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#16 大穴

「来ました、機影多数、距離四百、数およそ三百! さらに後方より機影探知、数、さらに増大!」


 いろいろとあった昨夜は、おかげでお互い、よく眠れる結果となった。が、その翌日の正午前には、ついに敵は動き出した。我々を基地手前まで引き付けてから、陸上機で一気に叩く。これならば、艦艇の損耗なしに攻撃可能な作戦だ。

 考えてもみれば、我が皇国海軍の総力を挙げたといっても、高々十隻ほどの艦隊だ。しかも主力戦艦は敵国製であり、その強みも弱点も知れた船。下手に機動部隊を送り出すよりも、陸上基地に航空機を集結させて、接近したところを叩いた方が効率がいい。大勢力となれば、艦隊上空に敵機が達した時点で大方、勝敗が決することとなる。要するに、我が皇国艦隊の敗北が確定する。

 だから、その手前でどれだけの敵を落とせるかが勝負の分かれ目となる。


「今回ばかりは、レールガンだけでは掃討不能だ。ビーム砲の使用を、許可する。戦闘機には目もくれるな、後方にいる中型、大型の機体のみを狙い撃ちする。できるか?」

「はい、それなりにかたまっていれば、かなり落とせると思いますが」


 そう言いながら、電探の画面を見る。そこに、敵の姑息さを感じ取る。

 二十機ごとの集団で、高度を分けながら戦闘機隊も爆撃・攻撃機隊も分かれている。つまり、集中的に狙い撃ちできないよう敢えて分散しているようだ。これもおそらく、前回のあの攻撃から学んだのか。

 いや、そんなはずはない。あの時の七十機は全滅したから、彼らにはビーム砲のことは知られていないはずだ。なのにどうして、攻撃隊を分散するのが有効だと分かったんだ? 軍令部でも、かなり上層部しか知らない情報だ。

 つまり、軍令部内に情報を漏らしているやつがいる。我々も西方国を通じてスラブ大帝国の内情を探っているが、それと逆のことをされたようだ。

 くそっ、ただでさえ不利な状況だというのに、軍令部内に国を「売った」やつがいるということか。それも、将官級の人物の中に。なんという裏切り行為か。

 それからこの機体は全速で進み、敵攻撃機隊まで距離百二十キロに迫る。そこで高度を落とし、攻撃準備に入った。


「これだけ多いと、闇雲に打つわけにはいかないな。やむを得ない、まずは攻撃力の高い後方の大型爆撃機を落とす。レールガン、攻撃用意」

「はっ、レールガン、弾装填、攻撃用意よし!」

「攻撃始め!」

「はっ、目標ロックオン、攻撃始め!」


 距離百二十キロまで迫ったこの機は、まずは大型機を狙い撃つことにした。この距離でも、大型機なら狙えることは証明済みだ。

 つんざくような音を立て、火花を散らしながらレールガンから次々と弾が放たれる。真っ赤に光る弾が、遠方の敵に向けて飛翔する。

 近くで撃っていれば敵も気づくだろうが、目視すら不可能な距離から高速かつ正確な弾を放たれては、さすがの敵とて手も足も出ない。次々と、電探から大型機を示す大きな点が消えていく。撃たれたこともわからぬまま、急に機体が制御を失い墜落しているのだろう。自身に置き換えたなら、恐怖以外の何者でもない。

 といっても、携行する五十発までしか持てない。五十機の敵を落としたが、まだ大型機は十機以上残っている。

 これでひるんで撤退してくれればありがたいのだが、今回の敵はあまりに多過ぎて、攻撃を止めるつもりがない。戦闘機、攻撃機、爆撃機を合わせてもまだ三百を超える大編隊で、その進撃は止まらない。


「では続いて、中型機を落とします。ビーム砲、発射許可を」

「了解だ。発射を許可する。この場合、前回のようにまとめ撃ちするより、一機一機を狙い撃ちした方がいいか?」

「はい。敵が思いの外、散らばってますからね。また、携行弾数は全部で六十発。つまり、六十機が限度です」

「やむを得んだろう。今回は出来るだけ確実に打撃を与える方を選ぼう」

「了解です、では、ビーム砲、発射用意!」


 前回の戦闘以来、久しぶりに使う右腕の砲身を、敵に向ける。

 僕はふと、電探画面を見る。小型の機体が、全速力でこちらに迫ってきている。あれは戦闘機隊だな。どうやらさきほどの攻撃で、こちらの位置を把握したらしい。


「戦闘機が接近中だ。とにかく、攻撃機を一機でも多く落とせ」

「了解、標的、六十機、ロックオン! 攻撃始め!」


 ババババッというけたたましい音と共に、青白い光が連射されていく。レールガンとは比べ物にならないほどの連射速度だ。これですべて、命中するのか?

