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#4 艦隊攻撃

「では、健闘を祈る」


 艦長以下、総員が敬礼する。僕とヘレーネ少尉が敬礼で応えると、風防が閉じられる。


「人型重機三番機、発進します!」


 僕はこの機械の後部座席に乗っている。結構な勢いで飛び出したにもかかわらず、まるで加速感を感じない。妙な感じだな。どちらにせよ、プロペラも翼もないのに空を飛んでいること自体が異様だ。何か特殊な仕掛けでもあるのだろう。


「ちょっと待て、もう少し低空を飛ばないと、敵の電探に引っかかるぞ」

「ああ、大丈夫です。この重機はステルス材で覆われてますから」

「す、すてるす材?」

「電波を吸収するんです。ですから、ここのレーダーでは探知できませんよ」


 もう、何でもありだな、この機体は。そんな最中、電探の画面にいくつかの光点が映し出される。


「敵の艦隊、円形陣で前進、数二十三隻、速力はおよそ時速三十五キロ!」


 つまり、敵はおよそ二十ノットで前進しつつあるということか。かなり高速な艦艇で追いかけてきたものだ。

 それにしても、敵の機動部隊にしてはちょっと少ない気がするな。普段ならば四、五十隻くらいが普通だが、少数の我々を追撃する程度ならば、これで十分と考えたのか。くそっ、腹が立ってきた。

 にしても、円の外側は駆逐艦だとして、その縁の内側にいる艦艇は七隻。しかし、この光点だけでは艦種が分からない。


「どうにかして、あの円の真ん中にいる七隻の艦種を知りたいのだが」


 発進前に搭載したレールガン用の弾は五発だけ。大急ぎで作らせたが、五発が限度だった。一方で主要艦船は七隻。できれば戦艦か空母に当てて、敵の足を止めたい。

 となれば、この機械に頼りたいところだ。おそらくは、僕の要望を満たす何かを搭載しているはずだろう。


「敵の姿を見ること、できますよ」


 やはりな。そんなことを言うだろうと思った。真っ暗な機内の目の前の映像装置に、何かが映し出される。

 ぼんやりとしているが、それは戦艦の姿だ。おそらくはスラーヴァ級の戦艦、そしてその後ろには、グローム級の空母が二隻。残りの四隻は巡洋艦と見える。


「貴様に尋ねたいのだが」

「なんでしょう、大尉殿」


 ここで僕は、ヘレーネ少尉に具体的な戦術を尋ねる。


「相手は大型の戦闘艦だぞ。どうやって沈めるんだ?」

「はい、レールガンで弾をぶち当てます」

「……たかだか三十センチ四方の鉄の塊が、あの大型艦を沈められるというのか?」

「船だったら、穴を開ければ水が入ってきて、勝手に沈むじゃないですか」

「おい待て、馬鹿か貴様は! あの手の船は区画が区切られているから、一箇所開けたぐらいでは沈むわけがない!」

「ええっ、そうなんですか!?」


 なんということだ。こいつ軍人の分際で、船の構造も知らないのか? しまったな、てっきりすさまじい策略があるものと勘違いしていた。相手はボートじゃないんだ、それほど簡単に沈むはずがない。

 と、その時ふと、僕はあることを思いつく。たしかに穴を開けただけでは沈まないが、当てる場所さえ良ければ、一撃で沈められる。


「そういえばレールガンは、正確に目標を狙い撃ちできるんだったよな」

「はい、当てられます」


 つい先ほど、六十キロ離れた十メートル程度の偵察機に当ててみせた。それだけの命中精度があるならば、敵艦の「急所」を狙うことができるかもしれない。


「空母の場合は、中央部のエレベーター、つまりこの辺りだ。その真下辺りに弾薬庫があるはずだ」

「はぁ、ということは、そこをピンポイントで狙い撃ちすれば」

「大爆発を起こし、一撃で沈没させられるかもしれない」

「あの大きな砲を持った艦はどうするんですかぁ?」

「簡単だ、主砲の脇からその下を狙う。たいていの場合、そこに砲弾と火薬が保管されているはずだからな。そこが弱点だ。だが……」

「なんでしょう?」

「そのレールガンで撃ち出した鉄の塊で、あの敵戦艦の装甲を貫けるかが問題だが」

「大丈夫でしょう。なにせ、音速の五倍ですよ、五倍。楽勝でしょう」


 自信満々に答えるが、徹甲弾というわけでもなく、内部に火薬を持たないただの鉄の塊だ。いくら高速で当てたからといって、そんなに強烈な貫通力を持つものなのか?


