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北の森の魔女 第3シーズン  作者: 鉄猫


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3/14

やってきた少年

「伯爵の子息の面倒を見て欲しい、と?」

 魔女は、王国から派遣されてきた使者の言に首をかしげた。

「教育係などそっちにいくらでもいるだろう? どうしてわたしに?」

 使者は自分でも半信半疑な口調で、おずおずと申し出た。

「ご子息様はご病気でありまして」

「病気? 病気ならウチじゃなくて、教会の仕事だ」

「それがただの病気ではないのです」

「普通じゃない?」

「そうです。ご子息様は『チキュウ』からやってきたと言っておられます」

 魔女の眼が細くなる。


 その日。魔女の小屋の前に、一台の馬車と護衛の十数騎の騎兵がやってきた。魔女はテラスに出した椅子に座り、ボルトたちが銃を手に出迎える。馬車が停まり、がっしりとした体格の壮年の男と、身体の細い少年が降り立った。壮年の男は伯爵と名乗り、魔女に挨拶した。少年はつまらなさそうに辺りを見回している。魔女は伯爵を小屋の中へと導いた。

 居間のテーブルに2つのマグが置かれる。

「それで、ご子息は病気だそうで。いかなる症状で?」

「それが……少し前に流行り病にかかり、高熱が続きました。快癒はしたのですが、目覚めた直後から言動がおかしくなりました」

「ほう?」

「自分は転生しただの、ニホンのコウコウセイだとか、魔王を倒すためにやってきたなど……ステータス? スキル? ギフトだとか……意味不明の事を」

「ふむん」

「私たちは熱病でおかしくなったのだと思いました。しかし、話を何度聞いても整合性がとれています。嘘を言っているようには思えないのです。それに『チキュウ』から来たと」

「そこなんだ。『チキュウ』とは、わたしが来た世界を指す言葉だ。しかし、その地球とは数百周期前に<通路>が塞がり、行き来ができない。そこに地球から来たと言うのは……それに、ご子息はご両親から生まれているはず。今までにそのような言動は?」

「いえ、まったくありませんでした」

 魔女はコーヒーをすすり、しばし考えた。このような現象には今まで遭遇したことはない。自分が質せば、本当かどうかわかるかもしれない。

「わたしが預かろう。時間をかければ、何かわかるかもしれない」

「そう言っていただけると助かります。あの子は跡取りとなる者です。気狂いであるとなったら……」

 伯爵はそうなった場合の、跡目争いの事を憂慮し、表情を曇らせた。

「なに、整合性のある話ができるのなら問題ないだろう。何かの拍子に回復するかもしれない」

 魔女は伯爵とともに小屋を出た。伯爵は息子を呼び寄せる。

「これが、その息子です」

 黒髪の少年は伯爵を見上げ、その横に立つ魔女を見た。聡明そうな顔をしているが、どこか憎らしげでもあった。年齢は子供から少年に変わったぐらいだろう。

「なんだ、この婆さんは」

 少年は言った。その言葉にボルトが「ああぁ?」という顔をする。

「この方は北の森の魔女様だ。おまえの病気を診てもらうことになった」

「だから、病気じゃないんだってば。オレは、オレだ。転生したんだよ!」

 魔女は伯爵の方を見て、肩をすくめる。

「ところで、地球から来たと聞くが、名前は何という?」

「シュウジ。カザマ・シュウジ」

「どこの出だ?」

「ああ。日本の東京生まれだよ」

「いつ?」

「2031年生まれ。16になる」

「どうしてここに?」

「交通事故にあって……気がついたら、この世界にいた。ここはゲームの世界なんだろ?」

 少年はボルトたちを見て、話を信じろというばかりに大声をあげる。

「家は城だし、周りは中世ヨーロッパみたいなファンタジー世界だ。みんな変な服を着て、剣をぶらさげてる。それに、そこの犬っころは二本足で立ってる」

「なんだと!」

 踏み出そうとするボルトをレンチが制する。

「殺していいか?」

「今はダメ」

 ボルトとレンチのこそこそ話を横に、魔女はシュウジに近づく。

「なんだよ、婆さん」

 魔女はシュウジの顔や体をしげしげとながめると、伯爵に言った。

「伯爵。先ほどの話どおりだ。わたしが預かろう。そうだな、一周期ほど時間を見てもらおう」

「おお、それは助かります」

「時々、使者を送ってくれ。経過を報告する」

「わかりました。礼を」

「それは、また後の話だ」

 伯爵は少年の頭を撫で、それから馬車に乗りこんだ。そして車列が出発する。

「あーあ、こんな辺鄙なとこでなにすんだよ」

 シュウジは車列を見送り、あきれたように言った。

「犬っころが2匹に……婆さん。うひょぉ、かわいい女もいるじゃないか。それにこっちは黒エルフだ! もしかして、ハーレム展開のフラグ!? なあ、おまえ、オレの彼女にならないか?」

 シュウジはラチェットに声をかける。

「メム、こいつを殺してもいいか?」

 ジト目でシュウジを見るラチェットが、魔女に聞く。

「大事な客さね。しばらく預かる」

「ちっ。それならしかたない」

 ラチェットとボルトのすぐにでも殺してやる視線をまったく気にしていないのか、シュウジは勝手知ったる我が家のように小屋のドアをあけた。

「うわっ、すげぇ!」

 シュウジは今のソファに飛び込み、小屋の中を見回す。

「ノーパソに電灯……これがチートってやつか」

 ソファの上で跳ねながら、小屋の中を見渡す。

「まずは話を聞かせてもらおうかね」

 魔女はシュウジの前に座り、メモ帳を手にした。

 聴取がはじまったが、魔女以外はシュウジが何を言っているのか理解できなかった。一つわかるのは、この少年が別世界から『転生』して来た、と主張していることだった。

「転生……"リンカーネイション"という魔法がある」

 ラチェットが魔女とシュウジの会合を見ながらつぶやく。

「その魔法っていうのはどういうもんだ?」

「死んだ者の魂を、死者の国から呼び戻すもの。魂の器である肉体が形成され、記憶と経験を受け継ぐ……でも、それは同じ次元での話。別次元から来るなんて話は聞いたことが無いよ」

「あいつはメムと同じ世界の人だって言ってる。<通路>が開いたんじゃないか?」

「そうかもしれない。だけど、メムが何も言わないし、何かが来たという気配もない」

 ラチェットとボルトはシュウジの方を見た。ソファに深く腰掛け、脚を組み、不遜な態度で魔女と話すシュウジに、二人は不信感を覚えた。

 聴取の後は夕食となった。シュウジを混乱させないよう、リベットはいつもの木の上で待機させている。ダイニングのテーブルに食事が並べられ、皆が席につく。

「すげぇ、うまそう!」

 食事の前の祈りもそこそこに、シュウジは我先に料理を取り、がちゃがちゃと食器を鳴らして口に運んだ。その態度に皆の手がとまる。

「こっちの料理は塩味ばっかりで、肉はスカスカだし、パンは硬くて不味い。でもここの料理はうまいな」

 料理を褒められたナットが少し満足げな顔をする。

「夕飯が終わったら、風呂に入って寝な。今晩は客間を使うように」

「風呂もあるのか! こりゃ、城よりいいや」

 ガツガツと食べるシュウジにボルトたちはあきれ顔をする。魔女は必要なこと以外は何も言わなかった。



 夜が過ぎ、東の空が微かに明るくなった。

 客間に音もなく入る人影があった。

「よう、小僧。起きろ」

 寝ているシュウジを見下ろすのは、ボルトだった。



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