 ビームというのは撃つと同時に着弾するため、電探の点が瞬く間に消えていく。三十発を撃ち尽くし、弾倉を捨て、次の弾倉を取り付ける。再び猛烈な連射速度で放たれていく。


「撃ち方、終わり! ビーム砲、弾切れです!」


 きっかり、六十機が消えた。が、依然として三百機近い大編隊のままだ。

 その半数近い戦闘機が、正にこちらに向かってくる。後方からは、味方の陸海軍機らしき機影も見えるが、二百キロ以上離れていてまだ遠い。僕はヘレーネ少尉に命じる。


「一時『そよかぜ』へ帰投する。レールガンの弾が準備されているはずだから、それを装填して再び上がる」

「はっ! では、帰投します!」


 さて、そのまま敵を振り切るため高高度まで上昇し、そこで反転して帰投しようと考えた。

 が、時すでに遅し、敵戦闘機群が追い付いてきた。


「敵機、多数! シールドを展開しつつ、上昇します!」


 まるで田畑に襲い掛かる飛蝗(バッタ)の群れのように、おびただしい数の機体が押し寄せてきた。上昇するこの機体に向かって、大量の機銃を浴びせかけてきた。

 四方八方から、敵が押し寄せてくる。猛烈な機銃掃射で、まるで隙がない。何機かが一斉射撃を加え離脱しては、別の編隊が間断なく撃ってくる。それをほぼ四方からやられるから、逃げ場がない。それを見えない壁、シールドがはじき返すが、まるで嵐の中を突き進むかの如く、鉄の弾丸が豪雨のようだ。

 接近戦すら叶わない。ただ、シールドに頼るのみだ。

 これだけの敵に囲まれても、いつものように変化(へんげ)しないへレーネ少尉が、その頼みの綱も尽きる寸前であることを知らせる。


「そ、そろそろシールドが、もちません!」


 ビーッビーッビーッという警告音らしき音が響く。いよいよ、この機体の持つあらゆる能力が限界に達したようだ。頼みの見えない盾も、今や破られようとしている。


 ああ、ついに僕は、ここで死ぬのか。

 死は、覚悟していた。だがもう少しくらい敵に打撃を与えたかった。そうすれば、幸運艦の「そよかぜ」ならなんとか生きて帰ってくれるかもしれなかった、と。


 と、僕が死を覚悟した瞬間だ。それまで嵐の中にいるようなほど降り注いでいた銃弾の雨が、急に消滅する。


「なんだ? まさか敵も弾切れか?」


 だが、数百の戦闘機の弾が切れるとは、とても考えられられない。おかしいと思いつつ辺りを見渡した瞬間、僕は壮絶な光景を目の当たりにする。

 青い空に、ぽっかりと空いた巨大な黒い穴。それは強烈な勢いで、周囲の空気と海水、そして群がる戦闘機を吸い込み始めていた。


「きゃあああぁ、た、大尉、吸い込まれますぅ!」


 もちろん、この人型重機もその真っ黒な穴へ猛烈な力で吸われていく。抗う間もなく、その穴の中を潜り抜けてしまった。

 その穴の向こう側は、真っ暗な空間だった。こちらから向こうを見れば、目前にまるで青い穴が開いているようだ。そこから次々と多数の敵戦闘機がこの暗い空間内に放り込まれていく。