 ところで、この人型重機は敵艦隊より距離二十キロまで迫っている。が、敵に察知された様子はない。本当に電探に探知されない仕掛けを施されているようだ。ステルス、とかいったな。その技が我が海軍にもあれば、どれほどの戦力が無駄にならずに済んだものか。

 本作戦においては、特別攻撃隊の編成もされ、二隻だけ残っていた正規空母もおとりとして投入された。そこまで周到で多大な犠牲をはらいつつも突入した敵基地目前で、我が軍は惨敗を喫してしまった。最後の力を尽くした我が皇国海軍は、まさに壊滅の危機にある。

 偶然にも、それをくつがえせるほどの強力な兵器を得た。航空機編隊、偵察機、そして今度は大型艦が相手だ。


「それでは、攻撃準備に入ります」

「いや、待て」

「えっ、撃たないんですか?」

「このまま、敵艦隊後方に回り込む。そこから射撃を行う」

「どうして、後方に?」

「そこから撃てば、敵は我が艦隊が自身の後方にいると勘違いするはずだ。そうなれば、敵は反転することになる」

「なるほど、そういう作戦ですか。さすがは海野大尉ですね」


 褒められてしまった。しかも、女性にだ。喜びよりも、何かこっ恥ずかしい思いに駆られる。


「ではこのまま、敵の後方へと回ります」


 この人型重機は、さすがに空を飛ぶことが前提に設計されていないためか、速力が遅い。時速百キロ程度だ。普通の航空機ならばあっという間に追いついてしまうだろう。

 が、今は夜だ。真っ暗闇の中、航空隊を飛ばすことはまずないし、飛ばしたところでほとんど役に立たない。だから、敵航空機が上がってくることはまず、考えられない。

 それ以上に、こちらの攻撃が空からだとは思わないだろう。三十センチ角の大きさの弾を放つ航空機など、常識的に考えればない。普通は主砲弾を放たれたと勘違いする。

 だからこそ、後方から撃つ。そうすれば、我々が後ろにいると勘違いしてくれるはずだろう。


 敵艦隊後方、およそ十キロの地点まで来た。二十五キロ先に、敵の空母が見える。まずはあれが標的だ。


「ふっふっふっ、我がフェルゼンヴァーレのリヒトシュトラールを食らわせれば……」

「おい、何か言ったか?」

「あ、いえ、何でもありません」

「まあいい。今、画面の中心に映っている空母の、その中央部を狙え」

「はっ!」

「よし、攻撃始め!」

「攻撃準備! 照準、敵空母中央、ロックオン、攻撃始め!」


 一瞬、妙な言葉を口走ったな。フェルゼン何とかと言ってたが……などと勘ぐっているうちに、この人型重機という機体の左腕からは、ジャーッという音と共に真っ赤な火花が散る。と同時に、二十キロ先の空母に向かって鉄の塊が放たれた。


「弾着、今!」


 だが、それだけの距離をわずか四秒ほどで着弾する。僕はその暗視カメラの画像に見入る。

 一瞬、甲板に穴が開き、煙が上がる。が、数秒ほど遅れて大爆発が起きる。エレベーター部分を吹き飛ばし、その下から猛烈な火柱が上がる。


「やった、弾薬庫に命中したぞ!」


 僕は思わず叫んでしまった。戦艦の残骸で作り出した鉄の弾が、空母を一隻、撃破したのである。あそこまで派手に爆発すれば、おそらくは沈没は確実だろう。


「よし、もう一隻の空母をやるぞ。攻撃開始だ」

「アイサーッ!」


 火を噴き出しつつ傾き始めたその空母の隣に、さらに大型の空母がいる。同じグローム級ではあるが、搭載機数を増やすために船体が少し長くなっている。

 が、大きさは違えど、同型艦だ。ということは、同じ場所が弱点、ということになる。


「攻撃準備! 照準、敵空母中央、ロックオン、攻撃始め!」


 再び左腕の短い砲身が火花を散らす。猛烈な勢いで、熱せられて真っ赤になった鉄の塊が、敵空母の飛行甲板の真ん中にあるエレベーター目掛けて飛翔する。

 あれを敵が見れば、艦隊後方から巡洋艦クラスの砲撃を受けたと勘違いすることだろう。ものの4秒後にそれは弾着し、再び爆発を誘発する。


「やったぁ、当たりましたよ!」


 無邪気に喜ぶヘレーネ少尉。今度の攻撃は当たった場所が火薬庫のより高密度なところに直撃したのか、先ほどよりも火炎と爆風が大きい。やがて、船体が真っ二つに割れ始めた。


