニタリと笑う。

「銃がいいよ」

「それはダメさ。ずるは認めない」

 ぶーたれるシュウジを尻目に、ボルトたちが乗車する。シュウジも慌てて前の車に乗り込んだ。

「任せたよ」

 魔女の声に小屋の前に立つリベットが手を振る。

「あの怪物は連れて行かないのか?」

「今回は留守番さ」

 2台のHMMWVが出発する。森を抜け、遠くに北壁が見える道を東に向かって進んでいく。

「どこに行くんだ?」

「この先、二つほど丘を越えたとこの村さ。なんでも、野盗が近くに住み着いたそうで、その処理を依頼された」

「依頼?」

「ああ。金をもらって仕事をするのさ。それがわたしらの日常さね」

 丘を越え、牧草地を横切り、川を渡る。途中、幾度かの休憩と燃料補給を行い、翌朝に目的の村へ到着した。

 村人たちは魔女たちの到着を心待ちにしていたようだった。すぐさま村長と数人の顔役が出迎え、魔女に詳しい状況を伝えた。村の森に、数人の野盗とそれに従う人型生物が住み着いたというのである。野盗は村の家畜を襲ったり、畑から野菜を盗んだりしていると説明された。まだ人的被害は出ていないが、いつ村を襲われるのかわからない、というのが村長と顔役たちの懸念だった。

「なぁ、野盗ってなんだ?」

 シュウジは、助手席に座って大あくびをしているボルトに話しかけた。

「野盗か……職も無く、腕っぷしだけで生きてる連中だな。才気や伝手なんかがあれば、傭兵(冒険者)として暮らしていけるんだろうが、それもできない奴らだ。他人から物を盗むことしかできない」

「そういうのは国の兵士が倒すんじゃないのか?」

「王国の兵が? 笑わせるな。奴らが北壁より外に出ることは無い。しかも、素寒貧(すかんぴん)な小さな村の出来事なんぞには興味はまったくない。そこで、俺たちのような簾中の出番というわけだ」

「俺たちのようなって?」

「金をもらって人を殺す者だ」

 ボルトの眼がギラリと光る。シュウジは喉を鳴らした。

 魔女が戻ってくる。

「どうでした?」

「ああ。すぐ近くの森の中だそうだ。全員下車。徒歩で行くよ」

 銃を手に面々が降りる。ラチェットは荷台の動甲冑を起動させ、荷台から飛び降りた。

「パワードスーツじゃんか!?」

「あれはラチェットの親父さんが作ったおもちゃだ。不用意に近づくな。吹き飛ばされるぞ」

 シュウジは剣を抱えて、わかったとうなずいた。

「出発」

 ボルトを先頭に、それぞれが距離を開けた縦列を作る。ボルトを援護する位置にレンチが、その後ろに魔女とナット、最後尾にはラチェットがつき、シュウジは魔女と一緒に歩く。

「キッドも仕事しな」

「仕事って、何?」

 通り過ぎる景色をただ眺めていたシュウジが魔女に聞く。

「周囲をよく見ろ。どこから獣や怪物が出てくるかわからない。その両目を開いて、少しでも変な様子がないかを見るんだ。怪物に奇襲されたら、わたしらでも苦戦するからさ」

「わ、わかった」

 木々の間からは鳥の声や、何かわからない遠吠えのようなものも聞こえてくる。ボルトが歩を止めると皆が立ち止まり、姿勢を低くして周囲を探る。何事もなかったら、再び歩き出す。