 その真っ暗な空間に、青く光る円形のようなものが見える。一見すると爆発のようだが、あれはさっき潜ってきた穴だ。青い光は、元の世界を示している。


「何とかあの穴に、飛び込めないか?」

「やってみます」


 航空機が次々と吸い込まれていく中、人型重機はそれらを避けつつ青い穴へと向かう。

 が、やや遅れて、大量の海水が流れ込んできた。しかしこの黒い空間では、それはあっという間に蒸発して消えてしまう。その海水を避けつつ、なおも穴を目指す。

 しかしそこで、とんでもないことが起きる。

 忽然と、穴が消えてしまったのだ。


「あ、あれ? 穴が、消えちゃいました」


 ヘレーネ少尉がそう、僕に報告する。が、言われるまでもなく、僕も認識している。


「なんてことだ……しかしここは、どこなんだ?」


 あたりは真っ暗闇、でもないな。よく見ると星空が見える。それも、無数の星が、上から下まで広がっている。ここには陸も海もない。どっちが上かしたかもわからぬ世界だ。

 その中に、ひと際明るい光点が見える。


「あっ!」


 それを見たヘレーネ少尉が叫ぶ。


「なんだ、どうした!?」

「いえ、ここ、見覚えのある場所だなと思ったんです」

「見覚えがあるって、ではここはどこなんだ?」

「中性子星域ですね」

「ちゅ、中性子、星域?」

「私が『そよかぜ』に辿り着く直前まで、連盟軍と戦っていた場所ですよ」


 なんということだ。つまりここが、彼女がいっていた宇宙空間というやつか。

 あたりを見渡すと、先ほどの戦闘機がいくつも漂っている。中の者は……首のあたりを握りしめたまま、動かなくなっている。


「宇宙には空気がないので、呼吸ができません。あの航空機の機密性では、とてもこの宇宙空間内で生き延びられないでしょうね……」


 敵ながらも、何とか助けてやりたいと思う。が、今は何もできない。数十機、いや百機以上もの敵戦闘機がこの辺りを漂いつつ、乗員らが死んでいくのをただ眺めるしかできなかった。

 とはいえ、こちらも同様だ。たまたま宇宙という場所に適用した機体だったから助かってはいるものの、辺りを見ても陸地も何もない。

 こんな場所で、どうしろと?

 このままでは、いずれここの空気も尽き、死に絶えるだけだと僕は覚悟した。その時だった。

 突然、聞いたことのない声が響く。


『三番機、ビーコンを確認。ヘレーネ少尉か? こちら第二強襲艦隊二番艦だ、生きていたら、応答せよ』


 それを聞いたヘレーネ少尉が、即座に答える。


「二番艦所属三番機より、二番艦へ。パイロットのヘレーネ少尉です、生きてます」

『了解した。現在、貴官のいる場所より距離七千キロの地点にいる。直ちに、そちらへ向かう。その場にて待機せよ』

「はっ、了解です。現地点にて、待機します」


 そのやり取りを、呆然としたまま僕は聞いていた。するとヘレーネ少尉が振り返り、こう僕に告げる。


「母船である強襲艦が、こっちに向かってます。私たち、助かったんですよ!」

「いや、それは分かるが……しかし、僕は異世界に来てしまったと、そう言うことなのか?」


 そう、立場が逆転してしまった。つまりこちら側はヘレーネ少尉の世界、となると僕が「異世界人」ということになる。

 そうだ、それよりも「そよかぜ」はどうなってしまうんだ? 攻撃隊がまだ向かってるとしたら、人型重機を失った彼らにはもう、なす(すべ)がない。

 それどころか、家族も、祖国も、もう見ることができないのか?

 唖然とした僕に、ヘレーネ少尉がこう言い出す。


「強襲艦が来たら、すぐにラヌン島海域上空に戻りましょう。もしかしたらですが、戻る方法があるかもしれないんです。そして、『そよかぜ』やその他艦隊の人たちを助けるんですよ」


 えっ、ラヌン島海域上空に戻る? 僕はその言葉の意味が、さっぱり分からない。すで穴は閉じられており、もう帰る方法はないということではないのか。

 まさかヘレーネ少尉は、あの穴の正体に気付いているのだろうか。そういえば以前、ワームホール帯とかなんとか言っていたな。まだ希望はあるということなのか?

 などと考えているうちに、灰色の巨大な箱型の何かがすぐ脇を通り過ぎる。


『こちら強襲艦二番艦、三番機、応答せよ』

「こちら三番機、ヘレーネ少尉です」


 なにやらやり取りがされているが、どうやらあれに乗り込むらしい。


「さ、海野大尉、強襲艦が来ましたよ。こちら三番機、これより着艦する、着艦許可を乞う」

『二番艦より三号機、着艦許可、了承。右ハッチ開く』


 えっ、あれが強襲艦だと? とても「艦」には見えないが。それに、さっき七千キロと言ってなかったか? まだものの数十秒も経っていないが、もうたどり着いたのか。恐ろしい速度で迫ってきた強襲艦と呼ぶその灰色の「船」の中へ、僕は向かうことになった。

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