スパイク!
「こ、ここどこ?」
マコトは辺りをキョロキョロと眺め回していた。
彼の周りにはやけに古めかしい建物や歴史の教科書の中の人のような格好をした人達がいた。彼らは一様に驚愕の目をマコトに向けていた。
「な、何だいあれは?」
「妖怪じゃないか?」
「南蛮人じゃないのか?」
その目つきからして彼が歓迎されていないことは明らかだった。
ほ、本当に意味がわかんない……僕、さっきまでグラウンドにいたよね?
そう、彼は先程まで自分が通う中学のグラウンドにてサッカーの部活動に参加していた。久しぶりに試合に出場する機会を得たので、絶対に結果を残すと意気込んでいたのだが、それが空回りして、いいタイミングで自分の所に来たボールをシュートしようとして空振りしたのと同じタイミングで視界がぐにゃあっと歪んで気がつけばここにいたのだ。
……そっか!これは夢の中なんだ!きっとそうだ!
半ばそうであれと願うように自分の頬をつねってみると、そこには確かな痛みがあった。
マコトの足は自然と震えだした。
え?ほ、本当に夢じゃないのかな?これ……。
そんな彼の不安を掻き立てるように、十手を持った男達がわらわらと彼の周りに集いだした。
あれは歴史の教科書とかで見た悪人を捉えるやつだ、とマコトが確信し、身構えた瞬間、何処かから声が響いてきた。
『行きたい場所をイメージしながら地面を蹴るんだ。なるべく強くね』
「えっ?」
『はやく!!』
もうわけがわからないが、何かをしないと酷い目に合うと確信したマコトはさっきまでいたグラウンドをイメージしながら、地面を蹴りつけてみた。
すると、彼の周りの景色は……見たこともない生物がウヨウヨしてしていた。
いや、あれは……恐竜だ。
慌てふためいているマコトの脳内に、再び声が語りかけてきた。
『ちゃんとイメージするんだ。君、今余計なこと考えてたろ?』
「そ、そんなこと言われたって!!」
「ほら、前方にティラノサウルスが……」
「うわあああああ!!?」
前方から図鑑や映画でしか見たことのない巨大な生き物がこちらを睨めつけている。
あ、ヤバい。
マコトは今度こそ死を覚悟した。
帰りたい帰りたい帰りたいと何度も心のなかで叫び、その勢いを爆発させるように蹴り上げた。
その瞬間彼の視界がぐにゃりと歪んだ。
さっきとはまるで違う感覚。
彼の視界は何か管のようなものを凄まじい速さで辿っていた。
そして彼は……さっきまで自分が立っていたグラウンドに再び立っていた。
「あれ?戻ってる?」
「おい、マコト!」
「え?」
目の前にボールがあることだけは認識できた。
だが、チームメイトの呼びかけに反応すると同時に視界が真っ暗になった。
『やあ、起きたかい?』
「え、もしかしてさっきの声の……」
『ああ、そうだよ。いきなりすまなかったね』
「あの、ここは?」
『ここは君の意識の世界だよ。ここでは時間が経たないから安心していい。まあ、あまり長くはいれないけどね』
「……夢じゃないんですよね」
『残念かもしれないけどね。でも、楽しいこともあるかもしれないよ』
「どういうことですか?」
『そりゃあ、慣れれば楽しい能力だからね。君も良い経験をしただろう?』
「死ぬかと思いましたよ!」
『まあまあ、結果オーライってことで』
暢気な謎の人物にマコトは内心腹を立てていたが、さすがに得体が知れなさすぎてあまり文句を言う気は起こらなかった。
「で、でも、こんなの……どうしろっていうんですか」
『君にはちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだ。過去を変えようとする悪い奴らをやっつけてほしいんだけど』
「話聞いて下さいよ!」
『すまない、もう時間がないからね。では、また会おう』
「えっ、そんな……あっ」
再びマコトの意識は現実世界で目を覚まし、その顔にはボールが直撃した。
結局その日は 試合での活躍はできずに終わってしまった。
だが、その日から彼の人生はガラリと変わることになる。
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「おい、マコト起きろ。仕事の時間だぞ。何ぼーっとしてる」
「……ん?」
いつの間にか眠っていたのだろうか、目の前には同じ時間警察のマナミの顔があった。少し怒っている。いや、それはいつものことだ、とマコトは思った。彼女はいつも機嫌が悪い。
「誰かが過去を変えようとしている。さっさと捕まえるぞ。それからぼーっとしようぜ」
「……うん、わかった。行こう」
マコトは立ち上がり、光線銃の腰に装着した。どうやら今日も忙しくなりそうだという確信めいた予感と共に。
彼とマナミは床を強く蹴り、別の時代へと飛び立っていった。