 1刻(2時間)ほど歩いたところで大休憩をとる。円を描くように座り、ハイカロリーバーを口に運びながらも周囲に眼をやる。

「なんか知ってるのと違うな」

「何がだい?」

 魔女がシュウジの声に背を向けたまた応える。

「もっと気楽なもんだと思ってた。キャンプやトレッキングみたいな」

「こっちもあっちも命懸けだ。一人がケガしたら、その分目が無くなり、ケガ人の面倒を見る分リソースも減る」

「じゃあ……大ケガなんてしたら……?」

「心配することはないさね。海兵隊は誰も見捨てない」

 食事とブーツを脱ぐ休息を交代で行った後、再び前進する。獣道を抜け、村人が話していた洞窟へと近づく。

 陽が西に傾き、オレンジ色に周囲が包まれている。ボルトが入口へと進んでいく。罠や鳴子が無い事を確認すると、前進の合図をする。

「さて。ここからが本番さ」

 魔女の指示でボルトとレンチが銃のライトを点灯する。洞窟内が明るく照らされる。

「これもずるいじゃん」

「これでも譲歩してるさ。普段は暗視装置(ノクトヴィジョン)を使う」

「ますますずるいじゃん!」

 ボルトが振り向き、口に指を当てる。シュウジはあわてて口を閉じた。

 洞窟は思いの外広く、奥行きもそれなりにあるようだった。内部には水源もあり、長期にわたって住むには最適な場所と言えた。

 ボルトが立ち止まる。姿勢を低くし、M4を構える。

「スライムです」

 聞きなれた怪物の名前に、シュウジの顔が明るくなる。

「スライムならオレに任せてくれ! 一撃で倒してやる」

「ああ。そのまま進んでエサになってくれ。その方がこの先楽になる」

 ボルトが後ろを見ずに弟を呼ぶ。

「スライムっだろ? 雑魚だ」

「バカか。そんな剣で倒せると思うか? 剣が届く前に飲まれて終わりだ。奴らには剣の攻撃は効かん」

 シュウジの声を背中に受けながら、ボルトはナットに指示する。ナットはグレネーダーの弾薬を交換する。

「こいつには火が最も効く。まぁ、見てな」

 ボルトはナットのヘルメットを小さく叩く。ナットはサーモバリック弾を連続発射する。爆発音とともに洞窟内がぱっと明るくなった。高温に曝されたスライムが燃えているのだ。

「こいつは盗賊どもがゴミ処理に使っていたんでしょう。かなり大きい」

「警戒! 前方!」

 レンチが声をあげ、銃口を上げる。ライトに照らされた皮鎧をつけた足長が、その明るさに顔の前に腕を挙げる。たいまつやランタンで生活している者にとって、タクティカルライトの光量は陽にも匹敵するほどの明るさに感じられるのだ。

 レンチはすかさず引き金を引いた。数個の薬莢が飛び、足長は身体をねじって倒れる。

「ターゲット、ダウン」

「了解」

 ボルトがレンチの横を抜けて進む。それを援護してレンチが続く。

「この装備……どこかの兵隊崩れのようですね」

 ボルトが死体を検分し、その根拠になった証を魔女に投げ渡す。魔女はそれを受け取り、一瞥して投げ捨てた。

「あ、それは価値があるもんなんだろ? 持って帰らないのか?」

「それは『穴漁り』の仕事さ」

「あなあさり?」

「野盗や怪物狩りの後ろについていって、攻略された住処に残された金目の物を拾い集めるんだよ。腕や力が無い者は、そうやって金を稼ぐ」

「俺たちはそんなに金に困って無いからな。それに漁っている暇も無い」

「ボルト、来るよ」

 レンチが洞穴の奥から聞こえてくる足音に気づき、Mk48を構える。ボルトも振り返り、銃を構えた。

 奥からのしのしと2体のホブゴブリンが走ってくる。その後ろに数人の野盗の姿も見える。

「ラチェット!」

『任せといて』

 動甲冑が.50を構える。一瞬の間を置いて、野太い銃声が響く。シュウジは頭の上で吠える重機関銃の音に耳を塞いだ。地面にキンキンという音をたてて薬莢とリンクが落ちてくる。発射された大口径高速弾はホブゴブリンを簡単に両断し、野盗の1人を引き裂いた。

 魔女はボルトとレンチに指示を出す。それに応えて2人が走り出す。

 シュウジは魔女の後ろから恐る恐る顔を出し、周囲を見た。穴の奥に向かうライトが揺れるだけで、周りは暗い。

『あ、ごめん』

 ぱっと動甲冑の肩のライトが点く。大口径のライトは広く辺りを照らした。

「あ……もしかして、それ……」

 シュウジは目の前にあるものを指さした。人が赤い液体の中に転がっている。銃弾が抜けた穴から肉や骨、内臓が見えた。

「あ、わわあああっ」

 シュウジは腰を抜かし、ぺたんとしりもちをついた。魔女がそれを見て振り返る。

「これが現実さね。あんたは、こんな世の中にいるのさ。キッド」

 魔女はニタリと笑った。


 魔女とナット、シュウジの3人は入口までさがり、そこでボルトたちが帰ってくるのを待った。1刻ほど経つと、奥から2人と動甲冑が帰ってきた。

「全員殺ってきました」

「ご苦労」

 魔女はぽわんと煙草の煙を吐き出し、ボルトの報告に応えた。

「あとは周囲を見回ってきます。外に出た連中がいないともかぎりませんので」

 レンチがボルトに目配せする。ボルトは小さくうなずき、ラチェットとナットに合図する。3人と1機は洞窟を後にする。洞窟の前には魔女とシュウジだけが残された。

 魔女は岩に腰掛け、M14を膝に置いたまま煙草を吹かしている。辺りは夜のとばりが降り、空には無数の星と三つの衛星が浮かんでいた。星明りに照らされて、辺りは青い色に染まっている。

「やっていけそうかい?」

 不意に魔女に声をかけられ、シュウジは振り返る。

「この世界は、思っているほど楽なところじゃない。人の命なぞ、その辺の石ころみたいなもんだ。互いに食い合って今日を生きていく、そんなところだ。そんな中で、生きていく自信はあるかい?」

 シュウジは答えに詰まった。自分が思い描いていた『異世界』とは全く違う、何かぐろぐろとした粘ついた空気を感じていた。

「──まぁ、答えは決まっているだろうね。死にたくはないだろうし」

 魔女は紫煙を吐いた。煙は夜空に向かって広がっていった。


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