「あらら、船体が折れちゃいましたね」

「ああ、貴様の攻撃がよほどいいところに当たったようだ」

「ところで、あの船には何人くらいの人が乗ってるんですかぁ?」


 戦いの真っ最中だというのに、妙な質問をしてくるやつだ。僕は答える。


「そうだな、正規空母となれば、およそ二千人以上はいるはずだ」

「えっ、そんなに乗ってるんですか!?」

「当たり前だ。戦艦ともなればさらに多く、だいたい三千人はいる」

「じゃ、じゃあ、その二千人って……」

「あの状態ならば、退艦命令がだされているだろう。が、千人以上は爆発か、水没で死ぬ」

「そ、そんなに大勢を、私は……」

「何を言っている。我々とてつい先日の戦いで、戦艦『ほうらい』を失った。三千三百人余りの乗員の多くが死んだんだぞ。それを思えば、そのお返しに過ぎん」


 何を今さら驚いている。今は戦時下だ、二千、三千人が戦死するなど、ごくあたりまえの光景だぞ。


「ち、ちなみに、駆逐艦そよかぜは……」

「元々は二百四十人ほどの乗員だが、今は救助した兵員が五百名ほど乗っている」

「ということは、あの船にいる人たちよりたくさんの人を、私は殺しちゃったってことですか?」

「まあ、そういうことになるな」


 急に戦意を失ってしまったようだ。しかし、お前は軍人ではないのか? 僕は逆に聞き返す。


「貴様が乗っていた艦があるだろう。それはどれくらいの人員が乗っているんだ?」

「はい……強襲艦ですからね、せいぜい八十人です」

「は? そんな少ない人数で、艦が動かせるのか」

「たいていのことは自動化されてますからね。乗員の端数近くは人型重機のパイロットか、整備員ですよ」

「なるほど、一撃辺りの被害は小さい、ということか。だが、我々の艦は少なくとも二百人以上、大型艦となれば二、三千人の乗員がいるのが当たり前だ」

「そ、そうなんですね。我々の駆逐艦ですらも、乗員はおよそ百名程度。それがだいたい一万隻で一個艦隊を形成してます」

「は? い、一万隻!?」

「はい。三十万キロ離れたところから撃ち合うのです。平均して、だいたい一時間程度の戦闘で、二パーセントほどがやられますね」


 一万隻の二パーセントとは……つまり、二百隻はやられるということか。一隻当たり百人なら、二万人じゃないか。今の戦闘など、はるかに凌駕した死傷者数だぞ。


「と、いうことはだ、貴様の戦場よりもまだこちらの方がマシだということではないのか」

「は、はい、数で言えば、そう言うことになりますね。ですが我々の戦場では、艦が徐々に沈むなんていうじわじわとした死に様を見せることはありませんからね。ビーム砲で、一瞬にして消されます。ですから、このような生々しい戦場には慣れていないんですよ」


 なにか、とんでもないことを言いやがったぞ。一瞬にして消滅する? どういう砲を使っているんだ、こいつらは。

 でも、こんな小さな人型重機という機体だけであれだけの破壊力を持つ。となれば、それより大型の艦ともなれば相当な攻撃力なのだろう。実際に、そのような武器を見てみたいものだ。

 いや、今はそれどころではない。


「まだ終わりではない、続いてあの大型戦艦を撃つぞ」


 僕は次の攻撃目標を示す。


「ええっ、まだ撃つんですか!?」

「当たり前だ。あれをやらなければ、いずれ我々に追いついてくる。そうなる前に、主力艦をすべて叩かなくてはならんだろう」

「で、ですがすでに二隻、沈めちゃってますよ」

「でかいのが一隻、残っている」

「どうしても、やるんですか?」

「どうしても、だ」


 あれに三千人ほどの人員が乗り込んでいると聞いて、攻撃を躊躇っているようだ。が、我々の目的は、我が艦隊を無事に祖国へとたどり着かせることだ。そのためには、大型艦をすべて沈める。

