Declare war Ⅱ
「治療が終わったあと、本当の事が知りたくてモトヤマさんを探したよ。でも、あなたはもうロウドにはいなかった。だから私、たくさん殺して聞きました。悪いのは日本人? 京華人? モトヤマさんはどこってね。ちょっと痛めつけたら、みんなすぐに口を割ったよ。外務省での所属部署やアフリカ部局のメールアドレス、電話番号。何号棟の何階にあるか、年間行事や指示命令系統。それにあなたの自宅、電話番号、奥さんと娘さんのことも」
本山は、自分の出国後にロウドで連続して起きた、強盗殺人事件を思い出した。
「妹達のことは絶対に許さない。でもね、それだけじゃない。あなた達日本人は自分の手は決して汚さず、ロウド人を殺すのに同じロウド人を使った。そして、陰で私たちのことを[タマ]と呼んでいたよね」
「妹さん達のことは気の毒に思う」
「それだけですか?」
「元はと言えば、金に目が眩んだロウドが京華に寝返ったからだ。鉱山だけじゃ無い。医療や教育に日本がいくら使ったと思っているんだ」
弁解のしようが無いのは分かっていた。それゆえ、説得力の無い言い訳しか思い浮かばない。本当に言いたいことは、里沙と裕子だけは助けてほしい、ただそれだけだった。だが、バルボアの意識を少しでも里沙と裕子から逸らしたいと思う程度の冷静さは保っている。
「それは日本の言い分。ロウドにはロウドの理屈があるよ。自分達の資源を、高く買ってくれる方に売るのは当たり前でしょ」
「それでロウドは潤ったか?」
「ノーだね。潤ったのは京華と結託していた政治家だけ。モトヤマさんが言う通り、日本は病院や学校も作ってくれた。ロウド人に日本語も教えてくれたね。京華みたいに雇用も奪わなかった。でもそれは、ロウドに敬意を払っていたからじゃ無く、波風立てずに長く搾り取るためでしょ」
その通りだった。取れるものは取れる時に残らず取る京華と、根本的には変わらない。
「私たちはなぜ[タマ]なの? 貧しいから? 肌の色が黒いから? 裸足で歩いているから? それとも、使い捨てだから?」
答えられなかった。
「私はロウドも日本も京華も、モトヤマさんも憎いよ。だからこれを使う事にした。あなたが渡したウィルスの残り。完全には信用出来なかったから、何かあった時の保険に少し残しておいた」
バルボアは、小さなガラス瓶に入ったピンク色の粉末を振ってみせた。
「これは私の戦い。日本だけじゃなく、京華もロウドも、全て自分たちの利益と主義主張を優先させた。私も同じ事をするよ。私は自分の正義のために、何でもするね」
「こんな事をしても、何も変わらないぞ。たった六時間で、国家の威信を地に落とす決定が成される訳がない」
「オッケーね。六時間でも、六年でもきっと同じ。日本人も、エボラ出血熱を味わえば分かるよ。痛みを伴わない教訓からは、人は何も学ばない」
バルボアがスマートフォンの位置を変えて客車内を映した映像に、裕子と里沙が映り込む。
「やめてくれ!」
本山は思わず叫んだ。
「だったら頑張って政府を説得することね。そうそう、全車両の内外にはカメラを設置してあるから、おかしな事をしたら分かるよ。奥さんに連絡するのもダメ。私はウィルスを使うことに何の抵抗も無いから、良く考えてね。また何かあったら連絡するよ」
バルボアは電話を切った。