 そうなれば、あの艦隊は引き返すしかなくなる。しかも後方から攻撃していると勘違いしているはずだから、大きく迂回しながらの撤退となるはずだ。または、後方にいないはずの架空の艦隊を探し出して、反撃を企てるかもしれない。どちらにしても、傷ついた我が艦隊からやつらを引き離すことができる。


「命令だ、敵の前から二番目の主砲の下を狙え。攻撃始め!」

「は、はい、攻撃準備、目標、敵戦艦第二砲塔下、ロックオン、攻撃始め!」


 左腕からは火花と共に、真っ赤な弾がまっすぐ敵戦艦のいる方角へと向かって飛んでいく。やがてその戦艦からも、大爆発が起きた。

 さすがに戦艦はそう簡単には沈まない。砲塔が吹き飛んだものの、船体自体は無事だ。区画を分け、弾薬を分散している可能性が高いな。


「よし、残る主砲二基の根元にそれぞれ攻撃を加える。攻撃始め!」

「は、はい、攻撃準備、目標、敵戦艦第一砲塔下、ロックオン、攻撃始め!」


 ヘレーネ少尉はこちらが命じた通り、残り二基の主砲の根元に次々と弾を当てていった。その度に爆発が起き、さすがの戦艦と言えども艦が傾き始める。

 すでに最初に攻撃した空母はほぼ水面より消えかかっている。二隻目はもはや沈没しており、海面上に大勢の乗員が浮かんでいる。それを駆逐艦や巡洋艦が救助に向かっている様子が見える。

 一方の戦艦だが、じわじわと沈没していくのが見える。このまま緩やかに沈むのかと思いきや、いきなり大きな煙を上げて大爆発を起こす。

 どうやら、主要な弾薬庫に引火したらしい。

 それがとどめとなり、スラーヴァ級戦艦はあっという間に姿を消した。


「ちょうど弾切れです。帰投しますか?」

「そうだな。あ、いや、もうしばらく様子を見る。敵艦隊が反転するかどうかを見定めねばならない」


 しばらくの間、我々は敵の動きを監視し続ける。攻撃を避けるため、探照灯なしでの乗員救助が行われており、なかなか動こうとしない。一方で、一部の駆逐艦と巡洋艦が、後方へと向かった。

 おそらくは、奇襲を仕掛けてきた「艦隊」を探しに向かったのだろう。

 だが、あれを攻撃したのが、高度二千メートルにいるこの航空機ほどの大きさの武骨な兵器だとは思うまい。電探を左右に振りながら、必死にいるはずのない艦を探そうとしているのが見える。

 やがて、救助を続けていた艦も、救い出せるだけの乗員を乗せたまま、反転を始める。先ほどの索敵に向かった感とは別の方角へと向かい、そこで反転した。

 気づけば、夜明けを迎えていた。


「ふわああぁ、あの大尉殿、そろそろ帰りましょうか」

「そうだな。敵艦隊の撤退を見届けた。追ってくることはないだろう」


 大型艦を三隻撃沈し、敵艦隊を撤退に追い込んだ。それを見届けた今、もう我々にはここにとどまる理由がない。そしてこの機は「そよかぜ」へと帰投する。


「そうか。三隻撃沈、か」

「はっ、『ほうらい』をはじめとする我が艦隊の戦没艦らに、報いることができました」

「了解した。副長も夜通しの作戦で疲れただろう。直ちに休め」

「はっ!」


 ヘレーネ少尉はといえば、帰るなりさっさと副長室で寝てしまった。いや、寝かせたといった方がいい。またいつ、別の艦隊が現れるか分からない。その場合、反撃が可能な兵器はあれしかない。その使い手を休ませることが、今は最優先事項である。

 とはいえ、僕も疲れた。吊るされたハンモックに軍服姿のまま乗り込むと、そのまま寝てしまった。

 この南国の、明るい日差しが照らす真昼間にも関わらず、僕は死んだように眠ってしまった。

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